パリ市内から北へ、高速道路の1号線で50KM。約1時間で、花束加工会社「アクアレル」がある村まで出かけた。1860年までは、さとうきび畑が広がる肥沃な土地に、アルコールの醸造所があった場所である。
パリ郊外のこの近辺は、食料自給率130%の農業国フランスの中でも、もっとも地味が肥えている豊かな場所である。広い土地に小麦などを栽培している。
平均栽培面積が700ヘクタール。フランスの平均耕地面積が60ヘクタールだから、かなりの大農経営ということになる。近くには、お城を所有している農家もあるくらいだ。
ちなみに、近くにあるお城を、日本がバブルだった20年ほど前、帝人社長夫人の大屋政子さんが買収した。この城は、ジャン・コクトー作の映画「美女と野獣」の撮影に使われた場所である。静寂、幽玄というか、不思議にうす気味が悪い城である。いまは日本の某企業が、20年契約で夏セミナーに使っているらしい。ゴルフコースに、ホテルが併設されている。
話しは逸れたが、アクアレル社は、第二次世界大戦時に米軍の爆撃で壊された醸造所の建物をリビルトして、一階を花束加工場に改造した。
ビール工場を建設したことがある松島さんによると、「この場所には醸造タンクがあったはず」なので、高い煉瓦作りの建物なのだそうだ。二階をオフィスに使用している。
管理部門は10名ほどである。従業員は、75名だが、母の日など、もの日には、作業員が150名に膨れ上がる。いったい、その百人がいったいどこから来るのだろうか?聞きき忘れてしまった。
アクアレルのアンリィ・ドゥ・モーブラン社長の発想はユニークだ。もともとIT企業を経営していたから、合理的なのだろう。
アメリカの投資家、バフェト氏にお金を入れてもらってはじめた花事業だった。この会社は、もとは花の専門店チェーンである。2000年代初頭は、古い専門店をつぎつぎに買収。一時は、パリを中心に、50店舗ほどを展開していた。
いまは実店舗を4店舗だけを残して、ネット専業の小売りに変わっている。フランス全土に花束をデリバリーしている。一部は、隣国にも配送している。アクアレルの年商は、昨年で50億円。年率10%で売り上げは伸びている。理由は後で述べる。
実は、JFMAの国際セミナーでも、アンリィ氏には、昨年話してもらっている。しかし、会社の来歴は、はじめて知った。わたしたちが現地まで足を運んで、工場を見せてもらったおかげである。
アンディ氏によれば、こんな辺鄙な村に、花束の加工場を作った理由は3つである。
(1)ここまで来ると、従業員の賃金がかなり安い、
(2)パリとオランダの中間の位置にあること(なぜなら、仕入は100%がオランダ経由だから、物流が安くなる)、
(3)一日でパリ全域にに花束を配送可能である、
また、この村のひとたち75人は、花束の加工技術がある10年選手である。すべてが手作りのブーケである。
立地の選び方は、合理的である。花束の加工の仕組みについても、システム的におもしろい発見がたくさんあった。小田急フローリストのネット販売を担当している斎藤さんも、収穫が多い視察だったはずである。
ウエブ検索をしていただければわかるが、花束のデザインと大きさが、きちんと標準化されている。出荷用の段ボールの底辺が、30cm×30cm。高さは、40、50、70cmの3通りしかない。9割がたが、高さ40cmのもの。2カテゴリーの花束しか用意されていない。パッキングなどの作業性を高めるためである。
半分は、手づくりのブーケ。いわゆる、「ビダマイヤー」(オランダ語)と呼ばれるラウンドブーケ。39ユーロ(4千円)。20種類くらいから選べる。一人当たりの時間生産性は、7~8個。悪くはない。花材のセットを緑色のバケツに入れる。制作者は、バーコードで管理されている。作業生産性がわかる。
もうひとつのタイプは、バラだけのブーケ。モノブーケが、3種類。白、赤、赤とピンクの混色。ミックスブーケは、5色である。すべてアフリカの契約農場3ヶ所からの直仕入である。42cm丈の標準サイズで、たぶん仕入値は1本20円である。最終製品は、価格が39ユーロ。10ユーロ均一料金(1000円)でフランス国内に配送する。
標準パッケージは、30cm×30cm。横4個、縦3個を並べると、120cm×90cmの木製パレットにきちんと乗せられる。
あとは、段ボールのたたみかたや、クリザール入りの保水容器など、包装の仕方がよく考えられている。容器は、特許を所有している。文章の説明は難しいので、容器やパッキングの写真は、松島さんのblogを参照のこと。(笑)