昨日の総選挙は、結果がきわめてわかりやすかった。立民(-14)と自民(-15)の減少分が、ほぼ維新(+30)に流れて終わった。ここで、選挙の勝ち負けを論じることが主題ではない。投票締切直後(午後20時)にメディアが流した予想が大外れだった理由を考えてみたい。
NHKがもっと大々的に出口調査をしているが、日経新聞のオンライン速報が、新聞系報道の典型だろう。日経から20時すぎに配信された記事の見出しは、「与党過半数の勢い 自民苦戦、立民は議席増 衆院選」(当日20:06配信)である。3つとも大きく外している。
わずか4時間後に、この見出しが次のように変わっていた。「自民が単独過半数確保へ 与党、絶対安定多数」(翌日00:46配信)。この時点では、立民(-14)と自民(-15)、維新(+30)にほぼ決まっていた。
メディア(出口調査)の予測がこれほど外れたことは記憶にない。珍しい現象がなぜ起こったのか?原因をあとづけで議論している素人評論家が何人かいた。一番ひどいコメントは、「投票所に入って、候補者の政策を読んでから投票先を変えたのかもしれないから」だった。
政治に関してはプロであっても、調査に関しては恐ろしいほどアマチュアのレベルだ。とんだ識者がいたものだ。出口調査であって、「入口調査」ではないのにだ。
それは忘れてしまうとして、今度ばかりは、予想する側が「調査バイアス」の存在を忘れていたのではないのか。終わってみれば、結果はとてもシンプルだった。比喩的に言えば、465票(議員定数)の中で、無党派層で前回は自民と立民に入れていた(29票)の半分ずつが、維新(30票)に移ったのだった。
二者択一(自民+公明 VS 立民+共産)になったから、もともと接戦の選挙区が多かったことが予測を難しくしていた。ところが、キャスティングボードを握るのが第3選択肢(維新)になったから、二者択一だけの予測では意味がなくなった。つまり第三番目の選択肢の存在が、予想の確度に強い影響を与えてしまったのである。
これからは、わたしの推論である(外れている可能性もある。あくまでも仮説推論である)。
出口調査のデータをベースに予想するときには、統計的なある前提が存在する。それは、出口調査に答えてくれる投票者が、「投票所を訪れる人からランダムに選ばれている」という前提である。投票先が誰か(政党)になるかには依存せず、来場者の一定比率が調査対象者になるという前提である。
わたしは、その前提は一般的には満たされないと考える。投票者が誰(どの政党)に入れるにせよ、「無党派層は出口調査に協力しない確率が低いだろう」。これを、調査対象者の「選択バイアス」と呼ぶ。支持政党が明確な投票者よりは、無党派層は出口調査に協力しない傾向があるだろう。
お判りいただけたと思う。拮抗する選択肢がふたつ(自民VS立民)あった場合では、相対的に選択確率が低い3番目の選択肢(維新)があると、この選択肢の存在が「二項対立」だと思っていた推測した予想を誤らせてしまう可能性がある。かりに、予測のためのサンプルから「維新に投票した無党派層」(出口調査には協力しなかった)の10%程度のサンプルを取り除いてしまうとしよう。
結果はどうだろう?立民と拮抗していた維新の候補は、出口調査による予想では落選したはずである。比例区ではどうだろう?これも予想が外れたと同様に想定ができる。出口調査で、比例区への投票予想で、維新は過小評価されている。実際は、自民と立民から半分ずつ、合格者(落選者の復活)をいただいている。こちら(比例区の外れ)も半分程度の予測外れに貢献している。
結論を繰り返すと、出口調査では、調査協力度(選択バイアス)の効果を見積もっていない。だから、本気で予想しようとするなら、そうしたバイアスを調整してから投票行動を予測すべきなのである。
ちなみに、新聞などでは、立民が大負けしたように書いているが、たかだか15議席のマイナス(13%)である。共産党も同じ程度の議席減(12→9)である。無党派層の投票行動をしっかりと読んでいれば、予測を大きく外すこともなかっただろう。
事前に「(政権側と)いい勝負をしているように」メディアが報道したものだから、自分たちもそう思い込んでしまった。電話調査でも同じことが起こるだろう。つまり支持政党によって調査への協力度がちがうのだ。いまになって立民の枝野代表が責任を問われている。
自業自得と言えばそうなのだが、調査バイアスの存在など知るはずもない。フェアに言えばその点は気の毒だと思う。
もっとも、消費税の10%値上げの際、わたしは国会の予算委員会に招聘された。「消費税の値上げを支持する意見」を陳述したことがある。マーケティングと流通の視点からの支持演説だったが、そのときに委員だった枝野氏は、一番前の席に座っていた。しかし、わたしの話は聞かずに、黄色いカバーの本を読んでいた覚えがある。(居眠りをしているよりはマジだと思うが、、、)
それはどうでもいいことだが、とにかく第3軸(維新)の動向をしっかり把握していれば、枝野氏にしても、まちがっても「競り合っている」などと誤ったことをメディアの前では言ってしまうことは避けられただろう。自分たちの実力を過信することもなかったと思う。
教訓である。敵はどこにいるかわからない。今回の選挙に関しては、ふたりの強者は新興勢力(維新)と戦っていたのである。三すくみの戦いであって、決してジャイアン同士の戦いではなかったのである。