旅の終わり

 東北新幹線はやぶさ22号、10号車のグランクラスの座席に座っている。上野着14時58分の予定。新青森駅に入ってきたはやぶさ号は、対岸の青函トンネルを括って、函館方面から入線してきた。一瞬、時間があれば津軽海峡を渡ってみようかと思った。昨日のドライブの疲れが残っていて、自身の体を気遣ってそれはやめにした。

 

 北東北の秘湯巡りが本日で終わる。
 旅の終わりに3泊4日を総括しておく。なぜここにいるのかといえば、湯治と仕事の疲れを追い払うためだった。
 まずは、硫黄泉の宿、二箇所での湯治の成果を。

 先週、虎ノ門の日本酒バーで、元院生で介護施設長の里村佳子さんと飲んだ。その時、東北地方に特徴的な硫黄泉の効能を説明した。里村さんもアトピーらしいので、効果が気になるとのこと。
 硫黄泉はアトピーに効く。湿疹がひどかったわたしは、珍田の婆さんに連れられて、強硫黄泉の秘湯によく浸かっていた。先ほど、今回の結果を、里村さんにメールした。
 
 おはようございます。里村さん、秘湯巡り、事後のご報告です。日景温泉、酸ヶ湯温泉の二つは、硫黄泉でした。本日、そこから3日目ですが、湿疹には効果があったようです。右手の薬指と中指の瘡蓋がほぼ消滅しました。あと、この半年間で苦しんでいた膝と腰の痛みも和らいだ気がします。

 前半の湿疹については、間違いなく効果があった。右手の瘡蓋が取れたからだ。ただし、頭蓋の脇にある三箇所の湿疹は、未だ病巣が健在だ。追い払うには時間がかかるということだろう。長逗留の余裕はない。
 2番目の膝と足の故障は、3泊くらいの休息で簡単に取れるものではない。半年間の疲れを完全に取り除くためには、帰宅してから、5kgの減量と軽い運動で復活に挑むことになる。日景温泉で体重計に乗ったら、針が65kgを指していた。実はそのうちの500gは、針のスタート位置の設定ミスだった。でも、64.5kgは生涯の最大重量である。
 帰宅後は、すぐに減量に励むことにしたい。早速に、アルコールを控えめにしなくては、、

 4日前、秘湯巡りの旅に出るとき、今回は「センチメンタルジャーニー」だと宣言した。亡くなった両親と祖母がよく通っていた日景温泉を最初の逗留先に選んだのは、そのためだった。覚えている最初の訪問は、私が幼稚園に入る前の4〜5歳の時だ。
 チビのわたしは、珍田のサン婆さんに手を引かれて、強烈に硫黄臭い秘湯に浸かった。日景温泉か乳頭温泉だったはずだ。最初から、強烈な入湯のイニシエーションを受けたわけだ。
 61082(ムトウハツプ)という入浴剤を、秋田の実家では普段から使っていた。日景温泉や乳頭温泉の湯の成分とほぼ同じ組成の硫黄泉を再現したものだった。父親が痔疾ががひどくて、その治療のためだったろうと想像している。手術を何度か受けていた。

 この病気は、長男のわたしにも遺伝したようだ。わたしも未だに痔疾の傾向がある。今もポラギノールなどの座薬のお世話になっている。だから、お酒と辛いものは鬼門だ。
 アトピーの方は、おかげさまで、ここ10年ほどは静まっていたのだが、夏ごろから復活し始めた。おそらくは、本の執筆のために部屋にこもって、代謝が悪くなったからだろう。今回の湯治に来るアイデアも、メタボリズムの調整のためでもあった。飽食の旅ではあったが、代謝は多少は改善できたようだ。
 最後は、心の疲れを取り去る効果だ。温泉に浸かることは、硫黄泉でなくとも、心身ともにリラックスさせる効果がある。今回の旅で、精神的な疲れはかなり消えた気がする。

 はやぶさ号はいま盛岡駅を離れた。12時51分。次は仙台。あと2時間ほどで列車は上野駅に着く。14時58分の予定だ。そこから、自宅までは約30分。
 不思議と長い旅だった。コロナが始まって1年半。今日は衆議院選挙の投票日だ。先週、旅に出る前に、期日前投票をしてきている。この国の先の4年間を決めるクリティカルな日に、新幹線で首都東京に戻ろうとしている。
自分も、帰ったら1年ぶりに、定期健康診断を受けなければ。胃腸と肺に違和感がある。友人たちも、癌や肺炎で入院している。