イオンがSPA(製造小売業)を真似ても、ユニクロに対しては勝ち目がない@イオン大日SCにて

 ネットショップ「翌日配達お花屋さん」を経営している小川順子さんと、イオンの大日ショッピングセンター(現、イオンモール大日)を視察した。SC内の花屋さんめぐりはいつものことだが、その他のテナントの見学がおもしろかった。とくに、ユニクロとイオンの肌着売り場の比較が興味深い。



 松島さん(JFMA専務理事)と店舗見学をしていて、女性向けのカジュアルファッションの店、INGNIやHoneysを真剣に観察していると怒られる。「もっとしっかり、花売り場を見てくださいよ!先生」とうるさいのである。でも、わたしの専門はマーケティングである。アパレルや生鮮などに興味が行くのはしかたがないことなのだ。
 昨日は、小川順子さんと一緒にだったので、その点は気持ちが楽だった。小川さん自身は年齢が40歳をオーバーしている。高校生の娘さんを筆頭に、3人の娘さんの母親である。お子さんたちと一緒に、INGNIの顧客でもある。そのことを知って、ともてうれしかった。
 青井正人社長に、知らせてやりたかった。INGNIは進化しているのだろう。花屋の美人社長、小川順子さんにまで支持をされているのだ。立派である。

 さて、5万坪弱のだだっ広い大日ショッピングセンターのフロア全体を、ぶらぶら1時間ほどかけて歩き回っていた。INGNIやHoneysには、かなり丁寧に時間をかけて、冬物の商品や店頭プロモーションをチェックした。
 そのあとで、順子さんとイオンの肌着売り場を眺めていた。エスカレーターを降りたところの真ん前にあるセルフの売り場である。ヒートテックの肌着が、大量に陳列されている。レジに近いところにある男女共用の売り場である。

 陳列が汚い。乱れている! わたしの第一印象だった。なぜだろう?
 ヒートテックの肌着は、コンパクトにビニール袋にパッケージされている。縦40cm×横30cmくらいに薄く畳んである。商品単価は680~980円。陳列は壁面に沿って、形別とサイズ別に分類されて、フックにかけて吊されている。縦方向に同じ色を揃えた「バーティカル陳列」である。
 面的には、ふつうはきれいに見えるものなのだが、イオンのヒートテック肌着のパッケージは汚く見える。なぜか理由がわからなかった。なので、上のフロアにあるユニクロの店に移動して売り場を比較観察してみることにした。
 ユニクロの肌着売り場も、バーティカル陳列がなされている。でも、陳列は乱れていない。

 両者のちがいは、すぐにわかった。理由は3つである。
 ユニクロのパッケージは、イオンに比べてサイズが小さい。たぶん、25cm×32cm。したがって、同じ量を陳列するのに、隣の面(フェース)との間に、微妙に隙間が取れる。イオンの肌着パッケージは、大振りでコンパクトに出来てあがってげいない。結果として、陳列されている商品の間に、ほとんど隙間ができない。陳列が汚く見える第一の理由である。
 そもそも、肌着の一部がパッケージからはみ出したりしている。それは、商品の中身がコンパクトに折り畳まれていないからである。パッケージのサイズや形状が、売り場での陳列を考えてデザインされていないのだろう。また、ふつうならば、はみ出している商品を、店員さんが気づいて直すことがふつうである。
 店員が気が付いていないのか、気が付いいても、直しの余裕がないか。作業システムの問題であある。ユニクロやライントオン(大日SCでは隣の売り場)では、絶対にありえないことだ。

 第2の要因は、陳列の仕組みにあった。順子さんいわく。「イオンの商品は、デザインが異なるものも、混在して陳列されている」。一見して、形が比較できて便利そうに見えるが、パッケージの外見は同じである。
 消費者にとっては、「とじ込み」の商品をいちいち開けるわけにはいかないから、どの形なのかを確認する手間が必要である。その点、ユニクロは、形やデザインがちがうものは、場所を変えて陳列している。サイズ別にカラーコントロールがなされいる。店員にとっても、補充作業は単純なのだ。
 ちなみに、イオンは、形が異なるものを説明するために、商品見本を吊るしている。これが、みっともないのだ。

 第3の理由は、補充の仕方である。イオンの陳列が乱れて見えるのは、売れているサイズと色の場所に、穴が空いているからだ。
 売れ行きが異なる商品のフェースごとに、凸凹ができているのだ。きれいに面をそろえるためには、フックの金具に傾斜を付けるか、フェースの「頭」を揃えるために、店員さんが手直しの作業をしなければならない。
 イオンは売り場に補充要員がいない。まったく影も形もない。逆に、ユニクロの店員は、補充作業に余念がない。いわゆる、「畳む係」である。この丁寧さが、売り場をきれいに見せている。最終的な人時生産性はどちらが高いのか、一目瞭然である。
 ユニクロの売り場が美しいのは、補充作業に人手をかけているからだ。イオンは人数が少ないので、生産性が高そうに見えるが、商品回転率が異なるので、最終的な売り場生産性は数倍は開いてしまう。

 両方を買ったことがある小川順子さんの話しである。「値段はイオンのほうが安いかな。品質もだいたいおんなしやったねえ」。
 でも、きっと売り上げは3倍は開きがあるだろう。商品の作り方(SPA)や商売の形(SCM改革)だけを真似ても、本当の意味ではSPAにはなれないのである。魂が入っていないからである。
 店舗運営まで踏み込んで、製造小売業の仕組みに変えていかないと、ユニクロとは戦えないのである。待ち受けている現実はきびしいのである。
 流通ジャーナリストのみなさんは、この点をこそ指摘してほしい。イオンさんには気の毒だが、おそらくはIYも同じ問題を抱えているだろう。