安全より安心が大切?: 京都五山の送り火に被災松が使えなかったこと

 京都嵐山渡月亭から、今年の五山の送り火についてメールが送られてきた。自分が宿泊するだけでなく、しばしば外国の方をお泊めしている素敵な宿である。京都観光を担う宿主として、陸前高田の被災松事件について、忸怩たる思いをなされているご様子だった。

 京都嵐山渡月亭より

 日本列島節電の夏、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 ここ京都では、さきほど五山送り火が行われ、精霊たちは五山に灯る火を目印に、彼の地へ戻って行かれました。

 毎年毎年、厳かな宗教行事でありますが、今年は東日本大震災がありましたので、例年よりも物思いに耽る送り火でした。
 当初、京都五山送り火連合会では被災地の松を送り火の護摩木として使用させてもらうとのことでしたが、悲しいことに諸々の事情により京都市を巻き込んで大きな問題となり、門川京都市長も苦渋の決断として使用を断念しました。
 これにつきましては個人的に大変残念な気持ちでいっぱいになりました。感情的な意見ではなく科
学的に分析(※1)し、危険なのかどうかを判断基準にして頂きたかったと心底思います。

 門川京都市長も深々とお詫びをしておられましたが、私も一京都市民として、被災地の皆様にお詫
びしたい気持ちです。本当に申し訳ございませんでした。
 こんなことがありましたが、人間界での争いなど精霊たちにとっては、なんのわだかまりもなく仏の
心で受け流して頂いていると信じ、気持ちの整理をしたいと思っているところでございます。

 私自身京都で生まれ育っておりますから、阪神淡路大震災を経験しておりますが、当時、被災地で
ピースサインをしながら写真を撮っている若者がいるとの報道に大変なショックを受け、被災地に行
くことは不謹慎だとの思いを強く持ってしまい、神戸の惨状を目の当たりにすることはありませんで
した。
 しかし、今は年も経て、考え方も変わり、しかも被災された同業者の多くから、『是非とも被災地に来てほしい。千年に一度の災害を目に焼き付けてほしい』との声を頂き、当初6月末に福島に赴く予定でしたが、予定がずれ込み9月の頭に福島と仙台に行けることになりました。ですので、被災地の現状をしっかりとこの目に焼き付け、微々たるものではありますが、少しばかり消費をして地域経済の足しになればと考え、その日を待っております。

 皆様も、大切な方との大切な時間を・・・ここ京都で、もしくは被災地で、はたまた日本の各地で
、たくさんの想い出を作って頂ければと願っております。
 
 渡月亭 若主人 古川 拓也

※1
 科学的分析につきましては、京都新聞に書かれていたものでは、今回の被災松から検出された
セシウムは1㎏あたり1000ベクレルを超える値でしたが、火葬場で人体を荼毘にふすと4000ベクレル(1㎏あたりと書かれていたか記憶が不確かです)を超えるセシウム(放射性物質と書かれていたかも?)が出るが誰も問題にしないではないか等の記載があったように思います。

 <小川のコメント>

 マーケティングを教えている学徒としては、安全(客観的な事実)より安心(心理的な確信)が、顧客対応としては正しい。そのように教えている。午前中にブログで紹介した正垣会長(サイゼリア創業者)の書名も、『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』だった。
 顧客の行動はつねに正しい。しかし、今回、五山の送り火に使用されるはずだった陸前高田の松の扱いを見ていると、科学的な安全が確認されているのに、さらに過剰ともいえる安心感を求めるのは、行き過ぎではないかと思うところがある。
 渡月亭の若主人、古川さんも、同じ思いで送り火を眺めていたのではないだろうか? 完全な安心感を求めようとすると、何もできないし、何も食べられなくなる。
 原発に関してウソをついてきた政府や東電を非難するのもよいが、放射能に対して過剰なまでに、ヒステリックに反応するのは、やり過ぎではないかと感じてしまう。それは、わたしだけではなさそうだ。

 
 そうしているうちに、今度は、箱根の強羅で、大文字焼きに、皮をはいだ陸前高田の被災松が使用されたという「神奈川新聞」の記事が、ネットを通して入ってきた。 

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公表せず被災松燃やす、箱根強羅「大文字焼」/神奈川
2011年8月18日(木)3時0分配信 神奈川新聞 -PR-
 
 16日夜の「箱根強羅夏まつり『大文字焼』」で、主催者の箱根強羅観光協会が事前に公表せずに岩手県陸前高田市の被災松を燃やしていたことが、17日分かった。同協会は「検査で放射性物質が検出されなかったため、被災松を使用した。公表すると京都の問題の蒸し返しになり、被災地にも迷惑を掛けると判断した」などと説明している。
 協会によると、燃やしたのは、表皮を剥ぎ長さ約30センチに切りそろえた松の角材50本近く。大文字の中心部に置き、午後8時ごろに火を付けた。
 本来、箱根産の竹以外を燃やすことはないが、陸前高田市をボランティアで訪れたまつりの関係者が「京都で使われなかった分、犠牲者の供養のために被災松を燃やして」と依頼され、使うべきかどうか検討。横浜市内の検査機関で調べたところ、「検出せず」との結果が出たため、環境などへの影響はないと判断したという。協会は「事前の公表も検討したが、見送った。今のところ苦情などは寄せられていない」としている。

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 この件に関しては、この先、ツイッターやネットの書き込みで、大騒ぎにならないでほしいと願うばかりである。