日本企業の中国シフトに勝算はあるのか?

 本日の日本経済新聞で、知り合いの「クロスカンパニー」(本社:岡山)の石川社長が、中国への進出を発表した。昨年のインタビュー時に明言していたが、当面は上海などで100店舗を計画している。ハニーズは中国で208店舗(4月現在)。中国進出に勝算はあるのだろうか?



 国際競争を考えると、欧米と比べて、日本の競争力には疑問符が付いている。一般的にはそう言われているが、通説は疑ってみよう。
 昨日も、先週も、そして、来週も、わたしの周りからは、優秀な元学生や同僚が中国ビジネスに関わりをもちはじめている。昔は、やや変わり者で戦力外の人が、中国の仕事を任された。起こらないでほしい。そうした人たちは先駆者として、いまでもよく頑張ってくれている。
 そして、いまは最優秀な戦力がアジア市場で戦っている。だから、中国市場で日本が十分に戦えると思っている。以下では、資金と人材以外の根拠を示してみたい。

 まずは、日本国内からの圧力である。プレッシャーがあると、人間は頑張れるものである。国内市場が完全に飽和しているので、成長している中国など、日本人はアジア市場に出ていかざるをえない。 日本の企業は、アジア市場で活躍できる可能性が高い。
 基本的な優位性は「3つの近さ」である。

(1)文化的な近さ
 いうまでもないことである。両国は漢字文化圏に属している。商品サービスの移転は、文化的な近接性が基本である。中国人が日本に敵対感情をもっているのは自明であるが、商品の購買に関しては別物である。それとこれとは、まったく関係がないとさえ言える。
 国民としての中国人と、生活者としての中国人が存在している。メディアの報道に、振り回されてはいけない。データがすべてを語っている。間違ってはいけない。
 マルクス風に言えば、政治理念は下部構造(経済的な欲望)に負けるのである。具体的な例として、来月に出版される拙著『ブランド戦略の実際(新版)』をごらんいただきたい。中国人の敵対感情にも関わらず、ユニクロやハニーズ、資生堂は「日本企業であることを認知されていながら」、デザイン・スタイルと品質の良さは問題なく受け入れられている。

(2)距離の近さ
 わたしは、国際ビジネスで案外見落とされいる要因が、時差と物理的な距離の優位ではないかと思っている。どんな高速のジェット機が出現しても、ビジネスのために遠くに飛んでいくのはつらいことである。また、時差があることは、ビジネス交渉では明らかな障害になる。
 輸送の問題もある。近いほうが鮮度も時間もハンディがすくない。科学や技術が進歩しても、この障害は大きいのである。
 身近な話では、われわれ(MPSジャパン)の親会社が、はじめは、中国や韓国とビジネスをしたいと思って、直接の交渉をはじめていた。しかし、あのオランダ人にして、中国人は手ごわすぎるようだ。少なくとも、東アジアの国は、わたしたちMPSジャパンに任せたがっている。文化的な近さと同様に、これは、時間的なベネフィットのおかげだと思っている。
 
(3)歴史的な近さ
 中国人の仕事のしかたは、個人的にみると、一見して米国人に近いように見える。労働市場や政府に対する根本的な感情も、日本人より米国人に近いように見える。しかし、根源的な部分では、アジア人と欧米人は、歴史認識が異なっている。
 中国人の奥底には、欧米列強の力に屈してきた「植民地時代」の歴史的な怨念がある。日本人は、民族的に近かったからこそ、第二次大戦時のわが悪行に由来する、敵意感情を持ち出してくるだけである。
 日本人が自国の優秀さをひけらかさず、対等な立場でビジネスを進めようとすれば、それなりに共同で仕事はできると考えられる。日本人は、中国人が経験していない負の遺産(公害、原発、バブル)も経験している。経験の移転は可能である。いわんや、ビジネスおやである。

 以上、どんなに成功しているように見えても、中国の政治体制は実は脆弱である。共産党の幹部にも、新興民間企業のトップにしても、自国だけで完結したビジネスでの成功はおぼつかない。所詮、高速鉄道の事故を見ても、これから続々と技術的な欠陥問題が出てくるにちがいない。
 近代資本主義の洗礼を受けた日本や韓国のように、世界で戦ってきたアジアの諸国の力を中国は必要としている。経験面では、中国はまだ新興国である。先に来たけれど、国内に課題をたくさん抱えている日本国とは、相互補完関係にある。そして、歴史、文化、地理的な距離の面で近いのである。

 最後の課題は、信頼関係の保てるかどうかだけである。ビジネスは、それとは無関係に進展していくものだ。経済的に補完性があれば、信頼関係も強固にならざるを得ない。そのプラスの関係は、日本から中国への投資活動が活発になればなるほど、深まっていくことになるだろう。
 もはや、日本の中国シフトはとめられない。10年後に、英語をおさえて中国語が世界の標準になることはなかろうが、日本人で中国語を話せる人の数は、飛躍的に増えそうである。