「とことんオーガニック」 第一部:徳江ー小川対談

 6月11日に開催された「とことんオーガニック@憲政記念会館」での小川ー徳江対談(第一部)、午後の第2部と第3部のシンポジウムの記録を、順次3日間をかけてアップしていく。青木恭子さんのメモを徳江さんにチェックしていただいた。


全体的には、なかなかよい議論をしているのではないかと思う。徳江さんとふたりで、事前の打ち合わせをほとんどしていない。内容は、ほとんどが即興である。

 OMRとことんオーガニック シンポジウム2011 要旨
2011年6月10日 憲政記念館

第1部 10:00~13:00
「日本におけるオーガニック・マーケット調査(OMR)2010-2011」報告会
 意外と大きかった!日本のオーガニック食品市場は、1300億円。

●来賓挨拶
ツルネン・マルテイ氏(参議院議員・有機農業推進議員連盟事務局長)

本日は、こんなに多くの方々が、丸一日、有機マーケティング・シンポジウムに、ご参加くださり、たいへんうれしく思っています。私は、有機農業の推進を、ライフワークとして取り組んでまいりました。「オーガニック・マン」と呼ばれています。今日は、開会の言葉を伝えることができ、光栄に思っております。
「とことんオーガニック 2011」シンポジウムの開会、まことにおめでとうございます。3月に開催予定でしたが、大震災で中止になり、今日、開催になりました。こんなに多くの方々にお越しいただき、うれしく思います。代表の徳江さんも、有機農業推進法づくりに深く関わってこられた方です。7年ほど前、有機農業推進議員連盟が出来た時、徳江さんも参加され、私たちは、一緒に有機農業推進法の制定にかかわってきました。推進法は、皆さんや協力団体の方々のご協力で実現しました。
今日のテーマは、オーガニック・マーケットの実態調査の報告です。調査の結果がどういう意味を持つか、それをどう有機農業の推進に生かせるかが、シンポジウムのテーマです。さらに、OMR協議会を設立することも考えられています。一つの目標は、オーガニックの技術の発展と公表です。生産は、一定の規模に達すると、効果が出てきます。調査では、慣行の農家でも、できればオーガニックに取り組んでみたいという人が、32%にのぼります。
オーガニックの生産は、日本の農業の1%に過ぎませんが、慣行農家でも32%はやってみたい。できないでいるのは、まだオーガニックで生産可能かどうか、よくわかっていないからではないかと思います。こうした農家に、技術を与えて、オーガニックに取り組んでもらうことは、私たちの使命の一つではないでしょうか。今回の、初めての大きな実態調査は、そういう意味でも意義があると思います。
今日の午後には、鹿野農林水産大臣もいらっしゃいます。農水省の大臣が、有機農業の会に参加することは、意味あることです。
私は今日午前中しか出席できませんが、午後、私の代わりに、政策秘書の石井茂さんが出席します。石井さんは、ずっと私と一緒に有機農業推進に関わってきて、パイプも深い方です。私の任期はあと2年で終わりですが、彼に後継になってもらいたいと思っています。
今日は、心から意義あるシンポジウムになるようにお祈りします。ありがとうございました。

●開会にあたって
徳江倫明氏(OMR(=オーガニック・マーケティング協議会(準備会)代表)

おはようございます。本日はお忙しい中、たくさんの方にご参集いただき、ありがとうございます。
私は、今回の「とことんオーガニック シンポジウム2001」の主催者である「オーガニック・マーケティング協議会(準備会)」(OMR)の代表を務めています。これから、多くの人たちと連携しながら、進めていきたいと思います。最初に、マーケティング調査を担当していただいた法政大学の小川先生と対談しながら、調査の内容をお伝えしてまいります。

・シンポジウムを開いた経緯
始めに、今日のシンポジウムを開いた経緯について、お話しさせていただきます。
私たちは、東日本大震災と福島原発事故という、未曾有の災害を体験しました。そこから、本日のシンポジウムを通して、大げさにではなく、どう日々を生きていけばいいのかということも含めて、皆さんと討議できればと考えています。
日本の有機農業は、国内農産物生産量の0.18%と言われています。さきほどツルネンマルテイさんからご紹介があったように、2006年に、有機農業推進法ができました。私は、有機農業に関わって35年になりますが、これは画期的な法律でした。推進法とは、基本法、理念法ともいえるものです。理念法というのは、日本が、「国として、有機農業に専念します」と宣言した法律です。基本法を制定したら、国は基本方針を出さなくてはなりません。そして、自治体はそれに基づいて基本計画を出し、それを実現するためのさまざまな制度を作ります。そこから、さまざまな助成金なども出てくるわけです。
2006年に有機農業推進法ができるまでは、有機農業を広げるために何をすればいいか自分で考えながら、暗中模索を重ねてきました。しかも、ずっとマイナーな行動だったわけです。2006年からは、状況が変わりました。しかし、それ以降も、日本のマーケットは、それほど伸びていません。実は、韓国でも、2000年に同じような法律ができました。韓国の有機農業は、いまや年率30-40%で成長しています。ヨーロッパでも10%以上伸びています。
そんな中で、なぜ日本では、0.18%なのか。私は、有機の潜在力を感じるのですが、推進法ができた後も、どこかにボトルネックがあるという気がしてならなかったのです。マーケットがどこにあるのか、徒手空拳で向かってきたわけですが、そういう状況を突破したいということで、この調査活動を思いついたわけです。
一昨年の6月初めから、1年半かけて調査し、調査報告書が完成しました。普通、こうした調査というのは、助成金をもらって作成するのが一般的だと思います。しかし、私たちは、民間でやりきろうと決意して、46社に協賛いただき、800万円の資金を捻出して、自分たちで調査しました。
今日のシンポジウムは、この調査の報告会を兼ねています。多くの方々にこの結果を知っていただき、これからの発展に期することを願って開催しました。
当初、3月15日に開催予定でしたが、震災と原発事故があり、また、会場自体も一部損壊したため延期せざるをえませんでした。私自身もショックで、耐え難い精神状態を経験しました。
震災後、石巻、南三陸、気仙沼、陸前高田と、ずっと海岸沿いを回りました。陸前高田では、新聞にも出ていましたが、八木澤商店という、ずっとつきあっていた老舗のお醤油さんの所にも行きました。津波で流された樽を探し、酵母を手に入れて、製造を再開されるということで、社長を息子さんに譲り、本人はこれから復興に身を捧げるそうです。
しかし、被災地をずっと見ていくと、本当にたいへんな状況で、今後の有機農業の展開になかなか結びついていかなかったのです。それで、この場で何を言えばいいのだろうかと、ずっと迷っていました。しかし、小川先生から、「有機は変わらない」と言っていただき、それで、意を決したわけです。シンポジウムのテーマは、「広がる」から「広げる」にしました。時代性を考えれば、「広がる」はずです。でも、震災の経験も含めて、新たに、意志を込めて、「広げる」としたのです。皆さんと手を携えて、オーガニック・マーケットの拡大に取り組んでいきたいと思います。

●基調報告 & とことん対談 徳江倫明×小川孔輔
 「これからのオーガニックはマーケットインか?プロダクトアウトか?
オーガニック・マーケット 「広がる」から「広げる」へ」
徳江倫明氏(OMR代表、IFOAMジャパン副理事長)
小川孔輔氏(法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授、日本フローラルマーケティング協会会長)
 
(小川)こんにちは。法政大学経営大学院マーケティング担当の小川です。徳江さんと一緒に、OMRのリサーチを2年間担当してきました。
徳江さんとは、もう14~15年前からのお付き合いになります。実は、二人とも今年還暦のウサギ年で、そんな二人で、オーガニックの運動を始めました。

(徳江)今日は、調査報告にできるだけ忠実に、データに基づいた話をしながら、対談形式で進めたいと思います。
マーケティングの世界では、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という発想があります。この2つの考え方があることは、変わりません。そこに、「広げる」というわれわれの意志をどう反映させるかを、これから考えたいと思います。
調査報告書の基本情報は、お配りした今日の資料に載っております。調査は、「フードチェーン」と呼ばれる、生産、加工、運送、小売、消費という一貫した流れに沿って、一つ一つについて、すべてアンケート調査を実施しました。そして、フードチェーンのつながりのどこに問題があり、どこをどう変えれば、オーガニックがもっと広がるのかを考えました。

消費者データは、配布資料の8~15ページに掲載されています。小川先生からは、「マーケットイン」、つまり、「消費者視点からみた有機」というところからお話しいただきます。16~17ページには、中間流通、小売に関するデータが掲載されています。これについても、小川先生からご説明いただきます。
加工食品については18~19ページ、生産者については19~26ページをご覧ください。
全体のフードチェーンを見渡してみると(27~28ページ)、生産者と小売りのギャップなど、考え方の違いがわかります。生産者の側では、環境に配慮した生産方法への意識は、高くなっています。しかし、小売側は、あまり関心を持っていません。それは、データから読みとれます。

今回の調査から見える特徴的なこととして、例えば、日本の消費者は、端的に言って「利己的」という結果があります。しかし、その意味はそれほど単純ではありません。この後、小川先生に解説していただきます。皆さんにも、時々データ集を見て、ご活用いただければと思います。
 
小川先生は、ご自身のブログ活動も頻繁にされていて、大学教授でいらっしゃりながら、次々新しいことに挑戦されておられます。震災を通して、マーケティングの枠組みも変わると思いますので、その辺についても、日本のオーガニックは、これからどこに手をつければいいのか、まとめてお話しいただく予定です。
私の方は、生産者の立場、「プロダクトアウト」の立場から話をします。生産者は環境の意識が高いので、小売や消費者に対しては、少しいらいらすることもあります。その立場から、小川先生につっこみを入れつつ、対談していきます。

・消費者調査
(小川)日本の消費者、それから一部、小売について、川下、マーケットインの立場で、ホットな生産者と比べると、ちょっと冷めた、クールな立場からお話したいと思います。

最初に、消費者調査のサンプルの取り方について、コメントしておきます。ネット調査で、サンプル数は全国2,700名くらいです。これだけサンプル数があれば、男女別、人口構成とも、日本の人口全体を代表していると考えていただいて結構です。

通常は、マーケティングの消費者調査は、「その製品について、知っていますか」という質問をして、認知率を調べるところから、スタートします。しかし、オーガニックには、認証制度がありますので、この調査では、認証制度についての認知から始めています。
「オーガニックを知っているか」と単純に尋ねると認知率は高くなります。しかし、10ページを見ればお分かりかと思いますが、その正確な定義を知っているかどうかについて、特別栽培やGAPなどまで含めて認知率を調べると、正確に知っている人は、オーガニックでは5%くらいにすぎません。具体的な定義は、ほとんど理解されていないということです。言葉は知っていても、中身は分かっていない。お店に行って、有機や特栽の野菜を買っても、その認証の意味は、消費者には分かっていないのです。

購入した後で、満足したかどうかについても調べてみました。普通の野菜もオーガニックも、食べてみておいしいかどうか、ブラインド調査をしてみれば、実際にはわからないでしょう。オーガニックは、経済学でいう「経験財」「信用財」に当たります。つまり、オーガニックというのは、本来、食べてみないとわからない、あるいは、食べた後でも分からない財だということです。しかし、11ページの表に示されているように、総合的に満足をしているという比率は72%に達します。何度かトライしていただき、経験していただければ、現状のオーガニックでも、消費者はけっこう満足していることがわかります。しかし、食べるためには、オーガニックの品物を入手しなければなりません。品物の入手には、情報の入手が必要になります。
情報の入手先としては、メディアやネットと考えていました。しかし、13ページのデータ8を見ますと、消費者は、実際には、店頭のPOPや店のカタログ、店から直接情報を取得していることが明らかになりました。
オーガニックのデータは消費者に届いているとわれわれは思っていましたが、実際には、そうではなかった。消費者は店頭で情報を得ている。だから、お店にオーガニックが並ばなければ、情報が得られない、情報をもう少し広げなければならないということになります。
11~12ページのデータ5、6をご覧いただくとわかりますが、購入先として大きいのは、GMS、食品スーパーです。スーパーでの購入が一番高い。続いて、自然食品店、専門店、生協、ネット宅配などが挙げられています。
購入アイテムについては、米や大豆食品、野菜に限定して質問しています。それぞれ、購入先が異なりますから、一般的にどこで買うかと尋ねても意味がありません。

日本の消費者の傾向は利己的だと徳江さんが言われましたけれども、ここで、それに少し説明を加えておきたいと思います。私が、マーケティングの研究者として、このプロジェクトに関わるにあたっては、ある動機がありました。私は、オーガニック・マーケットに興味があって、10年前から、海外の有機スーパーなどをよく回ってきました。あちこちで日本のマーケットの規模を聞かれたんですが、答えられないでいました。IFOAMの英語の報告書がありますが、その存在はあまり知られていなかったですし、詳細なデータを業界の人が入手できるわけではなかったからです。
そういうわけで、日本の市場の状況を知りたいということ以外に、欧米や韓国、豪州など、それぞれ市場の特性が違うということを前提に、海外に日本の状況を発信するということが、私の調査プロジェクトへの参加動機の一つだったわけです。
海外でのオーガニックの購入動機を、いろいろリサーチしてきましたが、ヨーロッパは、どちらかというと、環境や社会性が動機の軸足として、重みを持っていることがわかりました。ヨーロッパは、規制や補助金がありますから、社会的に、EUブロックを挙げてオーガニックを普及させてきました。
アメリカは、反対に、民間の力でマーケットが拡大してきました。消費者は自分の安全や健康のために、買っています。ですから、どちらかというと利己的な動機が中心です。米国は、認証制度は作ったけれども、国として積極的に後押してきたわけでないと思います。
こうした結果を前提にして、では日本の消費者をどうとらえたらいいのか、考えていきたいと思います。

(徳江)資料のフードチェーンの部分には、生産者と小売と卸の回答が並べてあり、考え方がどれくらい違うかが分かるようになっています。
これを見ていただくと、生産者側は、安全なものを提供したいと考えています。動機は、自分や家族の農薬被害がきっかけという人が、有機の生産者では21%にのぼっています。自分の体験があり、消費者に安全なものを提供したいと考えるようになったわけです。生産者は、自分が水を汚せば、汚れた水は自分に跳ね返ってくるということがわかっています。
以前、所沢のダイオキシン問題が起きた時、風評被害という言葉が広まりました。同じように、東海村の原発事故の後、放射能の問題で、野菜が全然売れなくなったことがありました。生産環境の影響は大きいですし、生産者はそれを意識します。
 一方、小売では、データで見る限り、環境というよりも、消費者ニーズが重視されているようです。しかし、私は、「消費者ニーズ」というのは曲者だと思うのです。「マーケットイン」と言われても、私にはピンとこなくて、むしろ、「こんなにいいものを作っているのに、それがなぜ売れない」という感覚が強いのです。そのためにどうしたらいいかを考える立場です。
今回の震災と福島原発で、こういう社会的問題に対して、消費者の意識は変わるのか、マーケティングの枠組みは、これからどう変化していくのか、小川先生はどう見られますか?

(小川)私は、消費者は変わったと思います。今回は会場温度を28度に設定しています。おそらく震災前なら25~26度くらいまで落としていました。それが普通だった。でも、今は、違いますね。街の照明も、少し暗くなりました。消費者ニーズの前提が変わったということです。前提が変わったのだから、消費者ニーズも変わるのは当たり前だと思います。

(徳江)前提というのは、具体的にはどういうことですか?

(小川)例でお話ししましょう。昔は、ごみの分別はされていませんでしたね。面倒と言われていました。でも、いまはプラスティックごみをはじめ、分別はごく普通のことになっています。前提=当たり前という意味です。「当たり前」と思われていることが、変わったということです。

・日本の農業の現実と消費者ニーズ
(徳江)ここで、世界各国の単位面積当たりの農薬使用量を、比較してみたいと思います。各国の中で、日本は、使用量がずっといちばん高いレベルにあります。ただ、よく見ると、2000年以後、若干下がってきてはいます。これは、その頃、食品安全基本法や、農薬取締法などが厳しくなったことによるものです。当時、中国からの輸入野菜で、残留農薬問題が起きました。中国産は危険と思ったら、今度は日本でも無登録農薬の使用が明らかになり、これはなぜだという認識が広まった。韓国も同じ状況でした。そういう意味で、やはり、法律は影響力があります。
でも、私は、はたして消費者は、こうした社会的現実を知っているだろうか、と疑問に思うわけです。農薬では、有機塩素系農薬などが、さまざまな公害問題を生んできました。 現在では、ネオニコチノイド農薬が、「一発で効く」ということで、特に特別栽培ではたくさん使用されています。しかし、一発で効く、というのは、根から成分を吸収し長い間殺虫効果が続く、つまり残効性が高く毒性を保持し続けるということを意味します。農薬に関する特別栽培の基準は「その地域で通常使用する農薬使用量の半分以下」という定義ですから、ネオニコチノイド系のような農薬は使用回数が少なくて済みますから、その内容にかかわらず、特別栽培には便利な農薬ということになります。こういう事情を、消費者は知りません。
有機農業については、虫食いというイメージがあります。でも、土作りが良ければ、虫はつかないものです。そういうふうに、実態について、消費者が知らない部分はたくさんあるのです。それ以外のいろいろな制度についても、同じだと思います。それでも、「消費者ニーズ」なんでしょうか?

(小川) 消費者ニーズは、固定的なものではありません。そうした事実を知らされている場合と、知らされていない場合とでは、前提が異なりますから、ニーズも違ってくるはずです。消費者の求めるものは、環境や情報が変われば、変わっていくものだと思います。
「マーケットは変わりうる」のが当たり前です。これからは、ある意味で、「変えていく」。ぼくたちが、消費者まで含めて、「変えていかなければならない」と思います。

(徳江)社会的テーマが前提に合って、それをもとに、消費者を変えていくような、そういうマーケティング手法というのがあるんでしょうか?

(小川)マーケティングは、もともとはイノベーションです。現在われわれが楽しんでいるものは、30年前はなかったものです。私が今着ているようなシャツ1枚とっても、少なくとも、この品質でこの値段ではできなかった。マーケターが、世の中のニーズを読みながら、さまざまなイノベーションを積み重ねて、変えてきたわけです。世の中の人は、マーケットは変わらないと思っているかもしれないですが、世の中は常に変わっていくし、変わっていかなければいけません。そう考えながら、マーケターたちは働いてきたと思います。

(徳江)35年間、有機農業に取り組んできて、私が感じるのは、頑張ってはいるのに、広がらない、ということです。手法にまだ手練れていない部分があるのか、情報の出し方が悪いのか、あるいは、極端に言うと、オーガニックは魅力がないのか、じゃあ止めたら、と言ってしまってもいいのか....。
これからは、安全であることがいかに大事か、それがだんだん大きなテーマになっていくでしょう。そういう流れの中で、オーガニックはどう動いていけばいいのか、先生のご意見はいかがですか?

・最大の課題は、小売と中間流通に
(小川)報告書の29~31ページに書きましたが、私には一つ主張があります。「オーガニックは魅力がない」ということはありません。一部の熱心な小売業者や、消費者調査を見ても、そう言えるはずです。今はまだ、コアなユーザーとしては、100人のうち1人しか使っていないかもしれません。でも、彼らは満足しているし、自分に必要だとも感じています。小売の一部も、オーガニックに将来性を感じています。作り手の側も、慣行農家の3分の1は、有機で作ってみたいと思っています。結局、オーガニックの普及についての一番大きな課題は、中間流通と小売、それから小売店頭にあると思います。川下と川上は、ニーズが合っているわけですから。

(徳江)それでは、なぜ、小売はオーガニックに冷たいんでしょうね?

(小川)小売業は基本的に、儲からなければ、商品は置きません。チェーンオペレーションで展開しているスーパーは、部門ごとに利益を計算しています。スーパーの部門には、生鮮、グロサリー、惣菜などがあります。スーパーの90%では、生鮮部門は儲かっていません。利益が上げられるのは、惣菜と、PB開発などによるグロサリーの部門です。オーガニックの農産物だけが、特に儲かっていないというわけではないのです。また、オーガニックでは、まず特定のお客さんがついている必要があります。

(徳江)私はオーガニックの卸の事業をずっとしていますが、儲かりませんね。明日はどうしよう、というくらいです。
この会場に、澤浦さんがお見えです。澤浦さんは、群馬の生産者団体のトップで、また、青森から島根までの農家を繋いで、周年供給体制を作り上げていらっしゃいます。澤浦さんから見て、有機野菜の取引状況はいかがなものでしょう?

(澤浦)儲からないと売ってもらえないというのは、本当ですね。「これは有機だから売れるはず」と思ってスーパーに持っていっても、それだけでは売れません。有機というベースを大事にしながらも、やはり工夫が必要になります。小売の意見をそのまま聞いていると、頭にくることもないわけではないんですが、そこはこちらの考え方を変えるようにしています。

(徳江)量目の変更など、小売からの要求もあるのでは?

(澤浦)例えば、こんにゃくは、昔は400gのものがよく売れていました。それから売れ筋は200gになり、いまでは100gになっています。量目が下がると、利益を出すのは難しくなるので、例えば100g×3パックにしてみます。消費者が1回で使いやすい量で、しかもこちらも損にならないように、いろいろ工夫します。「有機だから、棚に置け」というのは、その分の小売の棚を開けろ、ということです。それは通じません。

(徳江)小売の方から見ると、どうですか?どなたか、会場にお見えの小売の方、いかがですか?

(八王子・久保田氏) 私は、趣味で有機の販促拡大を手掛けています。小売店頭では、「差が分かる表示」が重要になると思います。4~5年前、ツルネン・マルテイさんのシンポジウムに参加させていただいたことがあり、そのとき ツルネンさんに提案したんですが、いま、農産物の表示にガイドラインがあるのは、有機と特栽だけです。慣行は、何にも表示がありません。農産物すべてに表示のガイドラインがないというのは、おかしい。そこにねじれがあると思います。消費者に対して、表示して、はっきりした差として見えるように示せばいのではないでしょうか。

(徳江)かなり本質に触れたご指摘だと思います。有機農産物コーナーでは、法的な事柄などが書いてあっても、有機野菜と他の野菜がどう違うかについての表示は、曖昧なままになっています。有機の定義も、法律の条文も、情報はすべて公開されています。しかし、どこを見ても、「資源循環機能に貢献する」と書いてあるだけで、日本の曖昧さといいますか、何が他と違うのかについては、明快に言い切っていません。もう少し、差別化といいますか、有機農業を推進する意味を、他の農法と区別して表示できるようにすべきであって、それが、「認証」の意味ではないでしょうか。有機農業を実践している人は、環境に貢献しているのだから、価格が多少高くなっても、買ってほしいということは、国が言わなければならないし、量販店もそれを言うべきなのではないでしょうか。

(小川)私は、今のご意見には、二点で反論があります。
一点目は、消費者が、本当にそういう情報を必要としているか、その検証が必要だということです。
二点目は、国が表示を強制した時、小売は扱わなくなるかもしれないということです。その可能性を考慮すべきです。
消費者は、結局は利己的ですから、そういう客が「買いたい」と思うようにもっていかなければならないのであって、そうでなければ、オーガニックは店頭に並ばなくなるかもしれません。
表示よりももっと重要なことは、別にあると思います。つまり、小売店がオーガニックの商品を扱い、ある程度の安さで、継続的に商品が並んでいることが重要なのです。季節感があるオーガニックの商品が、常に店頭になければ、消費者は、最初は買っても、リピート購買はしなくなってしまいます。
問題は、継続的に品揃えができないこと、また、小分けについての制度上の問題などのために、加工が難しく、ロスのコントロールが困難なことなのです。スーパーが多くの利益を上げているのは、惣菜という加工部門です。総菜では、材料のロス・コントロールが可能です。こうしたバックヤード業務を改善し、加工業を育成して、店頭でのロス・コントロールを可能にしながら、季節感ある商品が、常に店頭に並んでいるという状態を創り出すこと、それがキーになります。

(徳江)私は、以前、らでぃっしゅぼーやをやっていたとき、「ないものはないと言える勇気をもとう」と言っていました。自然状況などによって、栽培状況は変わります。ですから、品物がないこともあります。そのことを消費者にどう伝えるかを考えてきました。選べないし、欲しいものがないときもある、それを消費者が理解して、それでもらでぃっしゅぼーやを支持してくださるということが大事で、こういう理解がないと、契約栽培は成り立ちません。 

(小川)消費者というのは、わがままです。らでぃっしゅぼーやのように、「ない」ことを主張できるのは、全体の1%程度にすぎません。あとの99%は、楽に買い物したいと思っているはずです。供給者は、このことを前提にして、もっと工夫をすべきだろうと思います。

(徳江)全体の状況を考えると、ちょっと飛躍しますけれども、生産といえば、原発も電気の生産ではないでしょうか。それでも、あえて、「消費者ニーズ」なんでしょうか。
農薬の単位面積当たり使用量の推移を見ると、中国での使用量は、急激に伸びてきています。国が発展するときは、どこもそうです。日本も同じでした。その背景にあるのは何かというと、やはり、消費者ニーズだと思うんです。

(小川)歴史の中では、自分の成長の先に何が待っているのか、それが分かっていても止められないという状況が起こることがあります。しかし、人間は、いずれは反省すると思います。

(徳江)原発事故の放射能の前に、有機も農薬もないだろうと感じている人もいます。しかし、除染、塩害などの問題を解決するとき、微生物が役に立つようです。自然と向き合う技術と、有機を育んできた思想は、どこかでつながっていると思うのです。どうせ汚染されていると言ってしまうと、希望がありません。

・中山間地農業と有機農業
(小川)話題をオーガニックの話に戻しましょう。消費者、小売流通についてお話ししましたので、次に生産者についてですが、作り手の側は、オーガニックをどう考えていて、どこで、どんな人たちが有機農業をされているのか、ご説明いただけますか?

(徳江)日本の農業では、中山間地農業が一定の割合を占めています。中山間地というのは、平地と山の間ということです。中山間地農業は、産出額で日本全体の4割弱、耕地面積・農家数ともに43%を占めています。日本の農業の4割前後は、中山間地で営まれていると言っていいでしょう。一方で、日本の農業政策の方向性は、平地の農業といいますか、規模拡大、効率的な農業をめざしています。しかし、中山間地は、そういう効率化政策では対応できないところで、しかも自給率の半分はそこで担われているという状況にあります。
私は、有機農業の仕組みを持ってくれば、中山間農地のように比較的小さな面積でも成り立つ農業は、ありうるのではないかと考えています。私は団塊の世代で、いまだに農業をやってみたいという気持ちを持っています。若い人でも、やりたい人はたくさんいます。そういう人たちの頭にあるのは、ほとんど有機農業だと思うんです。
中山間地農業の問題が解決すると、日本の農業の問題の半分は解決するわけです。陸前高田でカキ養殖をされてこられた畠山さんに、地域循環の話を伺ったのですが、有機農業はこれからのテーマだと、改めて感じます。
有機農業者の25%は、新規就業者です。慣行農業の新規就農者は、2.4%にすぎません。人生観を持って、農業に参入してきているのが有機です。また、後継者を見ても、有機の生産者は、50%以上、後継者がいます。慣行では17%くらいにしか過ぎません。子供から見て、有機農業は魅力のある世界なのだと思います。
いままで、会員組織という閉じられた系の中で、有機農業拡大に取り組んできて、生産者ともずっと話をしてきて、このことをすごく感じます。土だけではなくて、食べる人との有機的関係も含めて、有機農業は社会的システムだと思うんです。

(小川)有機農業で作りたい生産者が存在していて、我々はそれを売る責任があると思います。そのための制度的な壁を取り外し、生産者が売りやすくしていくのが我々の仕事ではないでしょうか。

(徳江)実は、私は、消費者の「マーケットインなんか、くそくらえ」とずっと思っていて、それで卸の仕事をしても、なかなか儲からなかったという事情があります。考えを変えるのには、時間がかかりましたけれども、いろいろな分野の方と一緒に、活性化の話をしていきたいと思います。

質疑応答
(会場)消費者の消費行動を変えていくことを、考えるべきではないですか?

(小川)そうですね。それは、マーケティングの課題です。「消費者教育」とも言います。

(小林)わたしは、アメリカのロサンゼルスの周辺で、オーガニックの仕事をしてきました。公認会計士をしておりましたが、あまり合わなかったので、この道に入りました。いままで4,000種類のオーガニックのレシピを開発しました。レシピを作りながら、原価計算もしました。その経験から言えるのは、価格、品揃えの他に、「おいしい」ということが非常に大事だということです。オーガニックはまずい、という意見もあったんです。
小売は、オーガニックで利益が出なければ、扱わなくなっていきます。しかし、やり方次第で、「オーガニックは、儲かる」、これが私の結論です。

(小川)そうですね。そのためには、生産と流通をつなぎ、一緒に加工業を進めていくべきでしょうね。

(徳江)午後のシンポジウムでは、実戦に入れるような流れで進めて行きます。最初は、農業と関わっている若い人たちの話で、彼らはみんな普通にオーガニックで始めていますが、どうして始めたの、というところから、パネル・ディスカッションを行います。震災以後、農業の復興を含め、自分たちはどう行動すべきかを考え、いろいろな人たちが動き始めています。ご登場いただくマイファームさんも貸農園を事業化し、自然に有機農業を推奨しています。志野さんの「マイ農家」という考え方は昔の「提携」の発想が、今、自然な形で出てきているような気がします。
その後のシンポジウムでは、パルシステム、らでぃっしゅぼーや、ABCクッキングスクール、編集者といった方々にご出席いただいて、これからどうすれば有機を広げていけるのか、実践論の話をしていく予定です。震災以降、生産者と組んで何をしてきたかについても、触れたいと思います。