『小川町物語』の最後の取材である。3月に取材させていただいた土屋店長が指揮する「しまむら蓮田店」に行ってきた。蓮田店に電話したら、、「本日、土屋店長はお休みです」との答えだった。明日だと、わたしが伺えない。
思い立ったら吉日。自宅から蓮田を訪問することに決めた。途中いろいろあったが、とりあえず、一時間半で蓮田店にたどり着いた。蓮田駅で拾ったタクシーの運転手さんに、ずいぶん助けていただいた。地元の情報は、タクシーが一番握っている。いつか、奥戸(東京都葛飾区)の「あきんどスシロー」(回転寿司)を訪問したときも、いちばん地元で利用されている理由を教えてくれたのは、小岩のタクシー運転手の方だった。
蓮田店に到着してから、350坪の売場を一周してみた。来るたびに、しまむらは少しずつ進化している。商品も陳列も売場レイアウトも、行くたびに微妙に変わっているのだ。そして、お客さんは雑多である。これがしまむらの特徴かもしれない。「金持ちは来ないかも」と思っていると、これがとんでもないまちがいである。
その辺にいそうなふつうのおばさんも、バギーを押している茶髪の若奥さんも、ガテン系のお兄さんも、全面ガラスで見通しの良い入り口から、勢いよく店中に入ってくる。そう、滑走路から空に上っていく飛行機のように、皆さん勢いが良いのだ。
しまむらの店内は、トイレも店舗の床も、アモイから直接輸入した大理石のつくりである。だから、床に這いつくばっている子供を三人も連れているご夫婦連れが、ニコニコ笑って買い物ができる。明るくて、気持ちがいいのだろう。しまむらの店舗の床は大理石で掃除がよく行きとどいているので、親御さんは安心できるのだ。
「ファッションセンターしまむら」の商品で、ちょっと飽き足らない若夫婦ならば、モールの隣にあるセレクトショップの「アベール」に移動すればよい。モールは横長なので、天気がよくないときには、雨にぬれずに、雑貨の「シャンブル」や子供服の「バースデイ」に、カニのように横に移動できる。衣料品・雑貨モールとして、なんでも置いてあるところが、しまむらの特徴になっている。
これは、先月に行った高田馬場店も同じだった。女子高生から、国籍不明の外国人、怖そうなお兄さんや定年後にぶらぶらしていそうなおじいさんまで、顧客はものすごくバラエティに富んでいる。とにかく安い。粗利益が低く、経営システムとしては、競合は太刀打ちできない価格を提供している。そして、一時期から見ると、商品的にはファッション性が高まっている。
高シェア企業が、マスマーケティングを実行しているなんて、うそである。立派なトップ企業は、多様性に対応するマーチャンダイジングをしなければ、生き残れない。ファッションセンターしまむらやハニーズ(「若い子たちのしまむら」)の中にいると、ユニクロの商売が異常に感じられる。
17時55分、わたしは、せっかくだからと思い、一本970円の牛革ベルト(イタリア製)を購入した。とりあえずは一本でよかったのだが、あまりの安さに、つい二本も購入してしまった。どちらも牛革である。レジカウンター係の杉崎さん(レシートとネームカードに書いてある)に、「(本日はお休みの)土屋店長さんに渡してください」と名刺を渡した。声の調子から、午前中の私の電話に出たのが杉崎さんだとわかった。
そのまま帰ろうと思い 携帯でタクシーを呼ぼうとした。タクシー待ちの間、しばらく入り口のイスに腰掛けて店内を眺めていた。わたしの後で、店内を杖を突いて歩いているおばあさんがいた。余計なことだが、わたしも「おじいさん」に見られているのだろうか?と思うことがある。
買い物を終えたそのおばおさんを、カウンターの中にいた杉崎さんが、買い物籠を押して店の入り口に向ってきた。おばあさんは、障害をお持ちなのだろう。足を引きずっている。杉崎さんがタクシーを頼んだのだろうとわたしは推測した。
そのまま、わたしの隣の木のいすに座った。「どうしたのですか?」とそのおばあさん(年齢は70歳を越している)にたずねてみた。「このごろ、(しまむらさんは)すごく親切になったですよ」と。ということは、以前(2年前)は、タクシーを呼んでもらうことをためらうわれる雰囲気だったらしい。
土屋店長に代わった頃からである。取材に来たかいあった。現場で起こっていることを確かめることは大切である。なぜ、しまむらの本社が、土屋店長を紹介してくれたのか。単なる「M社員さん」(契約パートさん)から店長になったかたではなさそうだ。もっと深い理由があるのだろう。明日また、蓮田店に行ってみようかな。