日本経済新聞の朝刊(5月25日)で、気象情報会社「ウエザーニューズ」の創業者、石橋博良氏の訃報を知った。享年63歳、膵臓がんだった。いまは同僚となった嶋口充輝教授が、慶応ビジネススクールにいらしたころ、「当世ブランド物語」(1999)の取材で石橋さんを紹介していただいた。
その後は、WNI社がBS放送をはじめたときに、番組審査委員として5年間ほどお付き合いがあった。お天気番組の意見番である。ようやく放送局以外に開放されはじめたBSチャネルの開局で、WNI社は、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったソニーを打ち負かしての新規チャネルの獲得だった。 審査会には、ファッションデザイナーのこしのじゅんこさんや将棋の大内名人などが、一緒に集っていた。おそらくは、わたしと同様に、おふたりとも石橋さんの友人だったのだろう。
思い起こすと、石橋社長(当時)は、豪放磊落な方だった。記憶に一番残っているのは、わたしが『マーケティング情報システム』か『当世ブランド物語』のあとがきに、「一生かかって、自分の身長の高さ(166センチ)まで本を積み上げることを目標にする」と書いたときに、「先生、言うことが粋だねー」と喜んでくれたことである。
対象的に、同僚のひとりは、「小川さん、またそんなことを言うから、まわりから妬まれるんだよ」とコメントしてくれた。石橋さんにそのことを話したら、「そんなこと、気にしなくっていいんじゃないの。言わせとけば」と応援してくれたものである。といっても、いまだに全作品(30冊)を積み上げても、60センチにもならない。重刷を入れても、80センチそこそこである。まだ、予定の半分にも届いていない。 先ほど、HPの記事をひっくり返していたら、たまたま、5年前の記事が出てきた。
2005.06.18 Saturday
<社風は経営者の個性そのものである>(ブックオフとウエザーニューズ)
今週は、対照的なふたつの企業の集会に招待された。月曜日(13日)は、横浜ロイヤルパークホテルで開かれた「ブックオフコーポレーション(株)」(坂本孝社長)の経営計画発表会。水曜日(15日)は、幕張プリンスホテルで開かれた「(株)ウエザーニューズ」(石橋博良会長&社長)の「トランスメディア放送局WITH」発表記念パーティーに参加させていただいた。(後略)
両社の招待されたのだが、石橋さんの会社は、半分が外国人だった。「いったんやめた社員が、まだ出戻って来るんだよ」と、石橋会長は誇らしげだった。あのときに招待されたパーティーは、進行がシナリオどおりに進んでいるとは見えなかった。ある意味で、その良い加減さが石橋さんの会社らしかった。
その後、何度となく業績不振がささやかれていたが、とにもかくにも、石橋さんの個性で持っていた会社である。主を失ったウエザーニューズ社は、後継者が育っているのだろうか?やたらとドクターの多い、理科系の会社だったが。
最後に石橋さんと電話で話したのは、昨年の秋であった。青春出版社の連載「値段のひみつ」で、お弁当の需要予測(天気予報)をとりあげたときである。かつて後楽園のライト側のスタンドに立って、「風を読む」プロフェッショナルがいたことを確認したかったので、石橋さんに直接聞いてみた。
連載のブログに、石橋さんを紹介した記事が残されていた。2009年の11月であった。
<天気予報で利益を伸ばした企業とは?>
日本にはウェザーニューズという世界最大の気象情報会社があります。創業は1986年。もともと海運や交通事業者向けの情報サービスで、当時は一般企業が天気予報を買うという発想はありませんでした。そんななか真っ先に手を挙げたのは、意外な企業でした。
「それは屋根つきのドームができる前の後楽園球場。雨が降って試合が中止になったり客足が落ちると、球場では大量の廃棄弁当が発生します。以前は天気予報名人が空模様を見て発注量を決めていたそうですが、それでも月に150~300万円の弁当のロスが出ていました。そこでウェザーニューズの設立を機に、月額30万円で天気予報を買うように。実際、ロスが大幅に減って大助かりだったそうです」
そう解説するのは、ウェザーニューズの石橋会長。
天気予報の活用がいかに利益に結びつくのか、よくわかるエピソードです。飲食店、百貨店、映画館、書店…などほとんどの業種は、晴れか雨かによって、客足が大きく変わります。それをあらかじめ予測し、先手を打てば、売り上げが落ちるのを防ぐことも可能。明日の空模様だけでなく1週間後、1か月後のチェックも心がけたいものです!
丁寧に当時の事情を答えていただいたお礼に、拙著「マーケティング入門」を送った。そのお礼に電話が入った。「先生の本、すっごくおもしろいんで、社員にも買って読ませるようにします!」。
それが最後だった。ご冥福をお祈りします。