『フラワーショップ』のインタビュー(2007年)に掲載された記事が、いま皆さんから引用されている。市場法改正後の花産業の変化を、3年前に予言したものである。事態はその通りに推移している。当時の引用記事が、一部文字化けをしていたので、再掲することにした。
草土出版の編集部に、「インタビュー記事を個人HPに転載したい」と申し出たところ、運よく許可をしていただいた。そのまま転載することにする。
2月号のリード文は、「マーケットの中で努力した人が報われる世界が出現する」である。卸売市場法が変わる中で、花業界はどのような方向に進むのかに答えた取材記事であった。以下、「FLOWER SHOP」(草土出版刊)2007年vol.2より抜粋である。
――リード
2009年市場法改正による自由化により、フラワービジネスの地図はどのように変化するのか。IFEX、MPSなど花き業界の近代化を推し進める役割を果たしてきたJFMA。その大きな動きの仕掛人、小川孔輔会長が見据える「自由化時代の歩き方」とは!?
全国200市場の系列化が進み
5~10年で5~6系列に収まる
――2009年の市場法改正に向けて、2007年から業界はどのように変化していくのでしょうか。
市場法改正の大きな柱は、「商物分離の自由化」「手数料の自由化」「買取りの自由化」です。まず、商物分離が自由化されれば、荷受と仲卸の境目がなくなることが予測されます。
これまでの流通では、生産→荷受→仲卸→小売の加工センター、という段階を踏んで物が動かなければならなかった。その4段階が、商物分離によってなくなる可能性があるわけです。ある意味では、流通が非常にシンプルになる。例えば直送ですね。市場を経由しないで産地から直接チェーン小売業の加工センターに入っていくケースも出てくるでしょう。小売は切花、鉢物、花壇苗ともに、大手チェーン店への集中が進み、上位が合併していくので企業数が少なくなっていきます。それに伴い加工センターが大きくなり、物が市場を通らなくなる。市場の役割は「商」「ファイナンス」の部分になっていくでしょう。その影響はどう出てくるのか。
現在200社弱ある市場の系列化が進むと思います。おそらく5年か10年先には、5つか6つの系列に収まるのではないでしょうか。中央の主力市場の系列下に入った地方市場は、その支店的な役割を果たしていく。実際には、すでにそういった面もあるのですが、商物分離と手数料の自由化により、その流れが加速されるということです。食品や日用雑貨など他の産業でも起こったことが、花き流通でも起こるわけです。商物分離と手数料の自由化は、そのことを意味しています。
――系列に入る以外に、地方市場が生き残る道はないのでしょうか。
それには2つの可能性が考えられます。1つは、地方のスーパーマーケットと非常に密着な関係を築き、加工センターにくっつくという生き方です。もう1つは、「地産地消」です。地方の生産者と組織を築くことで、地場の花の出荷を地方市場が担う形です。「地場の小売チェーンとくっつく」か「産地とくっつく」、あるいは両者を仲介するという形だったら(、、、)、系列化されなくても生き残る可能性があるでしょう。
専門店は商品的にもサービス的にも
特化していかなければならない
――系列化による影響を教えてください。
まず、現在の価格競争が緩やかになるでしょう。系列化されれば価格コントロールが働きますし、手数料が下がると同時に量の集中が進みますから、価格は安定するでしょう。大規模な生産者は非常に楽になります。市場と生産者の関係が、委託ではなく、買取りによる長期の契約に変わりますから、年間を通じて一定の価格で安定的に数量が供給できる大きな産地は有利になると思います。大産地の商品は系列化された市場にすべて流れるので、やはり価格は安定します。
これまで転送をかけてきたものであっても、地場のものは転送をかける必要がなくなるでしょう。従って物流は効率がよくなり、商流上も価格が安定するはずです。大量に仕入れるチェーン小売業にとっては非常にプラスに働きます。
問題は専門店への影響ですが、これは予想が難しいところです。買取りや予約相対に流れる品物が多くなりますから、どちらかと言えば、量販店系のチェーン店が購買上は有利になります。ですから専門店は、「特色あるものをどうやって集めるか」という次の課題に取り組まなければならないでしょう。量販店と同じものを扱っていたのでは、商売取引上は非常に不利な立場になります。専門店は商品的にもサービス的にも、特化していく方向が求められていくでしょう。
他の業界の業種店はすべてそうなのですが、生き延びている店は、非常に特色があります。お客様がすごくしっかりしていて、御用聞き商売ができる特色のある専門店として生きていく。もう一つは、コンビニになった酒屋さんのように、チェーン店に加盟して業種転換していく生き方ですね。その2つに分かれると思います。専門店の生き方は、もう一つあります。アパレルのように、自らのデザインを主張してブランド化していく方法です。それをフランチャイズして、独自のチェーン化を図るわけです。
10年、20年先を展望する人は
生産性も利益も上がっていく
――小売業が大規模化しなければ、中間がいくら大規模化してもメリットが出せないと思うのですが。
ですから、市場の系列化には前提があります。それは、「ナショナルチェーンの花部門の収益性が上がる」ということです。100店舗以上で花売り場を展開できる小売業が、スケールメリットを活かして中間流通と組むという形が必要で、そのためにはブーケメーカーが大規模化、専門化して、大手量販店の売り場を後方から支援していく必要もあります。つまり、消費が伸びなければ市場が大型化しても意味がないということですが、私は5年ほどで花の消費がブレイクすると思っています。人々が教育について真剣に考え始めていることから、子供たちに対する「花育」に注目が集まるでしょうし、団塊の世代のリタイアで「時間多消費型」の社会が出現すれば、個人が楽しむ花や園芸が大ブレイクする可能性がありますからね。
――生産者はどうなっていきますか。
特色のある生産者の未来は暗くない。問題は共選共販の産地で、輸入花が最大の敵となります。片方で価格競争をしながら、比較競争もしていかなければなりません。その意味で、JFMAが推進しているMPSの取り組みや鮮度流通が、国内の生産者の優位性を高めるツールとなるでしょう。また、日本の種苗メーカーが品種的に、国内の産地をどれだけバックアップできるかにかかってくると思います。
――自由化は、業界にとっていいことなのでしょうか。
それはいいに決まっていますよ。自由化は競争激化を意味しますから、お互いに甘えて守っていくことを許さなくします。適者生存の原則によって、マーケットの中で努力した人が報われる世界になるわけです。未来に希望を持ち、10年、20年先を展望してやっている人は、後継者も育つし生産性も利益も上がっていくでしょう。
あれだけ強いオランダの2市場がどうして1つに合併するのかと言えば、海外の生産地との競合があるからです。5年先、10年先を見越してやっていかなければ、ケニアやエチオピア、イスラエルの産地や、ドバイのフラワーセンターと戦えないことが分かっているのです。日本の花き業界にも、そういった国際化の波がやって来た。しっかりと経営努力をしていかなければ、マーケットでは生き残れない時代になったということです。
プロフィール:小川 孔輔(おがわ・こうすけ)
日本フローラルマーケティング協会(JFMA)会長、法政大学経営大学院イノベーションマネジメント科教授。東京大学経済学部卒業後、同大学院終了。マーケティング、マネジメントサイエンスが専門。花と緑のマーケットの将来性に確信を持ち、常に10年後を描きながら、しなやかにすばやく行動する。