サービスに対する顧客満足度の地域差: ある自動車会社の事例

3年前から、自動車会社(トラック)の「顧客満足度向上」のコンサルテーションを行っている。最初は、CS調査の設計をする仕事からアドバイスをはじめたのだが、2年を経過してシステムが安定して来たので、地方の販社にお邪魔してヒアリングしている。


その自動車メーカーのバスやドラックを購入した顧客(輸送会社やメーカー、ホテル・旅館や公的機関など)の満足度が、販社ごとにどのくらい違っているのかを、現地でヒアリングをして歩いている。ふつうは各県別に販社が組織されているので、実質的には県別のCSのちがいを聞いて歩いているようなものである。
 同じ質問票を使っても、消費者向けサービスの場合、地域的に評価に偏りが出ることが分かっている。例えば、流通サービス業では、関東地方が一番CSの評価が「辛く」、北海道や九州は点数が「甘め」に出る。東北地方のCS得点は北海道に近く、四国・中部は全国的に見ると、中間のスコアになる。携帯電話やフードサービスに関しても、ほぼ同様な傾向が見られる。
 わたしの予想では、したがって、昨年から本格稼動したこの会社CS測定システムでも同じ傾向が出るのかなと思っていた。どころが、実際は、わたしが座長をしている「JCSI」(日本版顧客満足度指数)の測定結果とは、必ずしも一致した地域的な傾向が見られなかった。CSIに関しては、意図的にほぼ同じ質問項目を設定してある。
 例えば、昨年度の調査で高得点を獲得した販社(県)は、沖縄や群馬である。もちろん北海道や東北が比較的に高いストアを得てはいるが、群馬県のように、首都圏の販社でも上位にランクされている県もある。CSの回答について、県民性のバイアス(一定の回答性向)がかかっているという仮説は、企業間取引サービスでは、どうやら成り立たないらしい。
 それよりも、それぞれの販社の経営状態(経営者のリーダーシップやCSへの取り組み)やその結果としてのES(従業員満足)が、よりCSに直接的な影響を与えていた。現場に入ってわかったのは、県民性よりも、経営者のCSに対する考え方(顧客をどのように考えているのか?)やリーダーシップ(従業員の動機付け)が大切だという当たり前の結論だった。
 本社から言われて、あるいは、世間ではCSが大事といわれているからでは、CS向上(経営品質の向上)はむずかしい。そうではなくて、しっかりと消費者心理としてのCSの構造を理解していないと、全社的な取り組みの成功はむずかしいのである。