「MPSは事業継続のメッセージ」(JFMAニュース 2008年9月25日号)

日本の農家や商家の多くは、家族労働に依存しながら農業や商業を営んでいる。当主が65歳とか70歳とかの年齢にさしかかると、生業的に業を営んでいようが、株式会社で事業を運営していようが、仕事をつづけるかどうかの意思を周囲のひとびとに伝えることが求められる。


後継者がすでにいる場合や、子供が親と一緒に働いている場合は、一見してなんの問題もないように見える。しかし、経営者として積極的に仕事つづけるつもりがあるかどうかと、後継者がいるかどうかとはレベルがちがう話である。
 例えば、共同で出荷団体を組織していたり、荷受会社のように最低でも十数名の社員を抱えている場合を考えてみよう。経営者(リーダー)は、従業員(メンバー)から、事業をどうしたいと思っているのか、経営者としての気持ちを見られている。ある規模の組織であれば、後継者の存在と本当の意味での経営に対する積極姿勢は関係が薄い。
 経済環境がかならずしも良好ではないうえに、海外生産や異業種からのプレッシャーもある。昨今では一般的な競争環境も厳しい。だとすると、「事業継続で攻めの経営をする準備があるかどうか」こそが、従業員やメンバーに対する重要なメッセージになる。後継者という人的要素ではなく、投資計画の中にこそ事業継続の意思が示される。
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 「孫子の代まで農業(商業)を続けるつもりなので、MPSに積極的に取り組みます!」
このごろ、MPS(花き産業総合認証プログラム)に参加してくる生産者や市場、卸加工業者の取り組み方を見ていると、この印象をますます強く持つ。MPSに参加するということは、ふたつのことに対するシグナルの役目を果たしている。
 ひとつは、組合員や出荷団体メンバーあるいは従業員に対して、リーダー(経営者)として明確な決意を表明する効果である。MPSはやるべき手続きが具体的である。将来的に自分たちの仕事をどのように変えていくつもりなのか、その具体的なイメージをメンバーが共有できる。MPSに取り組むことは、農薬や肥料、無駄なエネルギーを削減する努力をする意思を表明するわけである。どのように取り組むべきかを意思統一できる。そのためソフトの媒介手段がMPSである。同じ土壌で、新しい枠組みを勉強するのである。学習効果も高い。
 ふたつ目は、お金が掛かることのプラス面である。一般に、農業でも商業でも、お金のかかる投資はできれば避けたいものである。しかし、補助金からではない出費を覚悟するということは、この先10年や20年は花を作っていく意思があること、あるいは、市場や加工業務を続ける気持ちがあることを世間に示すことになる。撤退や事業縮小をするのであれば、MPSに参加する必要はない。敢えて新規に投資をして、さまざまな機器や資材を投入し、経営を改善する努力をする必要もない。競争相手や納品先もベンダーも、その個人や組織がMPSを導入するのは、現状を変えたいと思っているか、事業を伸ばすために積極的に撃って出る意思があることのシグナルと読むのである。
 MPS―ABC(生産)は、子供が親を説得して入会してくるケースが多い。親は参加を渋るのだが、若い人たちの間では、MPSへの参加が親たちの仕事のやり方を公式的に乗り越えるための手法であり、そのための道具であると考えられている。
 市場のMPS取得も、その荷受会社が本当に生き残りをかけて戦うつもりがあるかどうかの試金石になりつつある。MPS(トレード)は、その取り組自体が、経営への積極姿勢の目安となる。それが定着しつつあることは喜ばしいことである。というのは、こんなきびしい世界の中でも、まだまだ希望をもって花の産業にかけてみたいと思っている人が少なくないことを知ることができるからである。