テレビ番組のプログラム価値マップ(上) 日経広告研究所報240号掲載

岩崎達也氏(日本テレビ編成局エグゼクティブディレクター)との共著論文「テレビ番組のプログラム価値マップ(上)」が、『日経広告研究所報』240号(2008年8-9月号)に掲載された。昨年度、わたしが大学院MBAコースの指導教授として岩崎氏を指導して出来上がった修士論文を再分析し、リライトした論文である。(上)(下)二回に分けて、雑誌論文として掲載されることになった。


論文のサブタイトルは、「質的評価尺度の活用と番組のライフサイクルマネジメント」である。従来は、視聴率一辺倒だったテレビ番組の評価に、質的尺度(Qレイト=好意度)を導入しようとする意欲的な試みである。視聴率とQレイトのふたつの指標から、番組の価値を表す二次元マップを提案しているところが画期的である、と自負している。
 (上)では、「Qレイト」(番組好意度)の概念紹介にはじまり、Qレイトと視聴率の時系列相関を数値的に仮説検証している。つづく(下)では、バラエティ番組のライフサイクルを分析している。「ロングセラー番組」がどのように維持できているのか?番組が「終番」になる場合の法則などを、番組の「プログラム価値マップ」を活用して記述している。
 分析対象としてとりあげたテレビ番組は、93のバラエティ番組の時系列データである。時期によって、番組の位置を4つのタイプに分類している。「前座」「泣かず飛ばず」「スター」「売れっ子」は、岩崎氏の命名によるものである。
 「はじめに」の部分だけ、要約して紹介することにする。興味のある読者は、本編のコンテンツについては、日経広告研究所報をごらんいただきたい。

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 はじめに:研究目的とその背景

 日本の放送業界は本格的な多メディア時代に突入した。それにともない、視聴行動も多様化している。BSデジタル放送の受信機器普及台数は、2007年10月に3000万台を突破し、BS放送の受信が可能な世帯は、調査対象全体の41%にも及んでいる。CS放送やケーブルテレビの専門チャンネルについても、視聴可能な世帯が全体の14%に上っている1 。
 テレビの視聴は、もはやみんなが同じ時間に同じタイムテーブルで、わずか6局の選択肢の中から番組を選んで見るという時代ではなくなってきている。いままで放送局の編成主導で行っていたテレビ視聴は、ますます視聴者主導に移っていくと考えられる。いずれは、好きな場所で、好きな時間に、好きな視聴用ツールで番組を見るという状況になるだろう。視聴者は、かつてのような一括りのマスではなくなる。マスの分化が進み、従来型の視聴者は存在しつつも、能動的な視聴者や熟練した視聴者の出現が指摘されている。
 「メディアの変化」、「視聴者の変化」、「視聴環境の変化」の中で、テレビ視聴を量的に表現した「視聴率」だけでテレビ番組を評価することはもはや十分ではない。視聴率は、テレビを見ている世帯や人を量的にカウントしたものである。換言すると、視聴の広がりを表現した尺度である。多様化する視聴ニーズに応えるためには、視聴を質的に評価することも重要である。われわれが取りあげる視聴のもうひとつの尺度は、放送業界で「Qレイト」と呼ばれている「番組の好意度」いわば「視聴の深さ」を表す尺度である。
 本研究では、視聴の量的尺度である「視聴率」に加えて、視聴の質を表す尺度である「Qレイト」を分析に利用する。2つの尺度の関係性を明らかにしたうえで、視聴率とQレイトの両方を用いて、テレビ番組の価値を評価するための「プログラム価値マップ」という評価手段を提案する。プログラム価値マップは、番組のライフサイクルをマネジメントするために活用される。
 検証のために用いられる視聴データは、2007年5月時点での各局のプライムタイム(19~23時)の全バラエティ91番組の時系列データである。最初に、番組のスタート時点から現在まで、視聴率とQレイトの時系列相関が分析される。つぎに、全91番組について、世帯視聴率(X軸)とQレイト(Y軸)を2次元平面にプロットした「プログラム価値マップ」が作成される。各時点のテレビ番組は、広がり(視聴率)と深さ(Qレイト)のスコアによって、4つの価値ポジションのいずれかに分類される。ポジションの推移過程を追跡することで、それぞれの番組のライフサイクルが明らかにされる。番組のライフサイクルに関しては、3つの法則が抽出される。
 本論文は、5章で構成される。内容は、以下のようになる。
 第1章では、二つの視聴尺度、視聴率とQレイトについて説明がなされる。第2章では、消費者行動論の枠組みにより、3つの仮説が導出される。第3章では、番組視聴階層モデルに沿って仮説の検証を行う。仮説検証の内容は、①Qレイトと視聴率との相関分析、②番組ライフサイクルから番組の盛衰をみることである。第4章では、仮説の検証結果と導き出された法則性について整理する。最後に、実務へのインプリケーションが提起される。