昨日(27日)、京都ワコール本社で久しぶりに山田龍部長にお会いした。
山田部長はわたしと同年代で、ワコールの社員としては異色な経歴の持ち主である。
一度は外部の企業(自動車のデザイン会社)に出向し、本社に戻ってきた経験を持った人だからである。本来の訪問目的は、中国事業担当の宮本進取締役(ブランド移転の連載準備)をインタビューすることであった(詳細は別途に連載記事でお伝えします)。
その帰りに、取材の仲介をしていただいた旧知の高坂貞夫部長の取り計らいで、3人で京都駅でお昼をご一緒することになった。3年前の秋口、山田部長は本社事業戦略室部長のポジションに就いていた。その後すぐに現在のパーソナルウエア事業部に転出することになった。当時は、日本能率協会(JMA:エグゼクティブ・コース)のセミナーで、ワコールの事例紹介で講演をお願いした。
申し訳ないと思ったのは、ワコールの事業戦略を、平均年齢45歳の男性部長さんたちの前で話していただいたことである。大手製造業から選ばれた30数名中に、女性部長はわずかに一人だった。これが日本企業の現実である。
塚本前会長の創業理念、会社の歴史、女性下着の開発、国際競争と市場分析の話が内容だった。わたしにはとてもおもしろかったが、京都まで泊まりがけで合宿セミナーに参加してレポートを書いた彼らに、ワコールの事業はピントこなかったように見えた。われわれ世代の男性管理職は、女性に向けの商品を見る感性ではほぼ失格と判断したものである。ワコールの事業を大転換させるには、男性が女性に下着を贈るギフト市場を開発することが必須だとわたしは感じていた。ちなみに、「ビクトリアズ・シークレット」(サラリー社の傘下小売チェーン)の成功を見るまでもなく、米国ではこの市場が非常に大きく成長した。だから、事業家の視点で日本の問題を考えてほしかったが、この分野に理解を示すことができる人は皆無であった。
話を本題に戻す。昨日の会話では、「夜に靴下をはいたままに寝ている人がどのくらいいるものなのか?」という話題になった。フランス料理のフルコースを食べながらの会話であるから、この「靴下談義」はちょっと滑稽ではあったが。冷え性の女性が多いはずだから、比率としてはけっこうな数になるのではないか、というのがわたしの推測だった。
山田部長の仕事のひとつに、実はナイトウエアの開発がある。ワコールの従来の事業領域は、「インティメイト・アパレル」(肌につける衣料)である。女性用のブラ、ショーツなどを販売しているワコールは、女性向け高級下着のトップメーカーである。
この事業の定義を「パーソナルウエア」と呼ばせたのは、高坂部長のアイデアである。山田部長は基本コンセプトを拡張して、ワコールの事業領域を「女性の下着」から「仕事のあと就寝にいたるまでに着用する部屋着」と定義した。リラクゼーション・タイムに、個人が身につけるすべてがワコールの事業領域に含まれることになる。山田さん流に言えば、インティメイト&ウエルネスとなる。
「ベッド(布団)にたどり着くまでの時間が対象だとすると、靴下や浴衣(ワードローブ)なども商品として事業領域になるのでは?」と言い出したのはわたしである。答えはその通りであった。山田部長が手がけた最近のヒット商品は、シルクのパジャマであった。偶然にもタオルの「内野」(バス&ボディショップ)とのコラボレーション企画が進行中であった。ライフスタイルで表現すれば、確かにワコール(肌に触れる衣料)と内野(バス&タオル)は事業としての境目がなくなる。だから、内野のショップでは、ワードローブや浴衣が売られているし、ワコールに対して、内野がワードローブをOEM供給しているのである。それとは反対に、内野がナイトウエア(ランジェリー)の一部をワコールから調達している実績がある。
パジャマと靴下は、商品学的に分類すれば、肌に直に触れるアンダーウエアに属する。だから、両者は当然ワコールの事業領域になりうる。ワコールの強みは、日本(アジア)の女性の体を科学的に測定分析し、そのデータを元にマーケティングを展開してきたことである。「靴下をはいて心地よく眠りたい」というニーズが存在するのであれば、まちがいなく事業とし取り組める市場である。しかも、新しい種類の靴下であるから、市場は小さくない。
どうやら、山田部長のチームは、この世界に足を踏み入れているようである。ワコールは「快眠の科学」の研究に着手しているようで、近々「快眠パジャマ」「快眠ソックス」が発売されると聞かされた。「ワコール・快眠ソックス」は、眠ってからしばらくして、女性が寝返りを打つときに自然に靴下が脱げる特徴を持っている(理想はそのはずである)。自然に脱着する商品特性を持たせた理由(ルーズソックスの原理を使えばいい!)は、山田部長曰く、「最初は寒いからカバーとして靴下が必要だけど、眠ってしまうと体温が下がっていくので、そのままだと暑く感じてしまう。だから、眠っている間には靴下は脱げてくれた方がいいでしょう」
さて、皆さんの中で(とくに女性の中で)、靴下をはいて寝ている方はどのくらいいるのでしょうか? その方たちにお願いです。コラムの後半のアイデアに、ご意見をいだだけませんでしょうか? ご意見はワコールの商品開発にフィールバックさせていだだきます。応募していただいた方には、「快眠ソックス」「快眠パジャマ」(小川教授が命名)の発売後に、ワコールから試供品を差し上げます。
メールの宛先は、小川孔輔