儲かったときは、皆さん「儲かった」とはあまり言わないものだ。今回の急激な円安と諸物価の上昇で、花業界人のうち、川上の人たちは実際はかなり儲かっているはずである。とりわけ生産者と卸市場は、コストアップで商売そのものは厳しいから、「モノは入ってこないし、資材の高騰で困ったものだ」と言っている。
それでも、本当のところは、日常の会話で出てくる話とは、実態は違っているように見える。
年末にかけて、状況に多少の変化はあるようだ。しかし、基本的に円安一服している。値段は高止まりの傾向にあることに変わりはないが、卸市場では取扱高の一定比率が手数料収入料になる。数量の一定率ではないから、値上げは即儲けになる。わたしが見たところ、生産者と市場だけでなく、大手の専門店チェーンなどは、いまのところ値上げで潤っている店が多いのではないかと思う。
わたしの場合も、コンサルティングの仕事で、今年の決算は黒字幅が拡大している。理由は、単価の安い仕事を断るようにしているからだ。残された時間が少くなってきた。本当に必要な時間を楽しむために、単価の安い仕事ははっきりと断るようにしている。
どこの業界でもそうだが、たしかに円安で輸入品の価格は高くなっている。海外からの資材調達も大変である。資材の価格が高騰している上に、基本的に人手不足である。農業分野や飲食業、小売業全般でも、技能実習生やアルバイトの学生が集まらないらしい。したがって、一定以上の賃金を払うためには、仕事そのものを効率化するしかない。それができない場合は、赤字どころか廃業の憂き目にあう。
最近、飲食店で店じまいをするところが増えている。サービス業たけでなく、メーカーでも同じことが起こっている。人手が足りなので、仕事を断ることが多くなったという話をよく聞く。悪い話ではない。良い円安の効果で、値上がりで生産性向上につながるケースだ。効率よく働き、無駄な仕事はカットして適度に休むこと。
結果的に、効率の悪い会社や事業が淘汰され、業界でプレイヤーの組み換えが起こる。非情に聞こえるかもしれないが、効率の悪いプレイヤーの退出は、悪いことではない。いまの日本社会は、オイルショック後の1970年代をほうふつとさせる動きになっている。全体としてみると、この機会は日本にとって大チャンスである。無駄のない社会に移行していくのではないだろうか?
わたしは、だから、いまの日本には全く悲観していない。円安のおかげで、海外に移転した製造業が国内に回帰している。たとえば、海外移転の代表選手だった仙台のアイリスオーヤマが、お膝元の角田市に大連にあった金型(プラスティック成型加工ライン)を戻している。
収納納品や園芸用のプラスティック商品などは、空気を運んでいるようなものだ。どう考えても、海外で生産することは、物流費の観点から割りに合わない。
アイリスの大山健太郎会長は、目鼻が効く経営者だ。だから、その他メーカーもいずれは追随するに決まっている。その他の有力な部品メーカーも、国内に工場を移している。わが園芸業界でも、種苗会社が種取りや苗の調達で、必ずしも海外で生産することが有利ではなくなっている。さらには調達のリスクもある。
いずに半分以上は、日本に、しかも出て行った先の地方に戻ってくることは間違いない。海外生産は、次第にコスト的にもリスクの面でも割に合わなくなってきている。
わたしは個人的に、農業分野(農産物)でも食糧安全保障の観点から、「鎖国の勧め」を説いてきた。この調子だと、5年後には、大幅な円安で自給率が37%から50%くらいに高まるだろう。エネルギー政策に関しても、いつまでも政情不安なアラブ諸国に依存し続けるわけにもいかないだろう。脱原発でないとすれば、風力や地熱など代替エネルギーの開発に拍車がかかるだろう。
諸物価と賃金の高騰は、実は働くものにとっては福音である。企業にとっても、この際は値上げに言い訳ができるわけだ。資本主義経済では、競争的な資源の効率化が進む。社会全体は悪い方向には向かわないだろう。むしろ、中国のように情報コントロールに拘る国や体制が危ない。計画経済の仕組みに戻ることで、操縦かんを握った途端に経済がおかしくなる可能性がある。
統制色が強い権威主義の国が、不経済なシステムゆえに崩壊することが、この先起こらないとも限らない。日本国は、良い円安と程度な値上げで、経済システムを効率化できるチャンスに恵まれそうだ。