コンタクトレンズの視界

 小学校の頃からひどい近視だった。運動のときにうっとうしかったので、めがねはできれば外したかった。大学生になったころ、コンタクトレンズが発売された。当時はハードレンズだけだったが、眼科医に行く前にがっくりすることになった。強度の近視と乱視のわたしには、適当なレンズが見つからないことがわかったからである。


そんなわけで、めがねとサヨナラすることをほとんどあきらめていた。ところが、この夏に一緒に走った桑原和男さんに、是非コンタクトにするようにすすめられた。20年でレンズを作る技術が変わっていた。走るためにコンタクトにした桑原さんの経験によれば、長距離を走るときにコンタクトだとパフォーマンスが圧倒的に違ってくるとのことだった。
 先々週、とうとう満を持してコンタクトを買いに行った。最初の一週間は使い捨てレンズを使ってみた。J&J(ジョンソン&ジョンソン)のワンデー・アキュビューである。いつもつけて歩くわけではないし、パーマネントのものは、子供達の様子を見ていると洗浄などが面倒くさそうである。2、3日、試しにコンタクトレンズをつけて皇居のまわりなどを走ってみた。汗をかいてもめがねを気にする必要がないので楽である。視界が広がったような気になり、桑原さんが推奨してように、確かに記録はあがりそうである。
 ただし、大きな不具合があった。ワンデーのレンズには乱視が入っていなかった。それとけっこう老眼がすすんでいるので、ラップタイムを確認するためにつけている時計の文字盤がかすんでよく見えなかった。レースには不向きである。
 「アイシティ」(船橋店)の小林眼科を再度訪問した。使い捨てでないレンズには、乱視が入っていることがわかっていた。最近では遠視矯正用のレンズが開発されていると知らされた。遠近両用コンタクトレンズである。5万円はちょっと高いと思ったが、コンタクトの良さを知ってしまったので、思い切って投資することにした。それに、ワンデーの残りを返してくれれば、4千円返金してくれるという。ああ、商売人!やられてしまった~
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 コンタクトレンズの成果はすぐ目に見える形であらわれた。先週、長野県の駒ヶ根で15キロレースを走った。2ヶ月ぶりの大会参加である。夏に200キロを走りこんでいたので、練習量は充分であった。むしろ8月の走りすぎで、9月中旬以降は筋肉疲労に悩まされていたくらいである。アップダウンの激しいコースである。とてもではないが、自己の記録を更新できるなどとは思わなかった。
 走りはじめの5キロは、昇り坂ばかりである。標高600メートルからさらに150メートルを一挙に登りきる。5キロ地点までは24分。つぎの5キロは、ジェットコースターのような300メートルのダウンスロープである。林間の曲がりくねったコースを一挙に下る。これを約20分強で走り抜けた。最後は一転してまた150メートルの標高差を昇る。時間は1時間09分03秒。めでたく自己新が更新できた。50歳台の15Kレース参加者517人中、なんと103位である。
 コンタクトにして一番に感激したことは、視界が広くなったことである。めがねはなんとうっとうしい道具なことか。こんな広々とした世界に生きていたのか、といまさらながら思った。実は、マラソンで下り坂を走るときにめがねが動くのである。そのために、地面が上下に揺れるような気がしていた。この感覚がなくなったことが記録更新に大いに貢献している。
 鏡で自分の素顔をはじめて確認できたことも、・・・感激であった。周囲からは、目が小さいと言われてきたが、それほど小さくもない!ことを確認した。けっこうかわいい目ではないか!(皆さんどう思います?)
 ただし、こまったことがまだひとつある。正直に告白すると、わたしは手が不器用である。そのうえ、とても恐がりである。コンタクトレンズが、いまだにうまく装着できないのである。眼鏡屋さんで練習したときは、両方のレンズがうまく入るまで35分かかった。そばにいた若い店員の女性に悪いことをした。「両方が入るまで、2時間かかったお客さんもいましたから・・・」と慰められたが、50歳を超えたおやじの「目ん玉」にレンズを入れる訓練をするのに、30分以上ああでもないこうでもないと教えるのは、気持ちのよいことではないだろう。ごめんなさいね。
 駒ヶ根マラソンを走ったときは、完全装着まで25分かかった。おかげでレースのスタートに遅れそうになった。本日は、しかしながら、わずか2分で両目にレンズが入った。実は、いままでは左目から装着していたのである。本日は、右目から入れてみるようにした。利き目が右だからである。
 今週末は、福島県の松川浦で10マイルを走る予定である。結果はいかに。そして、これも生まれて初めての試みであるが、高橋尚子をまねて、コンタクトレンズにサングラスをかけて走るつもりである。松川浦は、美しい砂浜の海岸線が10キロ以上続く。あさっては、晴れるといいけれど。

<後日談>松川浦大橋マラソンは、1時間12分49秒でした。自己記録を2分20秒更新しました。