レポート拝見: 学生たちが見たスーパーの花売場

 法政大学経営学部で「マーケティング論」を受講している2年生(約500名)に対して、以下のような「後期レポート」を課してみた。正月休みに近所のスーパーをまわって、花売場(コーナー)を観察し、結果を報告せよという課題である。


教室で実施された後期試験では、事前配布しておいた拙稿「夜に花は売れる?」(JFMA通信2003年)について、彼らにコメントを求めるものであった。500枚の採点を終えたが、まる3日を要した。仕事とはいえ、教員の負担はたいへんなものである。まじめにやれば、の話ではあるが・・・

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<設題>(試験問題としては、「第4問」になっている)
1 近所の食品スーパーを訪問し、花の売場を観察せよ。以下のポイントをチェックせよ。
 (1)売場がある場所(入り口、奥通路、レジ横など)、(2)陳列方法、(3)切り花のアイテム数、(4)売場全体のボリューム感、(5)デザイン性(単品販売、ブーケ、アレンジメント)、(6)その他気づいたこと。
2 営業時間が異なるふたつのスーパーがあったとすれば、わたしの主張通りに、切り花の売上は、営業時間が長い店のほうが、他のカテゴリーと比べて(相対的に)高くなるだろうか? 文章中であげた「小川の理屈(営業時間が長くなると切り花は売れる)」は正しいだろうか?
3 営業時間が長くなることで、得をする商品カテゴリーを列挙せよ。逆に、損をする商品カテゴリーを列挙せよ。また、その理由を述べよ。
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 レポートの出来は、すこぶるよかった。彼らはおどろくほど真面目に課題に取り組んでいた。先ほど生徒たちの回答を、まる3日間かけてすべて読み終えた。個人的な感想を含めて、若者らの意見を集約しておきたい。常識的な反応とビックリする答えがあった。

1 売場の観察記録から
(1)売場の位置
 彼らが訪問した花売場の約7割がセルフの売場であった。花売場(コーナー)の広さは、20㎡~300㎡(平均100㎡)。学生たちが床面積をやや過大評価しているのでは?とわたしは感じている。3割を占めるインショップ形式の対面販売では、9時ごろに販売員がいなくなり、共用レジでの精算になるのがふつうのパターンであった。
 なぜ花売場が入り口の近くあるのかを理解させることが、設問(1)の狙いである。花売場が入り口にあるのは、買い物全体に与える「心理的な効果」と「物理的な理由」(搬入の便宜と水やりの問題)がある。その意図はよく理解できていたように思う。
 多くの学生から、花束の陳列場所(コーナー)はレジ横にあったほうがよいという意見があった。最終的に買おうとしてとき、再度入り口に戻らなければならない。とても買いにくいという理由である。花の販売コーナーが、入り口近くかつレジ横というレイアウトの店が最近では増えてきている。

(2)陳列方法とアイテム数
 ひな壇形式の陳列方式(3段が標準的)が一般的であった。欧米のスーパーでよく見かける、特別な陳列什器を導入しているところは少なかった。対面形式で「円形レイアウト」の絵コンテを提出してきた学生がいた。
 学生たちは、設問にしたがって一生懸命に品数を数えていた。セルフ販売では30アイテムが平均的である。バックルーム在庫を除くと、束数は200~300が標準的であった。陳列方法に工夫が凝らされていることには、彼らなりに気付いていた。すなわち、色の鮮やかなものや背の高いものは下段の手前に、背の低いものが目線の位置に陳列されていること。赤、黄、ピンク系など、とりわけ暖色系の商品では、花色をグルーピングしてレイアウトがなされていることの理由を考えていた。仏花があまりよくない場所に置かれていることについて、きちんとコメントしていた優秀な学生がいた(「目的買い商品」を目立つ位置におく必要性はない!)。

(3)デザイン性など
 驚いたのは、花の専門店として「AOYAMAフラワーマーケット」の認知度が高いことである。また、「ミニブーケ」という表現を使う男子学生が少なからずいた。スーパーでの花販売(デザイン)に、AOYAMAフラワーマーケットの「ライフスタイルブーケ」が影響を与えていると解説していた学生が5人いた(全体の1%)。
 なお、学生たちの観察によると、8時以降売れているのがミニタイプのブーケであるという結果が報告されている。また、鮮度保持剤が花束に付いているケースが複数報告されていた。その場合は、店員さんへのインタビューと自分の観察の結果、総じて花の品質(持ち)がよいのでよく売れているという印象(想像)を抱いているようだった。

2 夜に花は売れるか?
(1)賛否両論
 この課題に対しては、8割が「そう思う」、2割は「そう思わない」という回答だった。
 異論を唱えた2割のなかには、「理屈の上では、(先生が主張するように、)営業時間が延びて売上が伸びるかもしれないけれど、それは立地によるのではないでしょうか」という意見が半数ほどいた。こうした意見は、実際にスーパーの店頭に立って数時間(19、20時ごろ~24時)、自分で花売場の買い物客を観察した結果から来ている。それなりの信憑性があると考えられる。
 夜間に花の売上があまり伸びない事例は、郊外型の店舗で多い傾向が見られた。主たる顧客が主婦の場合は、閉店時間を繰り下げても影響は大きくないと推察できる。店員にインタビューした学生からの報告を総合すると、営業時間の延長で花の売上が伸びた駅前立地のスーパーでは、夕方以降の中心顧客は主婦ではなく、仕事帰りのOLや男性客とのことであった。具体的に店舗名をあげると、「カスミ 南柏店」「ナリタヤ 八千代台店」「クイーンズ伊勢丹 仙川店」などである。大手の全国チェーンではなく、意外に中堅ローカルスーパーの名前があがっていた。また、帰省した学生によると、地方のスーパーではほとんど夜間延長の効果が出ていないとのことであった。住宅地を後背地としたターミナル駅立地の食品スーパーにおいて、営業時間の延長効果が大きいのではないだろうか。

(2)結論と提案
 夜になると花はきれいに見える。また、夜はゆったりと花を買うことができる。ふたつのメリットを学生達は認めてくれた。理屈の上では夜に花が売りやすいことを納得してくれた。スーパーで売られている花の値段は、思ったほど高くないとも感じてくれていた。
 意外だったのは、「夜になると、花は鮮度が落ちるので買わないのでは?」という意見があったことである。しおれてしまうという誤解ならば、花は翌日にまた元気を回復する。一週間くらいは鑑賞期間が持続する。これには説明が必要なのではないかと思った。
 若いひとたちの誤解は、花の寿命にとどまらなかった。花を買うのは、「母の日」や「卒業式」などに限定される。特別なことで、自分のために買うなどとは考えられないという誤解である。ちょっとした誰かへのプレゼントであったり、小さな自分へのご褒美であったりすることがごくふつうのことであると知らせる努力が業界人としては必要である。
 その意味でも、今回は手強いレポートの採点を経験することになった。ただし、この問題を通して、花について学生たちは身近に感じるようになったはずである。