米国のスーパーマーケットの花売場が変わった!

 3月26日から28日の3日間、じっくり時間をかけて米国の小売業を視察する機会を得た。とくに、カリフォルニア州のサンフランシスコ湾岸地域では、朝から夕刻までの時間をフルに使って、スーパーマーケットの花売り場と有機野菜のコーナーを集中的に観察した。


今回は、スーパーだけでも全部で10店舗を見て回った。ホールフーズ(全米最大のオーガニックスーパー)、トレーダー・ジョーズ(新興食品店チェーン)、アルバートソン(典型的な西海岸のスーパー)、ドレーガーズ(地域一番の高級スーパー:3店舗)、アンドロニコス(地域スーパー:10店舗)、パブリックス(マイアミ地区のトップスーパー)などである。
ちなみに、スーパーマーケット以外に、コストコ(会員制クラブ)、ウォールマート(ディスカウントストア)、イケア(家具店チェーン)、ロングスドラッグ(ドラッグストア)などを視察したが、どこの店にも花の売り場(コーナー)があった。
 15年前の学部卒業生・中村好一君が、フレズノに本社がある青果輸出会社(Fresh Pacific)に勤めている。彼には申し訳なかったが、休日の家族サービスを犠牲にしてもらい、有機野菜の生産者や出荷業者などにインタビューの約束を取り付けてもらいながら、3日間、花売り場の視察も一緒に見て回ってもらった。
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 4年ぶりで訪問したスーパーの花売り場は、驚くほどの変貌を遂げていた。もちろん良い方に変わっていた。とくに、ハイエンドのスーパー(ドレーガーズ、アンドロニコス、ホールフーズ)からは、一束10ドル(日本円で約千円)以下の花束がほぼ消滅していた。もちろん5~6ドル(500円から600円)の花束が無いわけではない。しかし、それは、主としてマムやチューリップなどのシングルブーケ(7~8本入り)である。それも入り数が5本以下のものはない。目立つところに置いてある主力アイテムは、10ドル以上のハンドタイ(手作り)のミックスブーケである。
 ドレーガーズの売り場を例にとると、一番下は9.99ドル(1アイテムのみ)からはじまって、上は17.99ドルまで。ほぼ1~2ドル刻みで値付けがなされている。中心価格帯は、14,99ドルであった。日本円で考えると、ボリュームゾーンは1480円ということになる。ミックスブーケを構成する花材は、14.99ドルの花束をひとつの例にとると、中輪のマム(2本)、ガーベラ(2本)、バラ(2本)、ユーカリ(2本)、レザーファーンなどのフィラー(数本)、その他季節の花(リンドウ2本)で、まとめられている。合計の本数では、12~15本。どの価格帯のブーケでも、原価計算をしてみると、1本が約1ドル(100円)についている。
 すべての花束には、フラワーフード(延命剤)の小袋が着いている。また、花束の結束には、自然素材のストロー(わら)が使われていた。スリーブは二重構造になっている。内側には単色カラーのラッピング用紙(ピンク、パープルあるいはグリーン)が花を包み、さらに外側が透明のセロファンで覆われている。「カリフォルニア産」(CA Grown)などの表示がある花束も見かける。ちなみに、ミックスブーケは、ドレーガーズの場合、ASA Floral という名前のブーケメーカから供給されていた。ファッションセンスがある花束加工業者が育ちつつあると言うことである。数年前にマイアミのブーケメーカーを訪問したときには、こうしたセンスの良さは感じられなかった。
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 花の売り場は、ほぼすべてのスーパーで、入り口の一番目立つところにあった。わたしも中村君もびっくりしたのは、イースターの休暇中(26~28日)とはいえ、店に入ってくるお客さんのほぼ全員の視線が花束(あるいは、チューリップや水仙などの球根鉢花)に向くことである。それだけでない。10時半頃に訪問したドレーガーズを例に挙げると、フロントから入ってきた来店客の3人にひとりが、ほとんど迷わずに花束を手に取っていった。さらに、多少迷って最初取り上げた花束をバケツに戻したり、別の花束を取りだしたりした顧客も入れると、ほぼ半分のひとがレジに花束(鉢花)を運んでいった。本当に驚きであった。
 陳列のセンスも悪くない。ディスプレイ用の外側はブリキ(フランス製)で、その中には、緑色のプラスティックの丸容器がすっぽりと入っている。ちなみに、レジ横には、衝動買いを誘うために、花束が関連陳列されている。買い物客にとっては、雑誌やガムや乾電池よりは、気持ちの良い商材であるから、ディスプレイ効果も馬鹿にならないはずである。約半数のスーパーが、レジ横に花束(鉢花)を陳列していた。
 米国の消費統計データだけを見ていると、以上のような事実は見過ごされてしまう。3年前のデータでは、米国人は約25%の人しか花を買わないことになっている。一人当たりの切り花消費額は約35ドルで、日本人の42ドルより金額が小さい。しかし、2年ぐらい前から、繁盛店になるスーパーの条件が変わってきたようである。地域密着と健康・ファッション志向のプレゼンテーションが成功の要因になっている。
 こうした動向は、おそらく高学歴で比較的豊かな人たちが住む地区(ボストン・ニューヨーク、シアトル・ポートランド地区、サンフランシスコベイエリア地区)からはじまったばかりである。したがって、トレンドが全米に浸透するまでには多少の時間がかかりそうである。全国統計で、切り花の販売はそれほど伸びていないように見えるのはそのためである。しかし、紹介したように、英国で10年前にはじまったことが、米国の豊かな層でようやくはじまったと考えてよいだろう。次は日本の番である。