大きなカバン、小さなカバン

 わたしは、コムサの店が好きである。それほど頻繁というわけではないが、シーズン毎に、亀戸駅前サンストリートにある店に足を運ぶ。店員さんも清潔感があって親切である。それでいて、接客上手な店にありがちなうっとうしさがない。


亀戸はしっかり下町である。近場で買い物をする主婦などが多い。無印良品などもあって、値段はあまり高くない。気張らない買い物ならば、実質的な満足度は高い。
 店舗そのものも、売場のレイアウトもすっきりしている。だから、商品が選びやすい。せっかちなわたしには、ショップの配置がシンプルで理想的である。いつも買うのは、ワイシャツやズボン、セーターなどの洋服である。デザインが良くて、商品はしっかりしている。安い商品にありがちな耐久性への不安もない。
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 二ヶ月前に、そのお気に入りのコムサの店で、小さな黒いカバンを買った。素材は合成皮革である。商売道具なので、カバンは用途に応じていくつあってもよいが、こんどのものはいままでとは選び方の基準が違っていた。
 わたしはカバン好きである。10万円以上はした?米国ハートマン社製のラゲッジも所有している。コレクターというわけではないが、いろんなカバンを持っている。ハートマンのカバンは中でも一押しである。クラシックなデザインもさることながら、革の匂いが素敵である。内枠が木製なので、電車の中で席があいていないときなどは、腰かけとして使うこともできる。ただし、重いのが難点である。また、枠のサイズが大きいので、混んでいる電車の中では、角の部分が隣人の足やお腹の部分に当たって、ひんしゅくをかうことがある。
 その場で見て気に入れば、2~3万円くらいなら、瞬時に購入を決めてしまう。デザインが気に入ると、海外などでは、女性モノのカバンでも平気で購入してしまうことがある。だからといって、あまり後悔をした記憶はない。
 ところが、ここ数年間は、いつも持ち運んぶカバンが一種類であった。7~8年前に新橋の「ケントハウス」(Kent House)で買ったカバンが気に入って、それ以降はそのブランドを継続して使っていた。ベージュっぽい布生地のカバンで、仕事で資料を持って歩くのにちょどよいサイズであった。ソフトバッグなので、厚い資料などでも、自由自在に詰め込むことができた。
 至る所にポケットがあって、メモ帳、ペンケース、お泊まりセット入れ(歯磨き歯ブラシ・セット、サプリメント・ボックス、種々の薬品・化粧品)など、何でも自在に入れられた。気をつけていないと、資料などが部分的にはみ出すことがあった。わたしのカバンを持ったことがある知り合い(アシスタント)、あるいは旅館の女将には、「先生のカバン、重いですね~」とびっくりされたものである。同じものばかりを使い続けているものだから、カバンの痛みも激しかった。
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 ケントハウスの商品は型が気に入っていたので、古くなって痛んでくると、同じデザインの商品に買い換えていた。2度買い換えたが、つい二年前にそのデザインの商品が廃盤になったことを知らされた。ケントハウスの店長さんには、たぶん傍目には狂ったように、「同じ型番がほしくて・・・」とメーカーまで問い合わせてもらった。人気がある商品だったので、在庫はあるだろうと高をくくっていたが、「在庫無し」を宣告されたときはがっくりきた。
 結局、同じ型のモノは入手できなかったので、類似デザインの代替品を求めることになった。半年ほどかけてずいぶんと探し回った。そのあげくの買い物がコムサで黒いカバンであった。6千円のカバンである。値段は一万円しなかったが、たまたまの偶然である。デザインとポケットの配置で購入を決断した。外側にひとつ、内側に3つポケットがついている。重要なのは、いままでで一番小さなカバンを選んだことである。ポケットはたくさんついているが、カバンの中には多くの資料を詰め込むことができない。というか、敢えて今度は、本や資料がたくさん入らないカバンを選んだのである。
 ハートマンを持ち歩くのを止めたのは、重たすぎて右腕が腱鞘炎(単に筋を痛めただけ?)になったからである。最近まで使っていたケントハウスのバッグは、ハートマンほどではないが、たくさんの資料を持ち運んだので、腕と足を痛めたことはまちがいない。
 そんなわけで、いまはできるだけ書類を持ち運ばないことにしている。足腰を資料の重さから救うためである。緊急の場合以外は、本は一冊、持ち運ぶ資料は2組を限度としている。そして、やたらたくさんの「部品」を持ち運ぶこともなくした。サプリメントボックスもである。