【優秀レポート】 第一回レポート 「ファウンダー:マクドナルド帝国のヒミツ」を鑑賞して

 第一回の課題に対して、優秀だったレポートは、経営学研究科(企業家養成コース)の尾崎朱美さんのもの。昨年度の優秀レポートに比べても、分析の視点がとてもクリアでした。高い評価ポイントは、「創業者」と「プロ経営者」のちがいにフォーカスした点。論理構成も秀逸でした。ご本人から許可が得られましたので、本ブログで紹介します。

  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 
  
11月16日「映画『ファウンダー:マクドナルド帝国のヒミツ』を鑑賞して」
経営学研究科企業家養成コース M1 19Q5252 尾﨑朱美
 
(1) マクドナルド兄弟とレイ・クロックのどちらが創業者か?
 創業者はマクドナルド兄弟であると考える。理由は、8台のシェイクミキサーを必要とする繁盛店を営んでいた事実に尽きる。
マクドナルド兄弟が成し遂げたことを、大きく3つに分けて捉えた。①レシピ考案、②製造プロセスの効率化、③新しい食事スタイルの市民権獲得である。技術経営に例えると、①魔の川(研究段階から製品開発へ)、②死の谷(製品開発から事業化へ)、そして、③ダーウィンの海(事業の市場淘汰)と呼ばれる3つの関門を突破したことに相当するのではないだろうか。
 特に、商標と共に“好きな場所で、包み紙で食べる”という食事スタイルを発想し、市場開拓した功績は大きいと考える。
 
(2) 起業家としてのクロックをどのように評価するか?
 前提として、小川孔輔先生(2017)「社長の「履歴」大研究」『新潮45』7月号を引用する。
“社長には5つのタイプがあることがわかる。①創業経営者、②後継経営者、③サラリーマン経営者、④娘婿の社長、⑤プロ経営者の5つの類型である。”
 既述したとおり、マクドナルド兄弟が①創業経営者であると仮定すると、以下に該当する。
 “成功した創業者は、たいがい大いなる欠点を抱えている。一般的には、公式的なマネジメントが苦手なことである。ベンチャー気質の経営者が得意なのは、人心の掌握と新規事業の創出である。できれば、好きなことだけをやっていたい。”
 そして、レイ・クロックを⑤プロ経営者であると仮定すると、以下に該当する。
 “専門経営者のつらさは、別のところにある。それは社内における権力基盤が脆弱なことである。彼らには株式や資本のバックアップがあるわけでもない。頼みの綱は、経営者としての能力と実績だけである。プロ経営者のキャリアは、さながらフリーエージェントで野球チームを渡り歩く大リーガーと同じである。経営の全権を委託してくれる創業家との関係も微妙である。”
引用を前提として、起業家としてのレイ・クロックを評価する。
  
 レイ・クロックは、8台ものシェイクミキサーをオーダーする店に興味を持ち、実際に見に行くことから全てが始まった。好奇心と行動力が原点にある。そして、その日のうちにマクドナルド兄弟を食事に誘う。スピード感のある決断力である。
 次に、フランチャイズビジネス成功の背景である。マクドナルド兄弟は、前述の引用にある“公式的なマネジメントが苦手”であったことは想像に難くないが、品質とサービス低下を恐れフランチャイズ展開に乗り気ではなかった。一方、レイ・クロックは資金繰りのため、土地を取得してフランチャイジーに貸す不動産ビジネスを展開した。不動産ビジネスはフランチャイジーを支配する目的があったとしても、フランチャイジーの協力なくして成立しない。つまり、人心掌握の術も持っていたと考える。前述の引用では、“ベンチャー気質の経営者が得意なのは、人心の掌握と新規事業の創出”であるという点が興味深い。仮説として、レイ・クロックはセールスマンとしての経験を含め、後天的に創業経営者としての素養を身につけていった可能性が考えられる。
 さらに、“最も価値があったのはマクドナルドという商標”という発言から読み取れる、直感力である。根底に、“マクドナルド”を全米に根付かせたいという情熱がある。
   
 以上をまとめると、レイ・クロックは好奇心、行動力、決断力、人心掌握術、直感力、情熱、そして本人が自負する根気など、経営者として多才な能力を持ち合わせていたことが考えられる。その能力に加えて、フランチャイズ展開によって実績を積み上げていった。その姿は、前述の引用の、“頼みの綱は能力と実績だけ”というプロ経営者と言えるのではないだろうか。
 最後に、映画を観る限りではレイ・クロックは、欲しい物を手に入れるためには手段を選ばない人のような印象がある。だが、道義的ではないものの策略的でもないと感じた。理由は、“Howは強引であるが、Whatは間違っていない”と考えるからである。実態はともかくとして、“成功要因は根気である”という言葉が、後世の起業家にポジティブなメッセージとして語り継がれるのであれば、意義深い。