学園祭中の休みを利用して、2泊3日で上海に滞在していた。キリンビールの張志豪さん(アグリバイオ・カンパニー現地子会社)にインタビューするためと、上海地区のユニクロ競合店調査のためである。
滞在2日目に、朝10時から夜8時まで約10時間をかけて、上海地区のカジュアル衣料品店チェーン13店舗を観察調査していた。詳しい報告は後日、現地の委託調査結果(26日と27日)がまとまってからにしたい。
今日紹介するのは、現地でたまたま拾った「セブンイレブン中国」に関するニュースである。真偽のほどは定かではない。中国滞在中に、「中国経済新聞」という日本語の経済新聞を見つけた。同行してくれた早稲大学のアジア太平洋研究科の章駿くんが教えてくれた新聞である。月二回の発行で、年間の購読料が1万円である。必要な人にとっては、それほど高い値段ではない。わたしも来月から購読契約をするつもりになっている。「東スポ」もどきの見出しが、なんとも魅力的である。
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11月15日(火曜日)の号は、一面の見出しが「日本の3大コンビニ 上海で決戦 ・・・セブンイレブンが上海で1千店舗買収に着手」である。東スポであれば、この部分に「か?」とがつくのだろう。「・・・と言われている」「・・・かもしれない」など、憶測記事のにおいがする。だから、なんとなく記事がほほえましくて楽しい。
さて、上海は中国最大のコンビニ激戦区である。日本から一番古くから進出しているのがローソン(三菱商事系)で、現在260店舗。この一年で拡大のスピードが急に速くなっている。一説によれば、日系コンビニ受難の時代は過ぎ去ったことになっている。その引き金になったのが、昨年から本格的に進出開始したファミリーマート(伊藤忠商事)の追い上げである。瞬く間に、88店舗(10月末)になった。この二社以外に、民族系のコンビニが上海では全部で5千店舗はあると言われている。ここ数年は、上海地区だけで千店舗ずつコンビニが増えてきた。しかし、競争激化で淘汰の局面に入っている。
例えば、上海に店を持っている民族系資本によるコンビニ大手は、「良品金伴」(510店舗)と「可的便利」(570点)である。その実数は明らかではないが、タクシーで町中を走っていると、あまり清潔そうでないコンビニが乱立している感じがある。日本の単純なコピーは、すぐに化けの皮がはがれる。いまやそうした単純コピー店舗は競争力と将来に対する展望をなくしている。民族系のコンビニは淘汰の時代を迎えている。
ところで、日本の最大手であるセブンレブンは、広州と北京地区で店舗展開を進めてきた。ただし、上海では進出がこれまでうまくいっていない。合弁に失敗してきたからです。その起死回生の手段が、地元企業の買収である。日本での従来のセブンイレブン(IYグループ、三井物産)のやり方を考えると、短期間での地元企業の買収による店舗拡大はありそうにもないシナリオである。しかし、わたしは、今回に限っては、中国経済新聞の推測記事には論理的な根拠があるように思う。「憑依理論」とわたしが呼んでいる現象のことである。
中国で小売業の出店がむずかしいのは、地方政府と政治的なパイプがないと有利に出店の許認可権を得ることができないからである(この部分は憶測であるが、たぶん事実であろう)。その場合、地元とのパイプを保持していて、制度の穴をかいくぐれる方法を持っている民族系企業がどうしても有利になる。コンビニ事業の仕組みは、基本モデルが日本である。初期の頃は、したがって、品揃えにせよ、店構えにせよ、日本に行って店を見たり、商品に関しては「ローソン」の商品調達先を賢く盗み取ればそれでよかった。しかし、流通サービス業の本質は見えないところにある。一定程度、店数が増えてくれば、オペレーションに差が生まれてくる。それは見えない競争が複写できないからである。日系企業でさえ、本国ではセブンイレブンとその他では、20~35%ほど平均日販で格差が付くほどである(65万円対45~50万円/日)。いわんや、日系と民族系では倍以上の生産性(販売)格差が見られる。
地元民族系企業(国営合弁企業を含む)が淘汰の時代を迎えて、身売り先を見つけて早々と撤退を考えるのは当然である。上海で遅れたセブンイレブンが、そうした「立地」を買うことには大きなメリットがある。自社開発では店舗開発費用が高く付く。新たな出店交渉では足元を見られそうである。急展開している競争に追いつくには、陣取り合戦で、一挙に「オセロゲーム」に勝つことを狙いたくなるはずである。絶好のタイミングは、WTO加盟をきっかけにしたFCシステムの法制度確立である。
そんなわけで、わたしの推測では、中国でこれから頻繁に起こる事態は、「民族系小売業の外資への権利売却」(制度的な経営の憑依、立地の獲得交渉)である。日本のいくつかの企業は、結構買収に手を染めることになるのではないだろうか? 例えば、今回調査を実施した「ユニクロ」などは、一番の候補になりそうである。買収可能な地元カジュアル企業(ジョルダーノ、バレノ、ジーンズウエスト、ボッシーニなど、香港系企業が多い)は、上海地区だけでそれぞれが30~50店舗を展開している。コンビニでもカジュアルウエアでも、日本企業は積極的な買収攻勢に打って出そうである。