健康に関してはわりに律儀な性格である。毎年この時期には、必ず自宅近くの病院で予約で定期検診(日帰りドック)を受けている。
わたしの同年齢の男性はほとんどそうだと思うが、「すねに傷をもつ身」である。わたしも長距離を走ってはいるが、お酒の習慣を止めることができない。酒量はたいして多くはないが、それでも、検査終了後に判定表が送られてくるまではいつもどきどきである。
今年は3月1日に、いつもの病院(S市S病院)で定期診断を受けた。眼科(軽い白内障)と一部の感覚器に心配はあるが、血液、尿、その他臓器は万全である。マラソンでかなりの距離を走っているので 、尿酸や血糖は標準値だし、脂肪も良く燃やしているので、肥満度は低い。もっともとくに痩せているというわけではない。BMIは標準である。
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同じ病院で検査を受け始めて10年ほどになる。ほとんど風邪をひかないので(引いても一晩で直ってしまうので)、あまり病院には行かない。自分自身は怪我(筋肉、関節痛が多い)で病院に行くことがたまにある程度である。それでも、病気や手術で入院する知り合い(肉親や友人、同僚)が増えてきたので、ここ数年は病院を訪問する機会が多い。
病院の実情にそう詳しくはないが、定期検査でサービス業としての病院を眺めてみると、10年でずいぶんと変わった点もあるが、全く進歩のないところもある。それでも、変化のスピード、改善努力は進んでいると感じることが多い。千葉のベッドタウンにある総合病院でこんな具合だから、競争がきびしそうな都心ではもっとサービスや施設の改善が進んでいるのではないかと思う。
今回の検診で気がついたことがいくつかあった。もしかすると、わたしと同じ思いで検診を受けているかたもいるかもしれない。
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わたしは恐がりで、注射が嫌いである。M体質の人は別として、注射が好きな人はいないだろうが、わたしの場合は極端である。血管に注射針を入れられるのを、近頃は訓練でどうにか我慢できるようになったが、採血の時はやっぱり気持ちが悪くなる。看護婦さんに懇願して、いつもベッドに横になって採血してもらう。
去年担当になった看護婦さんには、「若い人ではよくいるのですけど、小川さんのような年齢ではめずらしいです」とくすくす笑われた。試験管のようなチューブに4本分、自分の真っ赤な血が吸い込まれていくのを見ていると、時間がとても遠く遠くに感じられる。残念ながら、弱虫である。
唯一の例外は、胃カメラである。「得意種目」と自分では自慢している。胃カメラのチューブを胃の中に押し入れる前に、お医者さんがのどの壁に液体を塗って入れてくれる。麻酔薬である。あれを入れられると、頭がぼーっとして気持ちが良くなる。ファイバースコープが胃の中にはいっていくのを皆さんは気持ち悪がるが、わたしは至福の快感に浸される。知り合いには驚愕されるが、きっとドラッグに弱いのだろう(神に誓ってドラッグをやったことはない。米国旅行中に、E先生にマリファナをすすめられたが拒否をした実績がある!)。風邪薬など、ふつうのひとが3錠飲むところを、わずか一錠で充分である。安上がりな体質である。
話が脇道にそれてしまった。患者さん達は、定期検診だからと不便を我慢している。それを何とかして欲しいが、10年間ほとんど改善されていない検査は多い。以下ではリストを上げて、検査の順番に項目毎に評価してみることにする。なお、この評価は、S病院に特異な現象かもしれない。わたしは外の病院を知らないので、そのことをお断りしておく。
(1)尿検査
この検査項目については、どうにかしようとする意志が全く感じられない。わたしが担当者だったら、紙コップにプリントの花柄を入れるとか、気持ちよくおしっこが出せるように、カップの形を変えるなどの工夫するだろう。コップの内側の「目盛り」がつまらない。25mm.50mm,75mmなどの目盛りは無意味である。25mm~50mmの量が欲しいのだから、その間の区間に「色帯」や「キャラクター(おしっこちゃん)」を入れるとか、なんか飾り気がほしい。
悪いことには、今年は、トイレで採尿したあと、排尿語の新鮮なコップを窓口に提出させられた。若い女性の担当者が受け取ってくれたが、あれははずかしい! むかしのまま、トイレの棚にそのまま置いてくるのがよい。この検査に関しては、対人接触は不要である。
(2)血液検査
わたしは特別待遇を受けているので、文句は言えない。しかし、毎年のことなので、「この人はベットで横になって採血」と事前にマーキングしておいてほしい。いつもいつも、自分の弱さを看護婦さんに白状しなければならないのは、屈辱である。ある程度痛いのは我慢するが、あんなに多量の血を抜くことが必要なのだろうか?検査技師の技量がへたくそだから、失敗しないために大量に提出させられているのではないかと疑ってしまう。
(3)検便(提出容器)
そういえば、検便には、大いなる進歩が見られる。まず、提出用の袋の密封性が高くなった。また、正しい検便の方法などについては、絵入てきちんと説明がついている。もっとも、二回の検便を指定されてはいるが、わたしは一度もふたつともを出したことがない。二日前には、だいたい採便を忘れているものだ。忙しいひとは多いだろうから、二階の検便は現実的ではない。評価できるのは、一日目と二日目を色分けしていることである。わたしの場合は、せっかくの容器を無駄にしているだけだが・・・
(4)胸部レントゲン検査
胸部レントゲン検査室は寒い。むかしよりは暖かくなったかもしれないが、いつも検査が冬場なので、レントゲン検査は寒いものと想ってしまう。男だからいいが、女性はもっと寒く感じられるのではないだろうか? あれだけ大きな機械(X線照射用)が本当に必要なのかどうか、いつも疑問に思っている。世の中ではとうの昔に写真フィルムを使わなくなっているのに、医療現場では相変わらずの銀塩フィルムである。絶対におかしい。病院と業者が談合している。デジカメでもレントゲンは撮れるだろう。そうすれば、石油資源の節約にも貢献できるだろう。
(5)バリウム検査(胃壁の検査)
まず問題だと思うのは、胃の動き(蠕動)を押さえるための注射である。左肩に打つのだが、あの注射はとても痛い。これだけたくさんの人が痛いと感じているはずなのに、代替の注射液が開発されないまま、20年以上が経過している。毎年数千万人の「痛み」が放置されている。痛みを取り除きたいという使命感を持った研究者が現れないのが不思議である。
2番目に、造影剤のバリウムの味が久しく改善されていない。一時期、イチゴ味などもあったように思うが、「アスパルテーム入りのパイナップル味」とか、「コーラっぽいドリンク風の液体」とか、技術的には可能なはずである。ぱちぱちはじける「ラムネ」みたいな粉も、なんかいらないような思う。あの下剤も何とかして欲しいが、無理でしょうね。
三番目に、でっかい機械の上で(いつもわたしは、きっと「まな板の上の鯉」はこんなんだろうなと思ってのっかっている)、患者でもない被験者が、オペレーターさんの指示で前後右左にカラダを動かされるのがたまらない。最終的に、造影剤のバリウムが胃の中を満遍なく移動できれば撮影には支障ないはずである。宇宙船のカプセルのような容器をデザインして、”人間を動かすのではなく”、機械が勝手に動いてぐるぐる回るほうがいいのではないかと30年前から考えていたが、いまだに何の工夫もされていない。驚くべきほどのイノベーションのなさである。
(6)眼底検査
飛蚊症が激しくなったこともあり、心配な検査項目である。わたしは、フラッシュのあとの残像に、いつもくらくらしてしまう(白状すると、あの感覚は嫌いではない)。眼圧検査は、しかしながら、わたしにとっては鬼門である。いつかコンタクトレンズの装着について書いたときに説明したように、向こう側から(目に向かって)風を吹きつけてくるのだが、検査員は例外なくわたしの目にうまく風(たぶん空気銃)を当てられない。
反射神経が良くて外からの刺激に敏感なので、向こうがねらってくるときには、わたしは先に目をつむってしまう。「俺の勝ちだぞ」とうそぶくわけにもいかず・・・防衛本能が働いているのだろうが、検査にはマイナスである。片目ずつ3回測定する。今年は女の子が「6発当てる」(データを取る)までに10分もかかってしまった。二年前は、とうとう検査の女の子があきらめてしまった。めずらしいことらしい。あのときのカルテには、斜め線が引かれていた。「測定不能」との記入された。
実は、眼圧測定が困難なのは(下手なのは)、自分では「目が小さい」からだと思っていた。ところが、今年になってはじめて、「目を閉じないでじっと緑色の点滅を見ていてください」と、半ばやけになっている看護婦さんから、「まつげに当たってしまいますね」と言われた。意外や意外、わたしのまつげは長かったのである。美少年の条件ではないか!眼圧測定がうまくいかない真の原因が他にあったことを、この年になって初めて知ったのである。
これ以上書いているときりがないので、とりあえずはここで止めておくことにする。改善提案はあるので、それはまた別の機会にする。