総菜先進企業ロックフィールド研究(講演レジュメ)

 7月7日(かすみ草の日)に、ダイヤモンドフリードマン社主催で、総菜研究会が開催された。基調講演者として、「総菜先進企業ロックフィールド研究」のテーマで60分の講演を行った。


食品メーカーの総菜担当者や小売りバイヤーなど、全体では120人ほどの参加があった。工場の写真、スライドなどを提供していただいたロックフィールド広報室からは、5人の聴講者がいた。以下は、講演当日のレジュメである。
 もっとも反応が良かったのが、米国西海岸でロックフィールドがはじめた総菜店”DELICA rf1″を視察したときの印象についてであった(以下の第3項)。講演をはじめるにあたって、レジュメには掲載されていないが、市場を見る場合につぎの観点に着目すべきことを紹介した。

 <総菜市場を変化させる要因>
 (1)立地変動:7月7月発売の「日本経済新聞朝刊」の記事
  「デパ地下」百貨店を飛び出す を紹介
 (2)広義の生産物流に関する品質管理技術の進歩
 (3)日本人の食のセンス(食品のデザイン力)
   日本発(和食に限らず)の総菜の可能性
   例:米国西海岸の事例をあげて
 (4)社会環境の変化
   少子高齢化、デジタル革命
 (5)競争の構造変化
   現在6兆円から10兆円市場の誕生へ
   CVS、外食、中食などすべてが競争、
   逆にすべてが新しい市場機会になる

 以下は、講演のレジュメである。

「総菜先進企業ロックフィールドの研究」
         法政大学経営大学院 小川孔輔

1 企業理念と事業構造

(1)企業理念と価値観
  理念: SOZAIを通し、豊かなライフスタイルの創造
  価値観:「健康」「安心・安全」「美味しさ」
  (「鮮度」「サービス」「環境」)

(2)会社業績(2006年4月期) 
   売上高 420億円(前期比+1.4%)
   経常利益 20億円(前期比+4.0%)

(3)総菜事業
   百貨店、エキナカを中心に6つのブランドを展開
   (約)300店舗
   RF1(295億円、+4%)、ベジテリア(23億円、ー17%)
    神戸コロッケ(42億円、+3%)、その他(36億円、ー9%)
   海外子会社(DELICA rf1) 売上高1.5億円(前期比+50%)

2 異色の経営者、岩田弘三
(1)フードビジネスでの成功者、二つのタイプ
  ・岩田弘三 = (食の)コンセプトメーカー
  ・故藤田田、横川4兄弟 = オーガナイザー

(2)オーガナイザーの特色
  ・海外の成功モデル(食の業態)の日本市場への導入および移植
  ・基本スキル = 執拗なベンチマーキングの努力
           低コストで効率の良い企業組織をつくること
  ・事業成功のポイント = 組織統率力と市場適応力
  ・人的特徴 ほとんどが戦前の生まれ(事業のスタートが遅い)

(3)コンセプトメーカーたち
  ・基本スキル
    業態開発に関する創造力、新商品や業態コンセプトの独自開発力
  ・海外の優れたコンセプトメーカー
    フィル・ロマーノ(イーチーズ創業者)
    ハワード・シュルツ(スターバックス・コーヒーの創業経営者)
  ・日本人の代表的コンセプトメーカー
    栗原幹雄(ほっかほか亭、フレッシュネスバーガー創業者、54歳)
    渡邉美樹(ワタミフード・サービス創業者、47歳)

(4)岩田弘三、食のプロデューサー
  ・岩田プロデューサー = オーガナイザー + コンセプトメーカー
  ・「食のSPA」= フードビジネスの製造小売業
    SPF = 食材の調達から直営店での総菜の販売まで、
          製造・物流・販売の一貫システムを自社内に持っている企業
  ・RF事業/ブランドの基本コンセプト
    02年 ~ 安心、安全、鮮度(作りたて)
    06年 ~ + おいしさ(VMD)
  ・ブランド展開の特徴
    変化への対応、頻繁なブランド投入、撤収をおそれない
    海外出店(サンフランシスコ、ピア) → DELICA rf-1 (写真)
    頻繁な海外食べ歩き(例:ベトナム生春巻き)

(5)事業理念を支える商品開発力とインフラ
  ・商品企画 ~ 一流シェフとのコラボ、社内開発チーム組織
  ・素材調達 ~ 食材は委託生産農家から直接購入(安心、安全)
  ・製造加工 ~ 神戸と静岡の自社工場で前処理、一貫製造加工
  ・物流システム ~ 鮮度を保持のため、工場店舗間を半製品状態でチルド輸送
            中間物流拠点を経由して、直営店の売場で総菜加工
  ・店頭 ~ VMD、接客の強化(2006年2月「日経MJ」記事)

3 ロックフィールドの歴史
(1)草創期(1972年~1978年)
  ・72年の創業:百貨店への出店
    原点は・・・欧米の視察旅行がきっかけ
  ・最初の5年間、総菜部門は赤字(経営改善はオイルショック後)
  ・百貨店(神戸大丸)で高級総菜を売る(写真)
    主要顧客は固定客は裕福層(70年代を通して徐々に増える)
    食材アイテムは半製品の持ち帰り(シチュー、フライ、コロッケなど)
  ・関東地区への進出:1980年代
    横浜高島屋(写真)から、順番に関東進出
    お歳暮やお中元などギフトが全盛の時代(高級総菜)
  ・百貨店別のブランド政策
    ガストロノミ = 高島屋向けのブランド、美食家クラブ = そごう
    マンジャーニ = 伊勢丹・阪急、ユーロマルシェ = 大丸
    神戸デリカテッセン = その他百貨店

(2)転換期:1989年~1998年
  ・デイリー総菜への転換
    89年:「神戸コロッケ」の大ヒット
    コロッケ = 庶民の日常的な食べ物を百貨店で売り出す(社員全員反対)
  ・岩田の時代認識: 食の風景が大きく変わる予感
    87年 売上100億円突破
    通年で好調なビジネスも黒字月は3~4ヶ月(ギフト売上比率大)
  ・神戸コロッケ: ハレからケへ(ギフトからパーソナルへ)
    89年秋、社内プロジェクトチーム発足
     百貨店業態の翳り → 路面洋風総菜専門店の展開
  ・神戸南京町の路面一号店
    ブランドを表現する工夫 = 演出家、岩田弘三
     コロッケの材料は、北海道産の男爵イモ、淡路島産のタマネギ、
      + 地元神戸で取れた良質の牛肉
    レトロな感覚、店名と商品名が同じ「神戸コロッケ」
    神戸異人館街に出した路面一号店(当時無名の安藤忠雄氏が設計)
  ・93年 神戸コロッケだけで約50店舗、売上高150億円
  ・製造物流部門の強化
    91年 静岡ファクトリーを建設(安藤忠雄設計)、食材の一貫製造工場
    99年 工場拡充により、野菜など原材料の前処理内製化
  ・ブランドの統合(RF1)
    92年 百貨店内の洋風総菜ブランドを「RF1」に統一
       社名+F1(エフワン・レース)の合成語
       記号性を強調(参照事例:SONY、GAP)

(3)業態再開発期(1999年~)
  ・店舗デザインをおしゃれに
    神戸コロッケは当初路面店展開を予定 → 百貨店内出店が主体
  ・94年 和風総菜店「そうざいや地球健康家族」で実現
  ・99年 「サラダバッグ」(オフィスミールサービス)(閉鎖)
    社員食堂の外部委託サービス事業に変更(05年~トヨタ自動車など)
  ・01年 「融合」(アジアンフード)
  ・おいしさの革新(岩田理論)
    ”おいしさ”=「鮮度」+「テクスチャー」+「香り」
  ・ファーストフード文化批判  安全に対する考え方
  ・2000年に東証一部に上場

4 現在と将来のビジネス
(1)立地開拓
  ・誰よりも早く「エキナカ」に注目
    「JR東日本」とのコラボ  05年 エキュート大宮出店 
     事例:法政大学演習「フィールドワーク」参照(PWP)
  ・大宮エキュートの業績は、05年売上90億円強(55億円を予定)

(2)製造物流のベンチマーク
  ・異業種「トヨタ」と「ソニー」のベンチマーキング
    トヨタ車の価値=「安全」(GOA)と「環境」(ECO)
    セル生産方式、物流のJITシステム
  ・二つの工場と物流ネットワーク(全国どこでも翌日到着)
    産直比率 = 約30%、 物流費 = 売上の約5%、
    ロス率約5%、 数量 = コロッケ6万個(/日)、サラダ12t(24万食)

(3)「スローフード運動」の先駆者
  ・マクドナルド批判
    71年に日本上陸 三越銀座店が1号店(RFもほぼ同時期に創業)
    イタリアは86年にマクドナルド進出に大反対、フランスもマックは不成功
  ・食文化を守る姿勢
    イタリアは「スローフード」運動の発祥の地
    伝統統文化を守り、小さな生産者を守り、アメリカ化から食を守る

(4)新しい食文化の提唱
   ・サラダを通じて「新日本食」のアウトプット
   ・日本の伝統食に注目
     日本食の特徴、野菜・穀物・海産物が豊富
   ・04年 和総菜の店「いとはん」出店