「日経朝刊」(10月9日)コメント:メーカーが相次ぎ直営店を展開

 不思議と、このごろ新聞社からコメントを求められることが多くなった。日経、朝日、読売と満遍なく、会社記者から問い合わせが来る。


直接会って解説を頼まれることもあるが、電話でのQ&Aがふつうである。以下は、日経へのコメント(全文を掲載)である。今週末には、また読売新聞に登場する。
 メーカーが相次ぎ直営店――息の長い商品、自前で育成(シグナル発見)2006/10/09, , 日本経済新聞 朝刊, 15ページ, 有, 1861文字

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 メーカーが相次いで直営店を展開している。流通業者の力が強まり、販売方法に要望を反映してもらうことが難しくなったため、自ら販売のコントロールに乗り出した。
▼ワコールは五日、大型商業施設「アーバンドックららぽーと豊洲」(東京・江東)内に新型直営店「カロロカ」を開店した。
 この店では下着以外にアロマオイルを販売し、店舗内の個室ではオイルを使ったマッサージも行う。マッサージをしながら顧客の話を聞き、一人ひとりの体形に合わせた商品を提案するのが狙いだ。
 同社は二〇〇一年以来、顧客層ごとに異なるタイプの下着直営店の展開を始め、現在では合計九十店以上になる。直営店事業部の三浦卓也事業部長は「顧客の嗜好(しこう)が多様化し、卸を通じた百貨店などでの販売では十分対応できない。直営店では主に二十―三十代の若い顧客の獲得を狙っている」と語る。
 生活用品製造のアイリスオーヤマ(仙台市)は〇四年末から家具の直営店の展開を始め、これまでに二十店以上を出店した。従来はホームセンター(HC)を中心に商品を卸してきたが、HCの過当競争で売り上げが頭打ちになりつつあった。直営店を手掛けることで、HCで主だった五十代以上の顧客以外にも購買層を広げたい考えだ。
 直営店では、HCには卸していない家具を扱う。ソファやベッドは表面のカバーを簡単に取り換えられ、手軽に模様替えを楽しめる。自社の社員が店頭で接客するため、こうした商品の特徴を顧客に伝えやすいという。
 米音響機器メーカーの日本法人、ボーズ(東京・渋谷)は現在二十店ほどの直営店を、三年後をメドに四十店程度に拡大する計画だ。同社は製品の開発に十年近くかけており、五年以上は売れ続けないと元が取れない。しかし「量販店では次々と出てくる新商品の中に埋もれてしまう。長く売れ続ける商品を育てるには直営店が必要」と佐倉住嘉社長は語る。
 直営店には家庭のリビングルームを想定した試聴室を設置し、ホームシアターシステムなどを顧客に体感してもらう。「体感してもらえば品質の良さがわかる。ゆったりとした設備で、じっくりと品定めをしてもらいたい」(佐倉社長)
▼メーカーが販売を拡大し、利益を確保するには、新しい顧客層を開拓することが必要で、それにはマーケティングが欠かせない。
 マーケティングでは「四つのP(製品=Product、価格=Price、流通=Place、販売企画=Promotion)」が重要とされる。だが「メーカーはこの四つをコントロールできない」(小川孔輔・法政大学教授)。卸売業者に商品を渡してしまえば、すべて流通側に委ねざるをえない。
 特に近年は量販店など小売業者の力が強まっている。小売り競争も激しくなっているため、業者に余裕もない。あるメーカーの販売担当者は「最近の小売店は保守的になっている。新商品を投入しようとしても、売れ筋を優先し、簡単には置いてくれない」と嘆く。商品を置いてもらっても、売れなければ見切りも早く、商品のライフサイクルは短くなる一方だ。
 こうした背景から、メーカーが直営店を出して顧客と接点を持ち、自ら販売をコントロールしようとする動きが広がっている。直営店ならば、売り場の管理から顧客データの収集までメーカーが自由にできる。どの年齢層の顧客が訪れ、どの商品を買ったかなど詳しいデータがすぐに手に入り、「どんな商品を作れば、狙った顧客層に訴えられるか、商品開発や店舗の商品構成の検証がしやすくなる」(ワコールの三浦氏)。
 あるメーカーは、卸売業者経由だと月次の販売データしか手に入らなかったが、直営店の開設で週次の販売データを把握できるようになった。売れる商品の芽に早めに気づき、迅速な対応をとれば、息の長い商品にもつながる。
 トーマツコンサルティングの松下芳生常務取締役は「商品を作り、顧客に認知、購買してもらうまでのプロセスをすべて管理できれば、売り上げ予測ができ、生産効率や収益性が上がる。そのためには直営店が不可欠で、メーカーは今後も直営店強化に動くのではないか」とみる。
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 直営店に対するメーカーの期待は大きい。ただ、販売経費を負担したうえ、大きな在庫が出た場合は自ら抱え込むリスクもある。法政大の小川教授は「直営店はリターンも大きいが、リスクも大きい。メーカーに高付加価値の製品を開発できる力がなければ、直営店を出してもプラスにはならない」と指摘する。
(関根慶太郎)
【図・写真】ワコールの新型直営店「カロロカ ららぽーと豊洲店」(東京・江東)