いつか書こうと思って、いてもなかなか熟成の時季(とき)が到来しないテーマがある。本日はそのなかで、理論的な検討を必要とするトピックスについて書いてみたい。見出しにもあるように、マーケティング理論を構成するキー概念のほとんどが「対(ペア)」になっているという話である。
理論的なことにあまり興味がないかたは、本日のテーマはスキップしていただいてさしつかえない。ただし、ビジネススクールの大学院生は、自分なりにしっかりとした答えを用意しておくこと。
企業の戦略事業部門や特定の製品分野を考えてみる。通常は、互いに排反的なふたつの戦略代替案のうち、いずれがを選択しているものである。具体例をいくつか挙げてみる。
「ニーズ(志向)」対「シーズ(志向)」の商品作り。組織対応における「競争戦略」対「協調戦略」、「投機的な生産方式」対「延期的な生産方式」、「閉鎖系の物流システム」対「開放系の物流システム」、「異化」対「同化」、「プレミアム価格」対「ディスカウント価格」、「スキミング戦略」対「ペネトレーション戦略」、「戦略適応・革新」対「一貫性確保・維持」、「製品ライン拡張」対「新ブランド開発」、「新規顧客の獲得」対「既存顧客の維持」、「サイエンス」対「アート」、「効率」対「効果」、「リーチ」対「クリーケンシー」、「マーケティング科学」対「事例研究」、「定量調査」対「定性調査」、「カスタマー・エクイティ(顧客資産)」対「ブランド・エクイティ(ブランド資産)」、「直接流通」対「間接流通」、「広告」対「SP」などなど。
一覧表としてリストアップしてみると、対概念になりそうなものを際限がなくあげることができる。
マーケティングにおける対概念の応用を考えてみる。
まず、企業の経営方針やマーケティング戦略を際だたせるためには、列挙した対概念のいずれかを採用したほうが良い。一般的に言えるのは、経営戦略やマーケティング対応を明確にしておくほうが、曖昧にしているより方針が明確だからである。実行場面で情報が組織を構成する成員(ライン、従業員)に容易に伝わりやすく、前線のコマンドラインでとまどい(雑音)がなくなる。したがって、実行の局面で間違いを犯す可能性が低くなる。
たとえば、ある企業または商品について、「TV広告ではリーチ(到達率)よりフリーケンシー(接触頻度)を重視する」といったふうに、マーケティングの基本戦略を明示したほうが計画を実行に移しやすい。価格付けにおける基本方針は、「品質を評価してくれる消費者だけを相手に、最高価格をチャージすべし」。そのことが、ブランドイメージと商品価値を高めることになる。すなわち、どっちつかずの価格設定では、品質とマーケティングに一貫性が保てない。
ただし、原則はそうではあるが、現実の実行局面においては、「最適戦略」の選択がその中間(対概念の最適中間値)に落ちてくることがままにある。そのほうが現実的であるケースが決して少なくない。たとえば、ブランドイメージを維持して一貫性を保つようにすることと、定期的にイメージを一新すること、つまり、イメージを変えて絶え間なく革新することとは矛盾しない。ある一定の時間的視野のなかで、対概念としてリストアップした対立概念を両立させることさえができる。これが、対概念を応用しようとするときに考慮すべき第一点である。
つぎに、対概念で表現できる基本代替案のそれぞれは、相互に関連性をもっていることが指摘できる。一方を選ぶと片方が選択できなくなる場合が多い。
既存顧客に焦点を置いて「維持マーケティング」を展開すると、「製品ラインの拡張」がより重要になる。そのとき、「サイエンス(科学)」を基礎にした「定量的なリサーチ」(DBM)をベースに、「効率重視」の「カスタマー・エクイティ(顧客資産)戦略」を志向することになるだろう。どちらかといえば、マス広告も大切であるが、キャンペーンタイプの「SP」が有効になりそうである。
対概念については、もうすこし突っ込んだ理論的な考察が必要であると考えている次第である。