本音を言えば、2代目経営者はあまり好きではない。自分の周囲で事業を後継した経営者のなかには、正当に評価できるような人物が見あたらない。家柄・人柄は申し分なくとも、経営者としての資質に欠ける人間がほとんどである。
その印象をさらに悪化させたのは、大手流通業の後継者である。悪い事例を見過ぎてしまったからかもしれない。
ところが。このごろ、2代目経営者を見直すことが多くなった。創業経営者的な2代目社長に会うケースが続いたからだろう。本日(11月20日)、沈滞気味の繊維問屋街・東日本橋で、唯一元気なタオルの「内野(株)」を訪問した。
ニュースステーション(テレビ朝日)やNHKの海外現地取材班など、外部からの取材依頼をすべて断ってきているはずの内野信行社長(48)に、とうとう面談を許された。2代目経営者である信行社長は、予想していたとおり、尊敬できる勇気ある経営者であった。
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内野との出会いは、今年の8月2日。13年ぶりの上海訪問がきっかけであった。ディスカウントスーパー「ロータス」の2階衣料品売り場で、たまたま対面でタオルを販売している2人の売り子さんの接客を受けた。セルフサービスの売り場で、勇敢にも外国人(日本人)の私に声をかけてきたのは、内野の現地派遣社員らしかった。
すこし身なりが良かったからなのか? それにしても・・・彼ら(男女ペア)に話を聞いてみると、販売元は日本の会社である。中国で生産した高級タオルを日本に輸出するだけでなく、上海の地元消費者に向けて販売しようとしている。ディスカウント店で、セルフが基本の店である。日本国内では、高級ブランド品のOEMメーカーでもある。同じ売り場で隣に並んでいるタオルと比べると、値段は2倍から3倍である。「この店で、本当にこの品質の商品が売れるだろうか?」
帰国後すぐに内野の本社を訪問して、広報担当の内野あき子部長に対して、率直に上海での第一印象を述べた。ぶしつけな質問には笑って答えてくださったが、「そうなんですよ、勇気があるでしょう・・・」(内野あき子部長)。そうした販売行為を指揮しているのは、どうやら若社長さんにちがいない。
多少の解説が必要かと思う。わたしがどうして、まずはロータスの店頭を見て”びっくり”して、つぎに経営陣の説明を聞いて”あきれた”のかというと、通常の商売では、高級ブランド品を売る場合、現地生産した商品のうち、中国国内で販売する品物はやや品質が落ちる商品を店舗に回すはずである。しかも、高級百貨店の上海伊勢丹(市内に2店舗)のインショップではなく、安売り店で自社ブランドとして販売しようといていることに驚かされたのである。
勇気ある決断は、しっかりした戦略的な見通しがないと、軽々しくはできないはずである。そこには、ヴィジョンと何らかの計算が働いていたはずである。天安門事件から数年を経ずして、内野は93年に上海工場を建設する準備を始めた。96年には工場の操業を開始している。日本国内では自社工場を持った経験がない。内野が企画販売する商品は、すべて四国のタオル産地・今治の生産者などから仕入れた商品ばかりであった。
国内に工場を持たない東京のタオル問屋が、独立資本で上海に自社工場を持ったのである。年商約300億円(93年当時)の会社が、総投資額70億円で中国上海に工場を建設。年間国内販売額の約30%を、上海工場から直接輸入している。開発区外であるから、電気、水道も自前である。通常のタオル工場と違って、紡績から染色、織りまで一貫生産の工場を建設するという事業リスクを取っている。
そんなわけで、内野社長に是非ともお会いしたいと思った。まずは先々週(11月5日)、内野の上海工場を訪問することにした。なぜ中国(上海)だったのか?なぜ、天安門の時期に敢えて上海に大規模な投資を敢行したのか?信行社長には、確たる見通しがあったのか?その答えを知りたかった。(つづく)