翻訳の巧拙(1):映画の楽しみ

このところ2週間、翻訳の監修作業(Blattberg et al., Customer Equity, 2001)でずいぶんと時間を取られている。毎日1章ずつ、約5~8時間の連続作業である。大いに肩が凝っている。


同僚の田中洋先生も、先月出版した『ティーンズ・マーケティング』(ダイヤモンド社)の「はしがき」で、「もうしばらくは翻訳をやらないつもりでいたが・・・」と書いていたが、たしかに翻訳の作業は”time-consuming”である。「時間ばかり使って得るものがすくない!」と、先週エレベーターですれ違った際に、田中先生も嘆息していた。
 同感できるところもあるが、わたしは案外と翻訳が好きである。実は、学生時代に、洋画の字幕スーパーの仕事に憧れた時期があった。専門家は、日本に10人くらいしかいないらしい。そのうち、本当に優秀なひとは数人らしく、そのひとりになりたかったのである。
 いまでも、外国旅行中の機内などで映画を見る最大の楽しみは、とくに恋愛映画で気の利いたせりふ(会話)を日本語でどう表現したらいいかを考えることである。これまで書籍を翻訳してきた経験から言うと、英語を日本語にすると約30~40%増しで活字のスペースが多く必要になる。たとえば、今翻訳しているブラットバーグの本(英語で220ページ)などは、付録も付けてしまったから、出版時には300ページをゆうに超えてしまうはずである。
 ところが、映画の字幕スーパーには、充分なスペースがない。余裕のないところがおもしろいのである。たぶんワンシーン20文字くらいが、翻訳者に許される言葉の上限である。だから、元の会話の内容を理解した上で、意訳してさらに原文を適当に省略しなければならない。本当にすばらしい訳については、省略と意訳の妙を見て(聞いて)、実に感動することが多いのである。
 これは、英語の歌詞についても言えることである。そういえば、岩谷時子という名訳詞者がいたが、ジャケットを見ながら、「ふむふむ・・」と感心してうなったものである。
 さて、このごろ会う人ごとに出している質問である。最近ヒットしている歌のなかに、”Stay with me!”というフレーズ(タイトル?)があった。これを皆さんは、日本語でどんな風に訳しますか?同時に、歌のコンテクストも考えてください。
 明日は、本題の翻訳の巧拙について書くつもりですが・・・ 締め切りが迫っている原稿が一本があって、12日に翻訳の一次締め切りが迫ってはいますね。どうなりますか・・・