マクドナルドとロックフィールドの価格戦略

マクドナルドがとうとう値上げを発表した。平日ハンバーガー65円(土日130円)を、平日・週末に関係なく一律80円への値上げである。


為替レートが1ドル120~130円台に定着してきたこと、狂牛病騒ぎで安い牛肉の国際調達が不可能になったこと、安さになれた顧客がマック離れを始めたことなどが原因である。業績の悪化を見越して、株価も3,000円の大台を割り始めた。近い将来、2、000円を割り込むことさえ考えられる。
 同じ日に、「食の安全性と健康」を訴求して売上げを伸ばしてきたデリカテッセン(総菜)のトップ企業「(株)ロック・フィールド」(本社・神戸)が、弁当やポテトサラダなど、一部の店舗で商品の値下げを発表した(『日本経済新聞 夕刊』2002年1月30日)。百貨店部門(「RF1」:アール・エフ・ワン)や都心でのオフィス需要対応の路面店「サラダバッグ」などでは、価格を据え置いたままであるが、住宅地立地型の総菜業態「地球健康家族」では、今月から思い切った値下げに踏み切った。
 今回の値下げは、昨年12月から一部の実験店舗で行ってきた価格実験の結果である。価格改定に対する消費者の反応を見て、当面は「地球健康家族」で売られている商品を平均20~30%値下げすることにした。ふつうは、売上げが落ちたときに値下げに踏み切るものである。ロックフィールドの場合は、その逆である。昨年末のクリスマスに売上げが増えてしまったことで、経営陣は価格引き下げを決意した。なぜだろうか?
 百貨店内で販売されている総菜は、ハレの日の商品である。誕生日、パーティ、お祝い事があったときなど、ロックフィールドが販売しているデリカテッセンは、おいしいけれどやや値段が高い。ちょっと贅沢をしたいという消費者の動機と状況設定(シチュエーション)に対応した商品である。毎日の食卓に上る商品ではない。デパ地下の食品が売れるのは、曜日で言えば週末、季節的にはクリスマスやお正月、母の日などの物日である。だから、平日と土日の販売に格差があるのは致し方がないことである。百貨店や量販店は、客数と売上げの上下動(サイクル波動)を宿命として営業をしている。
 ロックフィールドが百貨店の地下食品売り場から飛び出して、住宅地で路面店「地球健康家族」を展開したのは、日常的な食の需要(デイリーなニーズ)に対応することをねらってのことであった。平日と週末で売上げが平準化することを経営目標として、店舗を運営してきたのである。ところが、岩田弘三社長が描いたシナリオ通りには事が運ばなかった。
 平日の売上げが予定していたほど伸びずに、昨年末のように、クリスマス時期に対前年度で売上げが大幅にアップする結果となった。売上げが増えたのは、だから、決してうれしいことではない。そうした事情を反映して、全社的な経営指標は増収・減益となった(2001年度)。ロスがうまくコントロールできずに、粗利率が落ちてしまったのである。
 ロックフィールドは、消費者に近いところに出ていって、経営者自らが「価格を下げないとふだんの日のニーズに対応できないこと」を確認した。その結果、市場機会を広げるために値段を下げることにした。マクドナルドは、値段を下げすぎて店舗オペレーション(店内作業、サービス、商品提供)がむずかしくなっていた。具体的には、売上げが増えても儲からない「繁忙貧乏」を経験していた。だから、今回のように、粗利を確保するために値上げに踏み切ったのである。
 状況は異なるが、どちらも日々のビジネスを安定させるために、価格水準に対する軌道修正を行ったのである。マクドナルドの値上げは収益向上に寄与するのか? ロックフィールドの値下げは需要拡大に功を奏するだろうか? この一週間、株式市場は、両社の価格戦略に対して「Bランク」の評価を下している。