先週、親しい友人や知り合いの経営者の方に、近刊の2冊を同時に献本することにした。「ユーパックライト」(2冊)と「スマートレター」(1冊のみ)に、わたしの近況を書いた挨拶文を封入しておいた。これまで献本をするときは、ほんの儀礼的な文章を添えて皆さんに書籍を届けてきた。
しかし、今回は、いつもとは力の入れ方がちがっていた。どちらの本にも、個人的に思い入れがあったからだ。一冊は、今月発売の翻訳書『TrueNorth リーダーたちの羅針盤、フィールドブック』(生産性出版)。もう一冊は、昨年10月に既刊の『わんすけ先生、消防団員になる。』(小学館スクウェア)だった。
トータルで100人ほどの方に献本した。たくさんの方から、読後の感想を書いた手紙やメールをいただくことになった。月曜日から、五月雨式にお礼の手紙が届いている。近況を知らせるメッセージや、ご本人が書いた著書や雑誌掲載記事などを添えて送ってくださった方も少なくない。
そんな中で、昨日は、「ファッションセンターしまむら」の藤原秀次郎相談役からお礼状が届いた。藤原さんはいったん相談役を退いておられたが、しまむらの業績が悪化したタイミングで、数年前から再度相談役として会社の経営に戻っている。
コロナが明けてから、名経営者の現場復帰もあって、しまむらの業績は急回復している。
藤原相談役からは、献本した2冊の本のそれぞれに、つぎのような感想とコメントをいただいた。
小川孔輔 様
拝啓 (中略)
「わんすけ先生、消防団員になる」と「TrueNorth フィールドブック」をお送りいただきありがとうございます。
ご引っ越しされた小川先生の日常を気さくに描写された様をほほえましく描かれた随筆は、楽しく一気に読み切りました。
「「TrueNorth フィールドブック」のほうは、リーダーのための”指針”の本質を分かりやすく示したようで、まさに大学の教科書のような感じでした。
(後略) 敬具
藤原秀次郎 4月5日
藤原さんの手紙を引用させていただいたのは、2011年に『しまむらとヤオコー』(小学館)の出版に際して、お世話になったからである。藤原さんの言葉を心に留めて、その後の執筆に際しては、速く書くことと、目標を定めて本を出版する決意を新たにした。
『しまむらとヤオコー』は、「ダイヤモンドフリードマン社」(現在は「ダイヤモンド・リテイルメディア」)に連載した「小川町経営風土記」(全22回)をもとに、オリジナル原稿に加筆修正したものである。雑誌連載時のインタビューで、藤原相談役が航空パイロットの免許を取得していることを知った。
キャプテン藤原に関係した記述がある「あとがき」で、一番最後の部分を引用させていただくことにする。当時のわたしの回顧録でもある。
(前略)
雑誌掲載時(08年秋)に、「セスナで上空から立地を確認する場面(第3章)の原稿を書くために、実際に藤原相談役が操縦する単発機の後部座席に座らせてもらった。(中略)
福島空港からの帰り道で、藤原相談役に「作家になりたかった自分の夢」のことを話した。藤原相談役は、笑ってコメントを返してくださった、「小川先生、作家と言うためには、最低2冊は、このあとに本を続けて出さないとだめですよ。」
藤原相談役の言う「一流作家としての基準」を満たすには、3年以内に合計3冊、きちんと売れるドキュメンタリーを出版しなければならない。ようやく一冊目が完成して安堵していたのも束の間である。「作家への道のりは。すいぶんと遠いものだなあ」とため息が出てくる。
2010年11月 小川孔輔
それから約4年後の2015年3月に、『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社)を出版することができた。この本は話題にもなり、よく売れた本だった。ところが、そこからドキュメンタリー作家としては、7年間のブランクが生じてしまった。
コロナと退職の準備のためである。そして、藤原さんの言う「続けて」という基準からは大きく外れてしまったが、2022年2月に『青いりんごの物語:ロック・フィールドのサラダ革命』(PHP研究所)をリリースできた。
そして、続けざまに、2023年10月に、『わんすけ先生、消防団員になる。』が刊行できた。しかも、ペンネーム(小石川一輔)でのデビュー作になった。
ここまで来て、ブログの読者にはおわかりいただけたと思う。
藤原さんとは、その後も電話やLINEで連絡はつながっていた。その間、『マクドナルド 失敗の本質』と『青いりんごの物語』を献本させていただいている。ただし、「作家」としての出版については、わたしからは一言もお伝えすることはなかった。
記憶力がよい藤原さんは、『しまむらとヤオコー』の「あとがき」のことを忘れているはずがない。だから、今度の2冊の本へのお礼状は、わたしにとっては改めてとても嬉しかったのである。
3冊目と4冊目が刊行できるまでに、予定より多くの時間をかけてしまった。それでも、4作目のノンフィクション小説を出版できた。藤原さんとの約束が、ようやく果たせたのだと思っている。
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