幸せの黄色い自転車

半年振りに、研究室においてあるミニサイクルを修理に出した。前後輪ともに、タイヤのチューブが傷んでいて、パンクの修理程度ではもはや走れない状態になっていた。


しばらく放置しておいたのだが、なんとなく街中を走ってみたくなったので、タイヤを交換することに決めた。
 となると、修理してくれる自転車店を探す必要がある。アシスタントの内藤に頼んで、なるべくご近所になりそうなサイクルショップをネットで調べてもらった。おそらく、錦糸町とか亀戸あたりまで行かないと修理してくれるところは見つからないと思っていた。
 まさかの検索の結果であった。千代田区一番町に、「トミサイクル」という自転車やさんを発見した。東京ど真ん中の麹町・番町に、小さいとはいえ自転車が生き残っていたことにびっくりした。さっそく電話をして、わたしの自転車の状態を伝えた。修理できることがわかった。
 研究室の自転車は、折りたたみ式である。50歳の誕生日に、三人の子供たちからプレゼントしてもらったものである。わたしにとっては、一生の宝物である。市ヶ谷のイタリアンレストラン「シェフハット」で、50歳になったときに誕生日パーティーを自らが主催した。パーティー(2001年10月23日)の開場にあわせて、ふたりの息子たちが、自宅のある千葉県白井市から電車を乗り継いで、レストランのある市ヶ谷まで運んできてくれたものである。
ホームセンターで購入したものらしい(と長女が言っていた)。前輪が小さく、サドルの位置が高いので、よくめだつかわいらしいデザインである。街中を走っていると、皆が黄色い自転車を見て振り向いてくれる。なんとも・・誇らしいミニサイクルなのである。
 昨日は、小雨が降っていた。大学の前でタクシーを捕まえて、折りたたんだ自転車を、富士見町からトミサイクルがあるイギリス大使館近くまで運んでもらった。運転手もめずらしげに黄色いミニサイクルをしげしげと眺めていた。
 660円を払ってタクシーを店の前に止めると、感じのよいおやじさんが出てきた。パンクしたタイヤを見て、「3,4日あずからしてもらえますよね」と言われた。10坪程度の狭い店ではあるが、店中には修理のために預かっているのか、自転車が所狭しと並んでいる。誰が持ち込むのだろうか?千代田区の麹町・番町あたりはけっこう急勾配の坂が多い。自転車をこぐのには、あまり適していない地形である。わたしのように、ふらり自転車をこいで、風を切って走ってみたいと思う大人が、他にもいるのだろうか?
 金曜日には、新しいタイヤに交換した自転車に乗ることができる。そのとき、他の自転車の修理後の行き先をたずねてみようと思う。坂の多い東京都心で、自転車に乗るには、それなりの物語が何かありそうだから。