【柴又日誌】#165:京成線沿線で、新しいオフィスを探す

 大学を定年退職すると同時に、市ヶ谷からオフィスを引越することになった。2022年3月のことである。顧問先の岩崎秀樹さんが経営する監視カメラ会社の計らいで、千代田区神田小川町2丁目の「Barブリッツ」(岩崎さんが店のオーナー)の隣のギャラリー・スペースを、事務所として使用させてもらっている。
     
 事務所に来客があるときは、森田ママ(Barのしおりママ)がお茶とおしぼりを出してくれる。岩崎さんの好意で、至れり尽くせりのサービスを無償で提供してもらっている。事務所の壁1枚を挟んで隣は、素敵なバーの空間になっている。夕方からは、森田ママが、アルコールと軽食をサービスしてくれる。
 快適なOffice&Barの空間は、顧問先の岩崎さんの会社が借りている。神田小川町は交通の便がとてもよい。最寄り駅は、都営新宿線の小川町駅。千代田線の新御茶ノ水駅や丸の内線の淡路町駅から、5~6分でオフィスまで歩いて来ることができる。坂道を登って行くことを厭わなければ、7~8分でJR総武線のお茶の水駅に行くことができる。神田駅や岩本町駅も、決して歩けない距離ではない。

 こんな便利な場所を自由にオフィスとして利用させていただく代わりに、わたしはBarブリッツの集客営業を担当している。バーカウンターの一番奥の席に座ったときには、店の前を通って行く人に「入店を促す」強烈な視線を送っている。
 通行人の何人かは、それを入店の合図だと受け取り、実際にドアを開けて入ってくることがある。さらに言えば、念力にも似たこの手法は、お馴染みさんにはとくに有効である。その昔から、客引きには自信があった。
 
 いまは、そんな楽しい2年間が終わりかけている。「Bar Blitz」の開設から3年目に入った。店主の岩崎さんは、この秋にはビルの持ち主と契約更改の時期を迎える。今の様子を見ていると、11月にはバーの場所を移転する必要が出てきそうだ。
 現在、わたしのオフィス空間は、Barのアネックス(別館)になっている。わたしの客引きがうまくいったときは、しばしばオフィスの方に客が流れてくることになっている。即興で店の一部に変身できるよう、オフィスはシンプルに3連のテーブルでつないで、12脚の椅子を配置してある。
それ以外は、わたし個人が使用するPCとzoom仕様のモニターが置いてあるだけだ。本や書類などは、壁の本棚に収容できるようになっている。大学からここにオフィスを移してからの2年間は、アフターゼミの実施や仕事のミーティングポイントとして、この空間を便利に活用してきた。
 
 さて、そのオフィスも契約が更改できないとなると、年末までには、間借り人のわたしも移転せざるを得なくなる。確定したわけではないが、店主の岩崎さんとビルオーナーとの関係が麗しい状態ではないようだから、サブリースしているわたしも、2024年末までには新しい事務所を探すことになりそうだ。
 新しいオフィスの場所を考えてみるのは、それはそれで楽しいことだ。その昔は、江東区森下のマンションに、1LDKの書斎を構えていた。授業が始まる前に、江東区総合センターで筋トレをして、毎朝の日課として隅田川沿いのテラスを走っていた。
 今度もきっと、森下の書斎の再来になるのだろう。6年前との大きなちがいは、そこが書斎ではなく、元ゼミ生たちが交流できる事務所空間に代わることだ。わたしの通勤の便を考えると、自宅から京成線を乗り換えなしで行ける場所になる。
具体的には、東京スカイツリーがある押上から人形町の中間点辺りだろうか? ただし、森下に住んでいた頃と同様に、最低でも走る場所が近くにあることが必須だ。隅田川テラスに面していればベストである。
 
 こじゃれたレストランやクラフト系のショップがある蔵前駅辺りが理想だ。そうは言っても、学生たちが(東京駅から)電車で簡単にオフィスに来られるという便宜を考えれば、浅草橋や人形町なども候補だろう。とはいえ、わたしがランニングするコースをとることは難しそうだ。
 新たな妄想は、そこからさらに広がっていく。たとえば、いっそのこと、料理研究家の荒牧先生が所有している黒板塀のある家はどうだろう。築100年超の大正時代の古家をリフォームしたものだ。子供に読み聞かせができる一階。その2階が書斎になっている。作家さんが住んでいるような部屋だった。高円寺から歩いて20分。駅からは遠くなるが、近くには銭湯やアパートなどもある。その途中は、ねじめさんの「高円寺純情商店街」を通ってくる。東京マラソンからは3日目。妄想はそろそろ終えて、そろそろ走ってこよう。

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