(その89)「本田消防団、定年は78歳」『北羽新報』2024年2月26日号

  本連載は、次回で90回目を迎える。89回目は、消防団の定年について紹介する。先日、石川分団長から連絡があった。何事かと思ったら、「定年延長願い」を提出してほしいとのこと。入団のときに、金井リーダーから「75歳が定年」と説明があった。しかし、全員が自動的に延長になるわけでなかった。延長の理由書が必要だった。分団長が代筆してくれた延長理由がおかしかった。

 

「本田消防団、定年は78歳」『北羽新報』(2024年2月26日号)

 文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)

 

 働き手が不足しているためなのか、定年が少しずつ延びています。わたしの先輩たちは、60歳が定年でした。いまでも公には、60歳定年の企業がほとんどです。ただし、その先も嘱託や関連会社への出向という形で、ほとんどが再雇用で5年ほどは働き続けています。
 わたしの同級生は、今年で73歳になります。医師や商店主など自営業で働き続けている人を除くと、ほとんどが70歳で引退しています。わたしなども、例外的な働き方をしている一人かもしれません。執筆活動の傍ら、経営コンサルティング会社を経営しています。
 それでも、大学で教鞭をとっていた頃に比べると、自由な時間が持てるようになりました。そこで、一昨年の暮れに、葛飾区の本田消防団に入団することになりました。入団するに当たって驚いたことがありました。それは、東京消防庁では、消防団員の定年が「満72歳」だったことです。

 

 消防団に誘ってくれた地区リーダーの金井さんからは、「先生、本田消防団に限っては、定年が75歳なのですよ」と知らされました。世間一般よりは長い期間、消防活動に携わることになるからです。延長の年限については、各消防団の裁量に任されているようです。
 訓練に参加してわかったのですが、消防団の仕事は重労働なうえに、時間的な制約も大きいのです。そのため、全国的に慢性的に団員が不足しています(定員充足率70%)。窮余の策として、東京都は退職の年齢を引き上げました。数年前まで定年は65歳だったそうです。もしも退職が2年ほど早ければ、わたしは消防団員になることができなかったのでした。

 

 さて先月末に、上司にあたる石川分団長(第11分団)からメールが届きました。「定年延長は自己申告制です。わたしから本田消防署長宛てに、『定年延長願い』を提出する必要があります。書類の提出をよろしくお願いします」(分団長)。
 わたしに代わって、分団長が提出用の書類を下書きしてくれていました。「延長願い」の最後の欄には、「延長理由」を書き込むスペースがありました。分団長が考えてくれた理由を見て、不謹慎にも笑ってしまいました。「(例):まだ十分に消防活動が出来る体力有り」。
 わたしが72歳のいまもフルマラソンを走っているのを、第11分団の皆さんはよくご存じなのでした。所属の団員全員が、自動的に定年延長ができるわけではないようです。フルマラソンが完走できる体力があることが、こんなときに役立つとは。

 

 分団長からのメールを読んだあとで、わたしと石川分団長との間で、スマホ経由で短いやり取りが続きました。簡単にご紹介したいと思います。

(わたし)「定年は72歳だったのですね」。
(分団長)「はい。残り3年間宜しくお願いします」。
(わたし)「そうなのですね、笑。65歳過ぎてからは、大学でも同じでした。毎年、教授会で、この先生は延長してよろしいかどうか?裁判にかけられるみたいでした。(定年を延長していただき)ありがとうございます」。
(分団長)「その後、更に3年間、大規模災害団員に配属希望有れば延長可能です。大規模な災害以外は活動がありません」。

 ということは、わたしの体力が続けばの話ですが、リザーブ(控え)の消防団員として、78歳まで働き続けることができるのでした。