ときどき、とんでもないことに興味がわきます。今回も、子供のころに食べた和菓子「シベリア」のいまを探求しました。調査は途中なのですが、その中間のリサーチ結果を公表してみます。題して、「全国シベリア調査」。子供のころから気になると、徹底的に調べる癖がありました。
「物事を突き詰める:全国シベリア調査」『北羽新報』(2021年4月30日号)
文・小川孔輔(法政大学大学院・教授)
子供のころから、和菓子が大好きでした。アンパンと羊羹は大好物で、あんこをカステラで挟んだ和菓子の「シベリア」も好んで食べていました。わたしの記憶では、秋田のシベリアは長方形をしていました。カステラとあんこの比率はほぼ均等だったと思います。
ところで、シベリア談義をはじめたのは、二週間前に近くのスーパー(イトーヨーカ堂)で購入したシベリアを見て、あんこの層の厚さが不均一なことに驚いたからです。インスタグラム(写真交流サイト)に、そのシベリアの写真をアップしたところ、複数の 友人から「ご当地シベリア」の写真が送られてきました。
友人たちが食べているシベリアは、秋田のシベリアとは、似ても似つかない形をしていました。三角、四角、丸型もありました。地域ごとにシベリアの形やあんこの中身、小豆の加工法やカステラの製法が異なっているように見えました。
わたしがイトーヨーカ堂で購入したシベリアは、全国メーカーの山崎製パンが販売者でした。ところが、パッケージの裏側をみると、青森の「工藤パン」が製造元になっています。山崎と業務提携をしている工藤パンは、地元ではよく知られた菓子メーカーでした。
調査開始から二週間ですが、シベリアに関しては次のことがわかっています。
(1)シベリアの形状には3種類ある(長方形、三角形、円形)。あんこの層がシングルの場合とダブル(シベリア鉄道の線路に見えます!)のケースがある。
(2)カステラと餡子の比率は、一般的にはカステラの方がやや厚いが、あんこの方が厚い場合もある。見た目では、有名店ほどあんこ比率が高く重たい感じがする。
(3)餡子の厚さは均等な場合がほとんどだが、わたしが買ったシベリア(4個入り)のように、厚さがバラバラな場合もあるようだ。理由は今のところ不明。調査中。
(4)カステラの舌触りは、製造元によってばらつきがある。
(5)シベリアは、明治後期から大正時代に誕生した庶民に人気の和菓子だった。しかし、ケーキなどの洋菓子に押されたのか、次第に人気がなくなり廃れていったようだ。
以上のことを、自分で調べたり、各地に住んでいる友人たちから教えてもらいました。シベリアの有名店は、①横浜元町の「コティベーカリー」(あんこ層がとても厚い)、②佐賀の「村岡総本舗」(丸型シベリアでもっとも高価)、③岡崎市の「こらくや」では「シベリヤ」という名前で販売。中身は小豆あんではなく、「あわ雪」(メレンゲ使用)でした。
おもしろそうなので、この際、「全国シベリア調査」を実施することにしました。調査を始めたところで早速、友人たちから心配のメールをいただいています。①「レトロな菓子なので、若い人たちは知っていますかね」という懸念の声、②関西以西に住んでいる人からは、「シベリアは知らないし、食べたことがないです」という回答が戻ってきています。
思い出したのは、10年ほど前(2010年)に、「全国肉じゃがマップ」を作成したときのことです。日本全国各地に元学生(約850人)や友人(花業界人など約600人)が住んでいます。そこで、「肉じゃがの肉は、豚ですか、牛ですか、それとも鶏ですか?」という質問を全47都道府県に住んでいる元学生や知人たちから回収してみました。結果は、「フォッサマグナより東側の県では豚肉、それより西側では牛肉でした」。この境界線は、シベリアについても当てはまっているかもしれないのです。最終結果をお楽しみに。