1月23日の朝9時に、東急東横線の日吉駅で、杉原弥生シニアマネジャー(ローソン広報部)と待ち合わせた。「ローソンSOCOLA日吉店」の取材のためである。「まちかど厨房」の開発と拡大を推進してきた鷲頭裕子さん(商品本部・商品サポート部長、当時)とのインタビュー(2023年4月18日)で、ファンタジスタ制度があることを知ったからである。
「ファンタジスタ制度」とは、「MACHIcafe」「FF」「まちかど厨房」「接客」「Machiカフェ」の4部門で、全国のクルーさんがチャレンジできるステップアップ制度。試験に合格すると、「ファンタジスタ」として認定される。ファンタジスタの資格を持つクルーは全国で約2万人(全体のクルーは約20万人)。その中から地方で選出された「グランドファンタジスタ」が約1,000人いる。その代表(ファイナリスト)の約50人が年に1回、大崎のローソン本社に集まる。
わたしからのリクエストで、鷲頭さんが取材時に話されていた内容(*以下でメモを添付)を、実際の店舗で確認させていただくことになった。
杉原マネージャーに選んでいただいたのが、2023年の関東地区代表選手の大林百合亜(ゆりあ)さん(まちかど厨房部門)がいるSOCOLA日吉店だった。
<まちかど厨房の観察記録>
慶應大学がある日吉駅の訪問は、大学入試以来、52年ぶりだった。正門の付近は、慶應高校の入学試験当日で混雑していた。日吉店に到着したのは、9時15分ごろ。挨拶後すぐに、紙製の衛生帽を装着して厨房に入り、大林さんの作業を観察させていただくことになった。作業の途中で、質問をどんどんしてしまったので、作業を中断させてしまった。すいません!(午前の作業が11時終了予定で、実際は8分オーバーになった)。
大林さんの勤務時間は、9時~15時。まちかど厨房は、パートさん4人が交代で勤務している。ここは、ローソン11店舗を経営するMO(吉野さん)の店舗。大林さんは一般のパートとして働き始めたが、4年前に厨房を希望。2店舗で働いたあとで、SOCOLA日吉店に移ってきた。
本日の午前の作業(9時~11時)は、米飯の弁当など25食、パン食のサンドイッチなど6食分。合計31個で、予定販売額は2万円。指図書(スリップ)通りに、4~10個ずつ順番に商品の製作がはじまる。
2時間の作業は、チキンとロースかつサンドからはじまる。ご飯が炊けてからは、唐揚弁当・一枚唐揚げ弁当(新製品、各地の食材を使用)、スンドュブスープ・カレースープ、かき揚げ弁当・親子丼・チキン南蛮弁当で、全体の作業は終わった(一部、記憶忘れもあるかな?)。
1回の作業(タクト)が、平均10分~15分。平均販売単価は600円前後、商品単価は500円~700円。
<作業中に質問攻め>
大林さんには、作業中にランダムに質問をしてしまった。狭い厨房(一般的には広い方ららしい)の作業動線上で、メモを取りながらスマホで写真を撮影しているから、かなり迷惑かもしれない。もともとが「パティシエ志望」だったらしい(2023年のファンタジスタ全国大会でのVTRから)。
そう思いながらも、「どうして厨房で働きたいと思ったのですか?」という“どうしょうもない質問”を投げると、①厨房で調理するのか好きで、②自分たちで提供するメニューを選べる(商品が画一的ではない)、③4人がチームで働いているので、それぞれ得意分野が異なるので、お客さんはメニューの変化を楽しめる。ちなみに、作業場には、彼女たちが相談して選べる標準企画メニューが、50~60ほど用意されていた。④発注個数も、自分たちで決めることができる。
大林さんの作業を見ていて感じたのは、⑤流れ作業ではないこと(いわゆる「セル生産方式」、総菜のロック・フィールドも工場も店舗もセル生産方式を採用)。⑤基本的に、パーツは冷凍食材でモジュール化されている(例えば、唐揚げ弁当だと、ご飯、千切りキャベツ、唐揚げ、赤かぶのおしんこ)。⑥デリバリーは、CDC(エリアデポ)から、ほぼ冷凍パーツの状態で運ばれてくる。
<厨房作業の観察を総括する>
まちかど厨房の作業が機能していることは、3つの観点から整理できる。
1 働いているパートさんたちにとって、「楽しい職場」であること。
・販売する商品を自分たちで選択できる。
・セル生産方式のため、作業が単調ではない。しかし、作業の習熟効果は上手に働く。
・自分たちで作業プロセスを組み替えるなど、創意工夫の余地がある。
・個人の技能と好みを商品に反映できる。例えば、商品の見栄えをよくするとか、作業を自分に合うように効率よくできる。
2 店舗(会社)にとっての経済メリット
・商品の廃棄ロスがほとんど出ない。まちかど厨房の弁当の場合は、固定客に支えられている面が大きい。「需要予測をほとんど外さない。標準メニューを販売しているので、外した後では調整がうまくできるので」(大林さんのコメント)。
・FDCとCDC(エリアデポ)からデリバリーされた冷凍部品とカット野菜などを組み合わせて、最終商品が完成する。しかし、揚げ物やご飯は店内調理だから、冷凍品を解凍して再加熱しているだけなのに鮮度が良い(と感じる)。
・この店内調理の仕組みは、1990年代に食品スーパーマーケットが、一部の商品カテゴリー(鮮魚や精肉、総菜)でセントラル方式を辞めてしまったことを彷彿とさせる。関西スーパーやサミットストア、総菜のヤオコーのインストア加工処理。
3 来店客にとって嬉しいこと
・コンビニでも、新鮮で温かい米飯類やサンドイッチを食べることができる。
・(一部の店舗では、キッチンが見えているので)出来立てを確認ができる。
・ランチタイムで販売しているのは、レジで接客しているファンタジスタたち(厨房で弁当を自分で作った人)。ロスが出ないように、わずかの時間だが、店頭で陳列を修正している販売ができている。
<結論>
1 (会社、店舗の経済性Profit)商品の賞味期限は8時間(作業終了11時~18時、撤去作業が一時間前)だが、それはほとんど問題にならない。衛生管理をしっかりさえしていれば、まちかど厨房のシステムには決定的な問題点(安全面、経済性、作業の困難)はないように見える。
2 (従業員の高いES)冷凍パーツを解凍し、インストア加工して商品化する作業プロセルは、経済的に成り立つだけでない。そこで働いているパートさんたちにも、良質な職場環境を提供している。
3 (高い顧客満足CS)ランチタイム(11時45分から12時45分まで)に来店する「まちかど厨房の陳列コーナー」を観察していた。店頭に来る顧客は、多少時間をかけて立ち止まりながら、となりのチルド弁当やおにぎりと比較しながら、厨房商品を選んでいた。圧倒的に、チルドに比べて、これら厨房系の商品群には比較優位があるように見えた。それは、単に出来立ての温かい弁当を提供しているだけでなく、接客の要素(声掛け、陳列の移動・変更)が加わっているからだと思う。
まちかど厨房の仕組みは、企業、顧客、従業員にとって「三方よし」の仕組みになっている。もちろん、一部の店舗では作業の大変さが負担になっているケースもあるが、鷲頭さんのインタビュー内容は、店舗(厨房)での観察によって裏付けられることになった。
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<<鷲頭裕子さんのインタビュー>>
(2023年4月18日、取材記録から関連部分を抜粋)
<「まちかど厨房」の導入店が途中撤退しないのは?>
【小川】2012年に「まちかど厨房」を全国展開する責任者になられたのですね。
Machiカフェもまちかど厨房も、オペレーションでコスト増になるので、(お客様には喜んでいただける)片方で、トレードオフがあると思うのですが。どう折り合いをつけているのですか?
【鷲頭】それはお店サイドのことですよね?
【小川】そうです。お店サイドです。企画サイドはまた別のことを考えていると思います。つまり、お店でちゃんとペイしないと、人手もかかるし効率がよくない。セブン方式だとお客さんが勝手に抽出するので、あとは掃除すればいい話です。でも、ローソンさんはそうはいかないですね。それと弁当もそうですが、常温のお弁当を買っていけばいいという話ではないですね。
【鷲頭】確かにコストで言うと、絶対的に、特に人件費を中心にかかるのは間違いありません。ですが、続けているお店は、コストをかけてでも、そのために来てくださるお客様がいることを実感できるから続けられているというところがあります。
続けているお店から、「もうやめたいんだけど」という話を当時からあまり聞いたことはなかったですね。新しいお客様が来てくれていることが確実に見えてきている。こういう事業をやっておけば、この事業自体がマグネットになって、新しいお客様が来てくださる。
それまで、お店に来て弁当ケースとかオープンケースに立って、何となく自分に合わないと思ったらスルーして帰られるお客様が、ある時からまちかど厨房の売り場に立ち寄って、そこで商品を見る。ローソンに来店する目的がまちかど厨房になっていくので、それを皆さんが実感されているのだと思います。
この事業自体はコストがかかるけど、その分で集客に繋がっているという手ごたえを感じておられる加盟店さんやお店さんが絶対的に多いと思います。
<作業の経験効果>
【鷲頭】(担当のパートさんが)初めはやったことがないので、お弁当を1日20個作ってくださいといっても時間がかかります。でも、20個のお弁当を作るのに、例えば1時間かかっていた人が、1ヶ月経てばものの30分で出来るようになったりする。そして、これをやるために、店内の他の作業を効率化しようとする。
店内全体で、そういうプラスになった分を引き算することを、お店が見つけて出していかれるのです。SVさんの指導のたまものだったり、事業としてローソンでやっていくのであれば、何を引き算できるのか?例えば、セルフレジもそうかもしれません。
【小川】経営学の用語で「経験効果」(あるいは「習熟効果」)というのですが、それが厨房の場合は働くのですね。
【鷲頭】そうかもしれないですね。
【小川】それ自身(厨房で)の作業効率が上がるというのが1つ。もう1つは、時間がなくなるので、他の作業を効率化する。
【鷲頭】そうですね。
【小川】結果として見ると、一旦導入したところがやめるケースは極めて少ないというふうに考えていいですか?
【鷲頭】はい、少ないです。
【小川】まちかど厨房の導入が10数年前からスタートしているので、導入店舗数は分かりますよね?今はどのくらいですか?
【B(広報部)】いま9000店ですね。
【小川】ということは、7割近く入っているということですね。特殊なケースを抜くと、将来的には全部に入っていくということになりそうですね。
【B】そうですね。小さいお店で入れられないところもありますが、基本入れられるところは入れていこうというのが、コロナの中で決定しました。