7つの橋のライトアップを見るため、夕暮れに隅田川を下る。

 昨日のことだった。何気なく見ていたスマホ画面で、隅田川に掛かっている橋のライトアップに関する記事を見つけた(https://news.yahoo.co.jp/articles/3cb70c6e7c76efb107321ad24a9c70566b94983e)。今から100年前の大正12年、首都東京は関東大震災で罹災した。このとき発生した火災で、隅田川に掛かっていた橋も炎上した。崩落した木製の橋は、不幸にも被災者の逃げ道を塞いでしまったという話である。

 

 橋梁の復興プロジェクトは、関東大震災の教訓から学ぶための工事だった。隅田川に掛けられた橋の復旧工事は、首都復興の象徴的な存在でもあった。感動的だったのは、当時の技術者たちが、7つの橋を掛け替えるにあたって、将来を見越した設計と施工を企図したことである。

 7つの橋の再興について、記事中で次のような記述がなされている。引用してみる。

 

 橋のスタイルが異なる理由
 当時、内務省復興局橋梁課長だった田中豊は、後年以下のように語っている(紅林章央『HERO』より)。
1.すべて同じ形式の橋を架けたら、一様に老朽化して同時期に架け替えが必要になってしまう。
2.もし構造に欠陥があれば、大地震が来たらすべて崩落してしまうリスクがある。
3.さまざまな形式の橋梁の設計や工事に携わることで、わが国の橋梁技術全体がアップする。
 特に(3)への思いが強かった。実際このとき、隅田川の橋梁建設を経験した技術者たちは、その後各県庁などへと赴任し、クルマ時代の到来に適応した橋を全国に建造していった。

 

 まさか将来の戦争(太平洋戦争の空爆)に備えた準備作業だったわけではないだろうが。災害時のリスク分散と建設施工技術の向上を考えた賢い発案だった。昔の人(とくに官僚たち)は偉大だった。

 立て替えて完成した9つの橋は、いまは夕刻からライトアップがされている。日時が不定期なのが問題らしいが、東京マラソンで往復の際に渡ることになる蔵前橋などは、わたしも何度か夕刻時にライトアップの様子を見ている。しかし、すべての橋のライトアップをいっぺんに見たことはない。

 再び、記事をそのまま引用する。隅田川(東京湾)に掛かっている7つの橋の説明文が美しい(括弧内の数字は、わたしが挿入)。

 

 代表的な隅田川の震災復興橋梁
 代表的な隅田川の震災復興橋梁を挙げておこう。

 国内で初めて支間長が100mを超え、堂々たる大きなアーチの架かる永代橋(1)、ライン川に架かるケルン(ドイツの都市)のつり橋をモデルとした清洲橋(2)、3連のアーチが印象的な厩(うまや)橋(3)、橋桁の下にアーチのあるスタイリッシュな吾妻橋(4)などで、それらは大正時代末から昭和初年頃にかけて建設された。

 なかでも永代橋はそのスケールから「震災復興のシンボル」、清洲橋はその美しさから「震災復興の華」と称されてきた。その下流、背の高い船を航行させるために橋の中央部がハの字型に開く跳開橋の勝鬨橋(5)(1940年完成、1970年を最後に開いていない)を含めた3橋は、2007(平成19)年、道路橋としては初めて国の重要文化財に指定されている。

 これら隅田川の橋は、ひとつずつ見ても美しく興味深い。なんといっても船に乗ってこれらを連続してくぐっていくと、それぞれの構造が異なるため、よりいっそう印象深いものとなる。特に夕暮れから夜にかけ、それぞれが異なる趣向でライトアップされたなかを進むのは圧巻である。

 最もおすすめなのは、お台場海浜公園から浅草までの隅田川水上バス・クルーズ船。桟橋を出るとまずレインボーブリッジ(6)をくぐる。1993(平成5)年完成、塔高126m、支間長(しかんちょう。橋梁の支承から支承までの距離)が570mもあるいわば現代の橋である。

 築地大橋(7)をくぐる付近から隅田川へと入り、そこからは勝鬨橋、さらに震災復興の七つの橋と、時代をさかのぼっていく。行く手には、これもライトアップされたスカイツリーの姿も見えてくる。浅草の下船場近く、最後にくぐる吾妻橋は、浅草のにぎわいを象徴させて朱色にライトアップされ、水面はさらに紅に輝いて見える。演出が最高潮に達して終了という形である。

 

 いつか、7つの橋のライトアップを見るために、浅草の桟橋から船に乗りたいと思う。

 その昔(2015年)、親戚一同を招いて、屋形船を貸し切ったことがある。拙著『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社、2015年)が大ヒットして、印税がたくさん入った時のことだ。あのときも、屋形船に揺られて7つの橋をくぐったはずだが、それぞれが形が異なる橋のライトアップについては、いま振り返ってみてもほとんど記憶に残っていない。

 そうだ! 来月(10月6日)になれば、私小説『わんすけ先生、消防団員になる。』が小学館スクウェアから発売になる。そのとき、文中に登場していただいた人たちを、「隅田川ー東京湾クルーズ」の屋形船に招待してみてはどうだろう。ついでに、親戚一同と旧小川研究室の仲間たちも、売上金でご招待しよう。

 8年ぶりのその夜は、ライトアップした橋を撮影することを忘れないようにしないと。7つの橋のライトアップを順番に眺めながら、貸し切った屋形船が隅田川を下っていく。東京湾に到達したら、甲板に出てレインボーブリッジを仰ぎ見ることにしよう。11月の夕刻どきだから、隅田川の川面を吹いてくる風はもう冷たいかもしれない。