午前中のブログで、くじらの竜田揚げの呼び名として、「クジラのノルウェー風」を紹介した。「おもしろかったのは、同じクジラの竜田揚げのはずだが、地方によって呼び名が微妙に違っていたことだった」(JFMA事務局、拝野多美さんのユニークな呼び方)。
「とてもクジラとは思えない風流な呼び名だった」と述べてしまったが、拝野さんには、まったくもって失礼な言い方をしてしまったことになる。そうなのだ。わたしが風流と呼んだ「クジラのノルウェー風」は、室蘭ローカルの呼称ではなく、全国共通の給食メニューの呼び名だった。
「レシピがありました!」と拝野さんから午前中に返信があった。根拠は、藤原辰史著『給食の歴史』(岩波新書、2018年)だった。どなたかがブログで紹介していた説明によれば、「(クジラのノルウェー風は)サイコロ状にカットした鯨肉にすりおろした生姜、濃口しょうゆで下味をつけ、片栗粉をつけてカラッと揚げる。カリッと揚がった鯨肉に、ケチャップ、ウスターソース、砂糖で作ったたれを和えて、鯨肉のノルウェー風が完成します」とあった。
このレシピの説明を見て、遠い昔の記憶が蘇った。給食当番のときだった。秋田で食べた給食のクジラは、いつもではないが、確かにケチャップがかかっていたようにも思う。「クジラのノルウェー風」の説明の前半部分は、わたしが記憶していたクジラの竜田揚げである。後半部分の説明は、ときどき食べた記憶にある、ケチャップとウースターソースの甘ったるいたれのことである。
そうか!と納得した。わたしは、鶏の唐揚げを食べるとき、赤いケチャップのビン(チューブ)を探してしまう。竜田揚げでなくとも、唐揚げにもケチャップが欲しくなる。それは、子供の時に食べていた給食の「クジラのノルウェー風」の影響ではないかと思う(メニューの正式名称はしらなかったが)。
60年後に唐揚げを食べるとき、ケチャップが唐揚げにかかっていないと口さみしいと感じてしまうだ。その不充足感は、どうやら給食のクジラの竜田揚げのたれが原体験になっているらしいのだ。恐ろしいと思うのは、知らないうちになんでもケチャップをかける習慣ができていることだ。
そうだった。この習慣は、米国滞在中(1982年~84年)に強化された。マクドナルドで、チキンマクナゲットを食べるとき、ケチャップとマスタードが付いてくる。ケチャップと辛子の刺激がないと、ナゲットを美味しく献じられないのだ。だから、ローソンでからあげくんを食べるときも、からしとケチャップはマストアイテムである。
そうなのだ。米国の農畜産業とフードビジネスは、わたしたち日本人に「給食という制度」(GHQ主導)を通して、洋食化を強制したことになる。わたしがいまだに、同じケチャップでも、味の素やカゴメよりハインツに軍配を上げてしまうのは、クジラのノルウェー風の摂取がもたらした教育の結果だった。
最後まで、脱脂粉乳やコッペパンは好きになれなかった。ところが、クジラのノルウェー風を通して、米国の食文化に「汚染されて」いたのだった。マクドナルドのハンバーガーとフレンチフライ(ポテト)は、いまでもまったく好きになれないが、KFCのチキンには目がない。
そして、いまでも例外なく、KFCのフライドチキンにはハインツのケチャップをかけて食べている。学校給食が終わって半世紀が経過している。その後でも、クジラのノルウェー風の食味と舌は健在だったようだ。そうだ、今夜はチキンが食べたくなった。