【常識を疑う】『日経MJ』に、思わず膝を打つ記事が掲載されていた。

 日経MJの【異能マーケティング】のシリーズで、「ブレンドでブランド米を突破」という署名記事(吉田啓悟記者)を見つけた。舌を噛みそうなタイトルなのだが、「ブランド」は、コシヒカリやアキタコマチのようなお米の品種のことで、「ブレンド」は、複数のブランド米をミックスして美味しいお米を創ることである。

 

 本日のブログ記事のタイトルは、「常識を疑う」としてある。わたしたちは、しばしば盲目的に(真実を疑うことなく)、世間の常識に引きずられて物事を判断したり、行動を起こしたりする。たとえば、「美味しいお米とは、品種改良を施した”シングルモルト”のお米である」などは、その典型である。

 「日本で一番おいしいお米は、新潟魚沼産のコシヒカリだ。最近では、北海道産のななつぼしのほうがおいしいぞ」などが、そうして言説の代表例である。しかし、この常識は、まったく外れているわけではないが、正確なお米の評価とは程遠い判断になる。

 岩塚製菓の槇春夫社長(当時)から、1年前に同社の長岡工場を見学したときに、「わが社のおかき・せんべい用のお米は、各地の優良品種を複数選んで、それらをブレンドして使っている」との説明を受けた。そのときの解説では、季節や生産者、圃場によって品質が安定しないので、そのリスクを避けるためにお米をブレンドして使用するという解釈を聞いて、納得した覚えがある。

 ところが、金曜日の『日経MJ』(7月21日)の1面に掲載された記事では、ブレンド米のテクニックを、もっとポジティブにとらえようとしていた。セブン-イレブンとおにぎり用のお米のブレンドで協業しているのが、京都の老舗米店をルーツに持つ「八代目儀兵衛」の橋本儀兵衛社長である。儀兵衛さんの会社の取り組み(美味しいブレンド米の組成)が紹介されていた。

 

 橋本社長が経営する「八代目儀兵衛」では、お米を7つの項目の合計得点で評価している。MJの記事によると、その中でも、「甘さ」「のどごし」「ツヤ」が重要な指標になっていた。総合得点への貢献度では、その他の属性の2倍のウエイトを持っている。これらの指標は、同社内ではデータベース化されている。

 この記事を読んで感じたことが二つあった。ポジティブな側面は、優良品種や生産者(圃場、団体)は、属性ごとに良いスコアとそうでもないスコアのミックスになっているはずである。だから、複数の品種をブレンドすることで、優位な属性のスコアを高めて、合計で最高の品質が獲得できることができる。

 ネガティブな側面は、データ化してあるとはいっても、のどごし(触覚)などは、ツヤ(視覚)や甘さ(味覚)と比べてると主観的な評価が関わっている。ツヤなども、お米の炊き方や収穫からの経過時間、精米のやり方で変わってくるだろう。その観点から言えば、むしろ圃場での栽培品質以上に、後工程(保管や精米の仕方、温度管理)がお米のおいしさに影響を与える可能性がある。

 この点は、橋本社長も認めている点である。どこまで行っても、たとえば、橋本社長のような目利きによる、主観的な評価データに頼る部分を排除できないのである。

 

 岩塚製菓の槇春夫社長(当時、現会長)の言葉から推し計ると、単独の品種ごとの比較で、もっとも美味しいお米を競わせることがナンセンスだということになる。お米のおいしさを構成する要素が、品種ごとにばらつきがあるからである。そうした客観的な事実を知ると、ブレンドすることの優位性が商売になるという事実は納得できる。

 今回の美味しいお米の話に限らず、世間の常識は疑ってかかるべきなのである。品種と栽培者がお米の美味しさのすべてを決めてしまうというのも、近視眼的な見方だったわけである。

 後工程の工夫によって、食品のおいしさを増進できることもある。たとえば、最近では、「冷凍食品の方が、場合によっては、採れたての生鮮品よりもおいしくできる」などの現実が明らかになりつつある。これなども、食べ物のおいしさに関する、わたしたちの常識が破壊された事例のひとつである。