大学院の先輩、辻山栄子さん(早稲田大学名誉教授)と48年ぶりで再会した。ローソン本のインタビューで、竹増社長からの推薦だった。実はわたしは微妙な気持ちで、辻山さんのインタビューに臨んでいた。大学院で、辻山さんはわたしの4級上だった。22歳のわたしは修士課程の学生で、辻山さんは博士コースに所属していた。
女性の年齢をばらしてしまうことになるが、辻山さんは4歳年上である。そして、大学院の経営学コースでは、唯一の女子学生だった。
昨日、ローソン(@大崎)の受付で会ったとたん、「小川さん、あー、わかるわかる」で48年ぶりの再会が始まった。そのままインタビューになだれ込んでいった。1974年の春、東大の経済学部を卒業したわたしは、そのまま大学院に進学した。
辻山さんは、早稲田から東大の大学院へ進学してきていたが、すでに公認会計士試験には合格していた。早稲田で初めて現役で合格した女性公認会計士だったらしい。そんなことも、昨日になって初めて知ったことだった。その後のキャリアもほとんど知らないまま、ローソン本のインタビューでお会いすることになった。
当時の辻山さんに対するわたしの印象は、一言でいえば、割りにはっきりものを言う「きれいめのお姉さん」だった。経営コースの部屋の住人は、彼女を除くとその他は男性だった。そのせいか、専門が会計学だったこと以外は、池袋にお住まいであることしか記憶には残っていない。
「部屋の中の誰が、辻山さんを射止めるのだろうか?」と、そんな下世話なことだけは気になっていた(笑)。
”もてもての”女性学者の名前をその後に聞いたのは、『日本経済新聞』の記事を読んでのことだったと思う。大学教授で女性の公認会計士(政府の審議会委員なども歴任)が、大手企業5社の社外監査役に選任されているという記事だった(当時の記事が、拙稿「社外取締役は本当に必要か?」『新潮45』(2015年6月号)で引用されている)。
そのころのわたしは、『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社、2015年)を上梓したばかりだった。マクドナルドの失速を予言したことで、アプローチが一風変わった経営学者として注目を集めていた。いまや時効になるので明らかにしてしまうが、日本マクドナルドの原田社長からは、東洋経済新報社とわたし宛に、「ブラックメールもどき」の内容証明が送られてきていた。
新潮社はそこに目を付けたのだろう。大手企業の経営実践に対して警鐘を鳴らす経営学者として、雑誌やテレビへの出演依頼も増えていた。新潮社からテーマとして「社外取締役不要論」を依頼されたわけではないが、やや言いにくいテーマをずばり評論する姿勢がメディアからは評価されていたのだと思う。
『新潮45』(新潮社の月刊誌)の論考「社外取締役不要論」の中で、大先輩の辻山栄子教授の名前は、つぎのような文脈で登場している。そのまま引用することにする(刊行された記事は、これよりもっと短い)。
<社外取締役マーケット>
③広報対策、見栄えのための女性・学者活用
米国の調査機関GMIの「GMIレーティングス」の2013年調査によれば、上場企業における女性の役員比率は、1位のノルウェーが36.1%であるのに対し、日本は1.1%で、欧米アジアを中心とする調査対象45か国中、44位(最下位はモロッコ)である。
日本政府も成長戦略の柱の一つに掲げている。こうした現状を受けて、社外取締役に女性を入れようという傾向が強まっている。女性についてはクォータがあり、政府等の委員会も女性を活用することが多いようだ。一般的には、「女性目線」がいいことのように喧伝されるが、本当に適性があるのかどうか、問題が残っているように思われる。学者と女性の社外取締役は、見た目がいいという要素が多いいのではないか。
学者では、一橋大学の伊藤邦雄氏が7社で社外取締役・監査役を兼任しているのをはじめ、辻山栄子氏(5社)、安田隆二氏(一橋大学)(4社)、松田千恵子氏(首都大学東京)(4社)など、複数企業を掛け持ちする人も多い(『ZAITEN』2014年7月号の東証一部上場企業社外取締役・監査役兼任番付参照)。
つまり、辻山さんは、当時から5社(オリックス、ドコモ、三菱商事、資生堂、ローソン)の社外監査役を務めていた。就任に対してやや批判的な文脈でのご本人の登場だったので、昨日のインタビューでは、とても意地悪な質問を用意しておいた。もちろん、質問項目は、広報部を通して事前に辻山さんに送付しておいた。
<辻山さんのインタビュー、質問項目>。
1.キャリアは知ってますが、なんでローソンとお仕事を?
2.ローソンの取締役会の様子を、3代にわたる社長交代の変化について教えてください。
3.会社として、もっとも印象に残った事件は?
4.コンビニとスーパー、エンタメ部門を有するローソンについて、取締役会でどのようなコメントをされてましたか?
5.その他
確信犯が意図した質問は、2と4である。
昨日のインタビューでわかったことは、
①ローソンの取締役会は、社内・社外に関係なく腹蔵なく議論が展開されていること、
②辻山さんの貢献のひとつだと考えるが、M&A案件の評価については厳しく精査して意見を述べていたこと、
③同じく、少数株主を代表する立場(社外監査役として)から、それまでの過剰な配当(配当性向が100%近い時代もあったらしい)について、異議を唱えてきたこと(世間並みに、その後は30%程度に改善された)。
③については、「ローソンの挑戦とコンビニ事業の未来」について、いま執筆をつづけているひとりのライターとして納得できる内容だった。というのは、辻山さんがこだわった配当を減らして内部留保資金を増やした分は、グリーンローソンに見られる環境対応(SDGs)や地域重視(マチと暮らす、まちかど厨房)、あるいは社内のDX(デジタルトランスフォーメーション、例:アバターや新セミオート発注)の取り組みに投じられている。
これにプラスして、ローソンの3代の社長を見る視線(本人の弁)は、熱く語りながらも実はクールに分析されていた。
というわけで、わたしが批判してきた「女性大学教授」「公認会計士」「弁護士」「官僚」出身の怪しげな社外取締役(監査役)の枠から、辻山さんは大きく外れていることを知って、実は安堵したのだった。
だたし、彼女は例外である。基本的に、わたしは7年前の主張を変えたわけではないが、ローソンにとって、辻山さんを社外監査役として迎えることができたことは、とてもラッキーなことだったとは思う。これは、当時は三菱商事に所属していた新浪さんの功績である。
最後に、辻山先輩! 12年間のローソンでの社外監査役のお仕事、ご苦労様でした。わたしの孫は4人ですが、お孫さんが6人で、しかもときどきファミリー全員のために夕食を作るという辻山さんには、公私ともに完全に負けています。
わたしの唯一の優位性は、文章を書くのが早いことと(正確性は疑問符が付きますが)、これまで刊行した本の厚みが、自身の身長(165センチ)まで届きそうなことくらいです。