孫たちが遊びに来て、5月の連休は楽しみが多かった。本日が連休の最終日になる。『わんすけ先生、消防団員になる。』の校閲済み原稿をチェックして、午後には出版社に返送する。小学館の担当者宛てに、チェックを終えた校閲原稿を封入し、宅配便にメモを添付してある。厳密に作業をしていくと、いろいろと問題点や疑問点が出てくるものだ。
これまでの出版は、研究書やビジネス書、翻訳書が主体だった。今回は、「私小説」のジャンルに初めて取り組むことになった。ノンフィクションの自伝的な小説を発表するとなると、従来とは異なることに気遣いすることになる。
参考まで、ブログ記事の最後に、わたしから担当の石塚ゆみさん(小学館)に送ったメモを抜粋して紹介する。これがなかなかおもしろいことになっている。
ビジネス書と小説のいちばんの違いは、登場人物が公的な「仕事」ではなく、プライベートな「生活」の中に登場することだと思う。実在しない世界(フィクション)であれば起こりえない、プライバシーや個人的な感情を小説(ノンフィクション)の中で記述する場合は、事前に本人の承諾をとる必要が出てくる。
これが案外と面倒なのである。ほとんど問題にならないと考えていたことが、今回は直前になってから問題点として指摘を受けた。本田消防署の消防団担当のキクチさんが、物語の冒頭と最終章に登場している。わたしとキクチさんのやり取りを読んで、「本田消防署に、許諾をもらう必要がないですか?」と、第11分団の庶務担当・塩田ちあきさんからコメントが送られてきた。
地区リーダーのすすむさんや石川分団長からは、事前に掲載の許諾を得ていた。消防署の組織としても許諾が必要だとは、、、ちょっと驚くことになった。いまから本田消防署(キクチさんの上司宛)に、関連する記述の部分をコピーして置いてくるつもりでいる。雨降りの中で面倒なのだが、これは約束事だから致し方がないだろう。
2番目の問題は、元の原稿が、ブログ記事(柴又日誌)をベースに再編集したものだったことに由来している。物語の内容は、千葉ニュータウンから東京下町(葛飾区高砂)に引っ越してきた4年間の記録をまとめたものである。時制としては、「現在=いま」が中心である。ここで起こった「事件」を時系列で記述するという書き方で、生起する素材を並べている。
しかし、それはあくまでも原理原則である。それ以外にも、過去のブログやわたしの書籍から引用した記事を再編集してある。物語の中には含まれている事柄は、過去と現在の時制が混在している。しかし、そのことで読者を混乱させてはならないだろう。
そこあたりの仮想的な読者への懸念は、元秘書(福尾さん、ちなみさん、内藤さん)などに読んでもらって解決してある。不自然さを感じさせない程度に、文章には修正を施すことになった。
3番目は、思いもかけないポイントだった。文章表現について、細かな配慮が必要とされたことだ。具体的に言うと、キャラクターの「すみっコぐらし」(電車のラッピング広告)が物語の中に登場する。出版社からの依頼では、ブランドの表記はなるべく少なめにして、ブランドに関わる表記もぼやかしてほしいという対応だった。
また、小説中には実在する飲食店や商店の名前が出てくる。オリジナルのブログ記事では、そのときの印象や感情をそのままに表現していた。しかしながら、実際に商売をしている立場からすると、わたしの個人的な体験が公になってしまう。「食べログ」などのグルメサイトでは厳しめのコメントもOKだろうが、わが体験記がネガティブの評価だと、商売の妨害になりかねない。
というわけで、オリジナルの表現をややマイルドのものに書き換えてある。もちろん飲食店だけでなく、その他の商店でのショッピング体験でも同じことが言える。多少のお化粧を施することにした。
今回ははじめて、ペンネームの「小石川一輔」で小説を書くことになった。自分の名前を仮名に仕立てただけではない。両親やかみさん、子供(配偶者を含む)や孫たちの名前も仮名にしてある。物書きの立場からすると、フィクションとノンフィクションの間の微妙な綱渡りを演じている感じがしている。
いずれにしても、8月には大手書店とネット書店で、本書は販売されるだろう。文学賞の選考に漏れたので、文芸的な一次評価では高いスコアが得られなかった。このあとは、マーケティングを駆使して販売活動を展開するつもりでいる。そのとき、世間はどのように反応するのかが楽しみである。
そのときまで、2回の校正作業が待っている。表紙や文中に挿入されるイラスト、装丁やレイアウトの決定が残されている。まだ作品としての工夫の余地が残されている。アートディレクターの大内おさむさんからは、10日すぎに提案が来ることになっている。楽しみな連休明けである。
以下、石塚さんに先ほど、午前中に送付したメールである。
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石塚 さま 2023年5月6日
こんにちは。早めですが、校閲原稿をお戻しします。
「第5回かつしか文学賞」に応募した作品は、締め切りの一日前(10月7日)に完成しました。慌てて提出した原稿だったのと、慣れない文学作品で縦書きを要求されたことで、校正が不十分だったと反省しています。
今回は、校閲担当の方にチェックをお願いすることになりました。感謝です。わたしの思い違いや、数値の記入ミスなども多々ありました。
以下は、修正作業の原則と、チェック作業中にで気が付いたことをリスト化しました。
1.原則(修正作業)
校閲担当の方が鉛筆書きや赤字の部分で、わたしが何も書いていないのは、「そのままでお願いします」の意味です。
また、統一すべき表記で、校閲者が「鉛筆で丸囲みしてあるもの」で、そのままにしてあるものは、同様な扱いです。この先の修正はお任せします。
2.名前(姓名)について
原則として、3親等(祖母、両親と子供、孫たち)までは、「仮名」にしました(かみさんの案です)。小川の姓は「小石川」(こいしかわ?)、祖母の姓は「袴田」、かみさんの旧姓は「花村」にしてあります。わが兄弟姉妹は、名前を示さない表記(弟、妹)のままです。
その以外の主要な登場人物は、原則として本名を示してあります(ご本人の承諾済み)。ただし、友人や仕事仲間の場合は、「姓」だけにとどめてあります(例えば、恩田さんや木村くん、石川分団長、佐藤バイヤー)。
3.「日付」の書体
現在、各節の書体と活字ポイントは、他の部分と同じ明朝体の10.5ポイントになっているようです。できれば、本文とは異なる書体(たとえば、斜体やイタリック)で、ポイントを少し落としていただくとか(たとえば、9ポイント)、お願いできませんでしょうか?
なお、かなり昔に書いたブログ記事(たとえば、3章4節「豊顕寺の桜吹雪」など)は、物語の素材になっている「柴又日誌」ではなく、過去の「ブログ記事」から抜粋しています。そのため、日付がかなり古いものが混じっています。読者が違和感を覚えるようでしたら、文中のどこかで注記する必要があると思っています。
3.街と町の使い分け
厳密に使い分けをしているわけではありません。感覚的なものです。一般的には、行政区など場所と関連するものには「町」を、その場所の生活や人を想起する意味では「街」を使い分けているつもりです。
ただし、節や章によって(たとえば、最終章「この街と暮らす」や第2章1節「昭和の町にやってきた」)は統一した方がいいと思い、どちらかを優先させている場合もあります。
4.「もくじ」の最後の注記
ブログ記事の初出(※)について、もくじで注記すべきかどうか、ご検討ください。必要であれば、ブログ記事が書かれた最初の日を示すことも可能です。ただし、ほとんどの節は、作品の進行に合わせて、オリジナルの文章を書き直してあります。なお、『当世ブランド物語』のプラレールの引用についても、数値や史実を修正してあります。
「あとがき」で、そのことを説明することで充分ではないかと考えています。
5.文章表現の修正
著作権やブランドに関連して取り扱いが微妙になる場合を考慮して、ブランドの表記を減らしていただきありがとうございます(たとえば、すみっコぐらし)。
校閲者からは指摘がありませんでしたが、「土手の伊勢屋」(4章1節)のように、事業内容の変化などについて記述している場合は、相手方が文章を読んで気分を害さないよう、オリジナルの記述を(良い方に)修正してあります。
以上、よろしくお願いします。
小川より