わんすけ先生は、ポジティブ・エルダーのロールモデル?

 元気に老いるためには、何が必要なのか? わたしの答えは、肉体的な衰えに対して、簡単にギブアップしないこと。大下誠君(法政大学の元院生)から昨日、つぎのような感想をいただいた。『北羽新報』(12月24日号)に掲載された「71歳の新入り消防団員」というコラムを読んだ彼の反応は、「タイトルの破壊力がすごいです」だった。

 

 東京都で最年長の新人消防団員が、どうやらわたしらしい(厳密には、未確認情報だが)。

 コラムが地元新聞に掲載された翌日に、インスタグラムに上げるつもりで、御徒町のアウトドア用品店で「mont-bellパーマフロスト ウィメンズ」を購入した。2階の女性フロアで入手したダウンジャケットの色は、ネイビー。斜めにステッチが入った女性ものである。昨年から、冬のセーターなどは、水色の女性もの(ユニクロ)を愛用している。その延長で、ダウンコートが欲しくなっていたところだった。

 銀座のゼニアで購入した、25万円もする仕立て上がりのコートを着ていると、たしかにリッチな気分にはなる。しかし、今年はよりカジュアルなダウンのコートがほしくなった。できれば、女性ものが希望だった。

 

 米国人の女性は、年を取るにしたがって、若いころより派手な色を選ぶ傾向がある。若さを保つために、あえてビビッドな色を選ぶのだろう。米国人女性たちの行動に倣って、わたしもやや派手な色合いのウィメンズを選ぶようにしている。去年のユニクロの女性もののセーターがそうだった。

 数日前に、仕事の途中で、御徒町のmont-bellへ寄ることになった。広島女子(モンベル社員)の一言が決め手になった。ジェンダー・フリーの洋服選びについて、彼女たちとLINEでやり取りをしている時だった。

 「先生、mont-bellのパーマフロストライト ウイメンズのネイビーを試着してみてください!たぶん先生に似合う!」。

 このアドバイスにしたがって、その日のうちに、mont-bellパーマフロスト ウィメンズを買ってしまった。何事も、若いころから即断即決である。

 

 新人消防団員の話に続いて、女性仕様のダウンコートを買ってしまった、わんすけ先生の行動を見てのことなのだろう。大下君からは、10KMマラソンを3週連続で走り終えた報告をしたタイミングで、安心したようなメールがLINEに戻って来た。

 前日(12月23日)に、神田小川町でアフターゼミを開いた。ゼミ後は、10人が参加の忘年会兼クリスマスパーティーを企画した。大下君は、リモート参加だったので、忘年会には参加できなかった。

 

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 先日のアフターゼミお疲れ様でした。
 ランの記録も順調に戻ってきていてスゴいですね!
 先生のおかげで、年齢を重ねる事に対してポジティブに捉えることができるようになってきました。

 いつもありがとうございます!

 

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 大下君は、わたしの子供たちの世代である。年齢が、20歳から30歳は離れている。彼らにとって、老人になった時の自分の姿は、なかなか想像できないはずである。わたしもそうだったから、年齢を経る状況が想像できない感覚はよくわかる。

 ところが、である。目の前には、葛飾区の消防団員になって地域貢献をしようとしたり、ガールフレンズのアドバイスにしたがって、女性もののダウンコートを身に着けることに頓着しないわたしがいる。71歳の元教師である。

 年齢の差を置いておくとして、わたしのいまの姿や行動は、自分たちが目指すべき年寄りの一つの典型と見ることができるわけだ。もしかすると、わたしはロールモデルになりうるのかもしれない。そうなのだ。年を重ねていくことは、別に陰鬱なことではない。楽しくチャレンジングに生きている年寄りがここにいる。

 

 わたしは、70歳を過ぎてからも、アンチ・エージング(加齢に抗すること)を軸に、日常の生活を組み立てている。加齢という現象に対して、簡単にはギブアップ(降参)しないことを旨としている。

 数年前に、両目は白内障の手術を受けている。両方の奥歯は、梅干しのタネを噛んだ時に、不幸にも割れてしまった。しかも、右下の奥歯と左上の奥歯の二か所にクラックが入っている。割れた隙間からばい菌が侵入するので、ウイルスを抗生物質で抑えている。これが胃腸の調子を悪化させる原因になる。でも、あまり悲観的に物事を考えないことにしている。

 これは神様が与えてくれた試練なのだが、歯科医院での治療の周辺には、ついでの楽しみがある。たとえば、検診・治療のため、月一回はかわすみ先生のところに行くことができる。ついでに、歯科技工士の女子たちとお話ができる。かわすみ先生の膝がどのような具合になっているのか?ランナーの立場から、歯医者さんの悩みを聞いてあげるのだ。楽しい会話の時間をいただくことになるのだ。

 

 2年前にコロナで筋トレができなくなり、足腰をやられてしまった。一旦はまったく走れなくなってしまったが、抵抗は無駄ではなかった。いまでは、筋トレと整体治療と地道なトレーニングで、10KMレースを1時間以内に走れるところまで、足腰が回復している。

 体調を整えるために、サプリメントも5種類以上を飲んでいる。サントリーのロコモアとセサミン、味の素のアミノバイタル、資生堂のコエンザイムQ10AA、エーザイのチョコラBBなどなど。いまでも、サプリメント大魔王は健在だ。

 加齢による身体の衰えは、致し方のないことだ。45歳の時に1時間40分で完走できたハーフマラソンは、いまやゴールタイムは2時間10分台。年間で1分ほど遅くなっていく勘定だ。それでも、つるべ落としで減速するランのスピードは、サプリメントと身体の鍛錬で多少なりとも抑制はできる。

 

 問題は、落ちていくランニングのペースを幾分とも遅らせることに、自分自身で喜びを見いだせるかどうかだろう。

 わたしは、根性と科学で、常人よりはアンチエージングに成功している部類は入っていると思う。その時の状態でベストを尽くて走るために、創意工夫をする努力をしているからだと思う。わたしのようなエルダーのランナーは、傍から見ていて楽しそうに見えるのではないだろうか。

 例えば、そうしたプロフェショナルの代表が、プロスキーヤーの三浦雄一郎氏だ。あるいは、わたしの先輩筋では、食品スーパーヤオコーの元常務、犬竹一浩さん。81歳のいまでも、日本商工会議所の催しなどの座興で、得意の手品を披露している。彼らの生活は楽しくそうだ。活動そのものが、彼らの楽しい人生の一コマだからだろう。

 彼らほど、わたしは有名人ではない。特別な才能を発揮する技能(スキー)も場面(奇術)も持ち合わせてはいない。それでも、10歳ほど年下のわたしは、大下君のような若者から見ると、少しは輝いて見えるのかもしれない。物理的には年老いていく存在なのだが、心理的にはむかしより若々しく、チャレンジングな生き方をしているからだ。

 

 若いころならば難なくできたことが、いまや簡単にはできなくなっている。

 スポーツやダンスのために必要な筋力が低下している。動作のスピードも鈍くなり、機敏には動けなくなっている。それはそれでよろしいのではないだろうか。いまできる範囲で、年齢に見合ったベストを尽くすことに喜びを感じられる。落日のように、身体能力が落ちていくプロセスを受け入れられる度量の大きさ。

 昨日も、利根川の河原で10KMレースを走った。事故で電車が遅れるアクシデントがあって、最終ウエーブ(時差スタートの最後方)でのスタートになった。予想ゴールタイム順に並ぶルールになっていたから、60歳代のグループは最後尾からの出発だった。

 最後方からのスタートは、それはそれでおもしろいのだ。力量が同じならば、5KM過ぎからは、若者と女子を追い抜く快感を味わうことができるからだ。物事は考えようだ。気持ち一つで、どこにでも楽しみはあるものだ。世の中には、不平不満をいう老人もたくさんいる。

 いや、もしかすると、そちらの方が多数派だろう。でも、おのれの身に迫ってくる老いや、身体的な所在なさを楽しむ余裕があれば、人生は捨てたものではない。何事かにチャレンジできる場面は、どこかには残されている。そうそう、繰り返しになるが、チャレンジすることを簡単にやめてはいけないのだ。