「小川先生の大予言(1)、(2)」というコラムを、10年ほどの間隔を開けて実施してきた。今年度は、予言(2)から9年が経過している。一年早いのだが、当時の推論の精度を評価してみたいと思う。打率はほぼ8割程度のようだ。まったくの外れはなさそうだ。
最後の予言は、2014年の元旦だった。それぞれを順番に評価していく。
「小川先生の大予言(2): 10年後の2024年を占ってみた」(2014年1月1日)
2024年は遥か遠くのように見えるのだが、10年後を占ってみることにする。10年前の大予言(当たりの確度)は、5勝1敗だった。アジア情勢だけは読み違えていたかもしれない。
それでは、遅ればせながら、「2024年」を占ってみる。一部の予測は、2014年から2015年にかけて、ごく近未来の予測である。
以下では、2014年当時(予言)と現在(現状)を比較して評価してみる。
(1)農に関する二つの危機: GMO問題と水飢饉
農業のあり方に対して、自然界はふたつの問題を我々に投げかけてくる。「遺伝子組み換え植物(GMO)」と「水不足の問題」である。10年後は、今以上に温暖化で気候変動が激しくなっている。地球上で水没する国が出てくるはずで、オランダや太平洋に浮かぶ島々などがその候補だ。
数年以内に、変異植物が発生してGMO(遺伝子組み換え作物)が人体へ悪影響を及ぼす。大惨事が起こり、遺伝子組み換え植物の生産が禁止される(この予測は、正直に言えば当ってほしくない!)。病虫害に対しては農薬では対応のしようがなくなり、結局は生物農薬や在来の強い種子に依存する有機農業的な手法に戻っていくだろう。
洪水や台風が頻発する一方で、中国や米国の内陸部は、砂漠化と水飢饉に襲われる。両大陸では、さらにはアフリカ大陸や南米でも農業生産が困難になる。そうした中で、世界中を襲う水飢饉を救うのは、日本の海水を淡水化する技術である。
現在、農作物を輸出している国(米国、オーストラリア、ブラジルなど)が、10年後に農業生産で優位に立っているとは限らない。日本や東南アジア諸国のように、いまは風水害に悩まされている国は、皮肉なことに水量が豊富である。だから、農業生産では優位に立つこともありうるのだ。連作障害がなく水を多用する米作りが優位な時代が到来する。
→ 事態は、この方向でまさに進行中である。(◎)
(2)わが国の食料の自給率は上がる
食の未来については、原則として、極端な輸送園芸(エネルギーを多投入する輸送方法)が終わりを告げる。その土地で作ったものをなるべくその土地で食べる「地産地消」が当たり前になっているだろう。食品メーカーの一部は、そうした流れに対応できるような技術を開発する。分散型の食品加工スキームであり、そうした食品加工技術の開発に投資する。
日本は、鮮度や味の良さを必要とする食品の半分を国産でまかない、保存性が高い食糧の半分を輸入で賄うようになる。したがって、食料の自給率は自然に上昇するようになる(40%→65%)。その背後には「食料安保問題」がある。飢饉が到来すれば、他国は助けてはくれない。未来の戦争の最大のリスク要因は、エネルギー資源の確保もさることながら、基礎的な食料の確保である。
→ ウクライナ・ロシア問題、中国と北朝鮮の動向は、この動きを支持している。(◎)
(3)自家発電の仕組みが普及する:原発は「フェードアウト」へ
エネルギーに関しては、10年後は化石燃料に頼らない方式が確立しているだろう。もちろん、現在の原子力発電の仕組みは自然に消滅していく。当面の原発ゼロを否定している政治勢力も、長期的には「原発ゼロ」では一致している。代替エネルギーは、太陽光や風力・地熱発電、自家発電などとの組み合わせになる。
(*)ここまでは、1月1日の午後に書きためていたものです。つづきは、マラソン練習のあとで、、、
→ 原子力発電は、緊急事態で復活維持されている。自家発電的な仕組みの普及は当たっている。(△)
(4)「3F(スリーエフ)生活産業」の未来は明るい
デフレとディスカウントの20年はすでに終わっている。この先の10年は、生活を豊かにする技術と生活産業の時代である。周囲を見てみるとよいだろう。高収益なビジネスは、独占的なIT技術を持った一部の企業(アップル、グーグル、ヤフー)ではあるが、長期の競争力と持続的な成長を考えると、彼らの優位性はそれほど盤石ではない。結構、ちょっとした環境変化には脆いものである。
結局、人々から長く支持をされている製品やサービス(事業)は、わたしが15年前に定義した「3F産業」である。ファッション(衣料品)、フード(食品)、フローラル(花=住生活)。なおかつ、付加価値を生み出すブランドが優位に立つことができる。この原則は意外と変わっていない。
「3F生活産業」は、わたしたちの毎日の生活に根付いている。そのビジネスモデルやブランドは、一見して簡単にコピーできるように見える。ところが、実店舗や商品(重さ)を人間がデザインしながら開発するので、競合は模倣に時間がかかる。システムの背後では、人間が現場で働いている。人間を育てるシステムが機能しなければ、商品もブランドも完成できない。
→ まだ顕著でないが、3F産業の強みは、コロナ後で明らかになってきている。(◎)
(5)上手な「未来型の提携」がビジネスの成功を決める
ここで言う「提携」は、従来型の「戦略的なアライアンス」(Strategic Alliances)とはニュアンスが異なる。従来型の戦略提携では、既存の組織同士がある程度の独立性を保って、なおかつ共通の目標を定めて戦略的に協働することを指している。そのとき、戦略的な提携の外側には、競争的な別の提携グループが存在している。
たとえば、海外の事例では、メーカー(P&G)と小売り(ウォルマート)の組み合わせや、メーカー(コカ・コーラ)とサービス業(マクドナルド)のセットがそれである。これ以外にも、メーカーと小売り・サービス業の間で、戦略的な提携は枚挙にいとまがない。
わたしが定義する「未来型の提携」に一番近いのは、ユニクロと東レ(商品開発)、7&iと食品メーカー(チームMD)、NTTドコモ(携帯プラットフォーム事業)とらでぃっしゅぼーや(有機自然宅配事業)+ABCクッキングスタジオ(料理教室)の組み合わせである。前者の2つの事例は、商品開発における長期のアライアンス、後者の事例は、プラットフォーム事業にサービス組み立て部品として別の事業会社が参画するケースである。
どちらにしても、ユニクロ、7&i、ドコモが「チャネル・スチュワード」の役割を担っている(参考:小川訳『流通チャネルの転換戦略』ダイヤモンド社)。後者の事例は、組織的には資本関係を保持しながら、現場は別組織が運営する。
→ 預言した通りに提携関係が進んだわけではないが、広い意味での提携関係は、社会に浸透してきた感じがする。(◎)
(6)中・韓は成長を終えて国際競争力を失う
中国と韓国は、早期に(3年以内に)経済的な優位性を失うだろう。
近々に、韓国が採用してきた「一強育成政策」のつけが回ってくる。現代自動車、三星電子、LG、アモレパシフィック社(化粧品)など、国内で一強を保護育成する産業政策は、トップ企業が危機に瀕するときはリスクになる。国内産業に複数の”余分な”競争相手を持つことは、経済のグローバル化の時代には不利だと言われてきた。
ところがである。ウォン高に対する韓国企業の対応を見てみよう。為替で優位に立っていた条件は、そのまますべて逆にも作用する。長期的な競争力の源泉は、本当の意味での製品ブランド・技術開発力である。そして、変化に対応し続けることができる組織力である。わたしの予測では、業績不振に陥った韓国企業を救うのは、米国企業である可能性が高い。本当は、日本企業であってほしいのだが。
中国経済は、2014年から2015年にかけてバブルが崩壊するだろう。誰に聞いても、「いつになるのか」のタイミングの問題らしい。不動産バブル・賃金バブルがはじければ、成長率が6%から一挙にマイナスに転じてしまうこともありうる。日本の経験からは、長期にわたってすべてが停滞することになるだろう。
中国のバブル崩壊に備えて、いま日本企業は中国事業から撤退を始めている。反日運動、賃金・不動産の高騰による事業の採算性を指摘する向きもあるが、撤収の隠れた理由は、背後に迫っているバブル崩壊の足音である。崩れるまでは、永遠の繁栄をわたしたちも信じていたものだ。韓国の少し前を思い出してほしい。
→ この予言をしてからも、中韓の経済はしばらく好調だった。不動産バブルも弾けることなく、10年近くが経過した。しかし、さすがに直近では中国経済の不調が叫ばれている。資本が逃避し始めている。韓国も同様である。(◎)
(7)二つの宿題
わたし自身でも、以下のふたつの課題にはうまく答えることができない。だから、ブログ読者に質問として投げかけてみる。宿題を与えて、2024年の大予言を終えたい。かなり無責任かもしれないが(笑)。
課題1:
以前から、日本社会の高齢化を産業的に救うのは、「アジアから移民」と言われてきた。現実問題として、東京の都心部では、アジアからの短期ビザ就労者(研修生名目や観光ビザで入国)がサービス業を支えている。以前は、地方の製造業がブラジルやアジアからの移民によって支えられていた。
この傾向は、今後も続くのだろうか? 日本は正式な社会政策として移民を受け入れることにゴーサインを出すのだろうか?
→ 予想していたように、アジア新興国の経済成長とコロナ禍、それと最後は円安で、日本とアジア諸国の間の賃金格差が解消しつつある。移民問題は、結局は、経済的な比較優位で半ば解決しそうだ。
課題2:
最後は、教育サービスの国際競争力についてである。日本人は英語が苦手で、グローバルに活躍できる人材の育成も不十分である。逆に、海外留学生を十分に受け入れているとは言い難い。だから、教育面で国際競争に勝ち残ることが困難だと言われている。この傾向が、日本国の国際競争力に与える影響はいかに?
→ 日本は、教育面で国際的な優位性を失いつつある。逆転するためには、抜本的な対策が必要なのだが、反転の気配は見えていない。残念だ。