純子さん(義母)はお寿司が好きだ。それもスシローの大ファンである。理由はよくわからない。想像するに、末娘(カコさん、2013年逝去)の子供たちが、学生時代に環状7号線沿いの「奥戸店」でアルバイトをしていたからではないかと思う。歳をとると、行動が習慣的になっていく。
いまでも毎週日曜日は、ふたりの実娘(うちのかみさん、長女のキヨコさん)と連れ立って、環七沿いのスシロー奥戸店でお寿司を食べる。いまやそれが、ばばちゃんにとっては数少ない楽しみのひとつになっているようだ。
純子さんは、スシローの頭に「お」をつけて呼ぶ。歳をとると、ひとは子供のときに戻って、どことなく言動がかわいらしくなるものだ。いつから「おスシロー」がはじまったのかはわからない。
かみさんの記憶によれば、カコさんの旦那さん、タカシくんが「おスシロー」の火付け役だったらしい。そういえば、タカシくんはときどき純子さんをからかうことがある。
きっと、真実はこうだったのだろう(わたしの妄想ですが)。
ある日曜日、カコさんとタカシくんが、純子さんとお昼を食べることになった。スシローの奥戸店では、ふたりの息子(タクちゃん、ケイちゃん)がアルバイトで働いている。
タカシくん:「ばばちゃん、お昼、何にする?」
純子さん:「わたし、お寿司がいいなあ」
カコさん:「じゃ、タクとケイがいるから、スシローに行こうか?」
純子さん:「そうね、ばばちゃん、おスシローがいいわね」
そういえば、いつのころからか、純子さんは自分を「ばばちゃん」と呼ぶようになった。
タカシくん:「お寿司だったら、ばばちゃん、お元気寿司も、おクラ寿司も、お銚子丸もあるよ(笑)」
そもそも、純子さんは耳が遠いこともあって、タカシくんにからかわれていることには気がつかない。
純子さん:「やっぱり、お寿司は、おスシローだわね」
*落語「目黒のさんま」に、この話を掛けてあるのです。おわかりいただけましたでしょうか?