友人の辻中俊樹さんと、6月に新潟県長岡市の岩塚製菓を訪問した。感想文をブログにアップした https://kosuke-ogawa.com/?eid=5785#sequel)。それを読んだ辻中さんが、ご自身の「コメを洗う」というブログに、わたしの印象記を2度引用してくださっている。辻中さんの「お米ブログ」は、https://www.komeoarau.com/ である。
あまり余計な解説はなしで、そのままのかたちで辻中さんの文章を引用する。
最初のブログは、6月30日付になっている。タイトルは、
「水をいかし、水にいかされる」 ― 小川先生「岩塚製菓の主力工場を視察」ブログより―
1. 「田舎でよく食べた、短冊状の炙り餅」
縁があって法政大学名誉教授の小川先生に、沢下条の工場にお越しいただき、糯製品の生地作 りから焼き上げまでをご覧いただくことになった。その視察に関する所感は、6/8 付の小川先生のブログに詳しく書かれている。 (URL)
「(略)型抜きされた生地からゆっくり時間をかけて水分を抜くため、わざわざ3回の加温乾燥 工程を繰り返す。糯米(もちごめ)から作るおかきは、うるち米から作るお煎餅よりも数倍の手間 がかかる。粘り気のある糯米の場合は、ある程度の厚さに成型しようとすると水分が抜きにくく なるからである。(略)
もち米を使用しておかきを作る工程は、時間と手間がかかる。だから、他社 はあまり手掛けたがらないらしい。それはそうだろう。生産管理については素人の私が見ても、 岩塚製菓の作業ラインは複雑である。けっこう制御がむずかしそうだ。
しかも、お米もサイズや組成や含水量が様々で、材料が一定ではなさそうだ。微妙な感覚で(ここは勘が働かないとだめそう)、温度や水分を数値制御していくのだから、工程管理者は気が休ま らないだろう。(略)」
餅製品を作っていく工程における水分のコントロール、そのつき合い方についてとりわけその プロセスを鋭くご覧いただいたことになる。そしてこのような感想も述べられている。
「(略)田舎のおかきの製造ラインを見ていて、私は既視感(デジャブ)を感じた。秋田の田舎で、 子供のころによく似た作業風景を見ていたからだ。(略)土間で蒸篭(せいろ)で蒸かした大きな座布 団サイズのお餅をおばあちゃんが短冊サイズに切っていた。糯米の短冊を稲わらで数珠つなぎに して、裏にあった蔵の天井からぶら下げておく。自然乾燥した餅の表面からは粉が吹いてくる。
子供のわたしたちは、乾いた短冊状の餅を、囲炉裏や七輪で炙って膨らませた」そうである。
これがまさしくお米のおいしさの原点そのものだといえる。それを可能な限り工業製品として 再現するプロセスそのものが工場のラインといえる。
2.「水と共に歩む」
米菓作りというのは、とどのつまり「水をいかし、水にいかされていく」ことそのものだといっていい。いいかえれば「水と共に歩む」ことである。
含水量が 15~16%である丸粒のお米がまずはスタートである。保存期間が長くなるほどこの水 分値は 15%近くに下がっていく。だから精米を終えたばかりの丸粒の原料が大切であり、それで も産地や米の種類などによって水分値は微妙に異なっている。ここでの目利きからが日々の歩み なのである。
これを次に浸漬を経て含水量を 40%くらいにまで上げていくことになる。ここでの水のすわせ 方も日々の条件にあわせて調整し、蒸しのところで 45~46%まで水分値を上げていくことになる。 原料としてのお米の含水量としてはこの段階がマックスになる。もちろんここでも微妙な変化を つけたり、加工方法がいくつも工夫が重ねられていく。 このようなプロセスを経て水を吸収した生地を、餅生地であれば急冷して硬化させる。ここで の生地は硬いけれどたっぷり水分を吸収した状態である。次にここから水分を抜いていく、つま り乾燥させていく工程に入る。生地が厚くなればなる程、この乾燥の工程で時間と手間がかかる。徐々に水分を抜いていかなければ、焼き上げなどに入った時に安定した加工ができないのだ。
表面からの水分が抜けていっても、その内部には水分が残っている。ここでの手間暇を惜しむ と品質の高い安定したものができないのである。4~5%ずつくらい水分を落とすプロセスを繰り 返していくことになり、最終的には 30%弱くらいまでに全体の含水量が下がったところまでが生地作りの肝の部分ということになる。
そしてこの生地を焼き上げなどを経て最終的に 2%くらいの含水値になったところが、米菓と しての仕上がりということになる。これが少し値が上がると、食べた時に湿気た感じにつながってしまうことになる。 お米そのものがもともとは水にいかされて生まれでてくるものである。そのお米をまずは稲刈 りの後、乾燥をさせていく。天日干しもあれば、機械乾燥もあるがたっぷり含んでいる水分を落 としていく。これは保存性とも関係してくる。
そして 15~16%の含水値になった米の丸粒を、再 び水と共に歩ませることで米菓が生まれでることになる。 「水をいかし、水にいかされる」、つまり「水と共に歩む」ことにこだわり抜いた結果こそが、 岩塚が生みだすことのできる米菓のおいしさの原点だといえる。