女性向け衣料品チェーンの「(株)バロックジャパンリミテッド」が、昨年10月から観葉植物の専門店「SHEL’TTER GREEN and DELI」を始めている。本業は、アズール(AZUR)、マウジー(MOUSSY)、シェルター(SHEL’TTER)など、ギャル系のアパレル小売りチェーンである。観葉植物とデリカテッセンは、事情多角化の一環である。
元院生たちの転職先が、なぜかフラワー雑貨や、植物に絡んだビジネスになることが増えている。偶然ではないだろう。わたしの影響が多少はあるように思う。観葉植物の専門業態(SHEL’TTER GREEN and DELI)のことは、最初は雑誌か新聞(たぶん日経MJあたり)で知ったのだが、数年前に大学院を卒業した岩佐一生くん(経営企画副本部長)の会社(バロックジャパン)が事業を手がけていることがわかった。
コロナ後にユニクロが切り花の販売を始めて、都心の旗艦店では花販売が絶好調である。普段使いの花や植物が日本人の日常生活の中に自然に入り込んできている。バロックが観葉植物の店を始めたのも、動機は似たようなものである。コロナ中に外出ができない状況の中で、社員の女子たちに「コロナでよく買うようになった商品は?」と尋ねたところ、売り上げが伸びていたのは、中食(テイクアウト)と花や植物だった。
もともと戦略企画部門が、会社として事業多角化の候補分野を探していた。バロックは衣料品のチェーンである。衣食住で手掛けていない分野は食と住になる。食関連で他社があまり手がけていない分野にデリカテッセンがあった。住関連では、植物とインタリアが候補になった。
調べてみると、駅ビルや都市型のモールには、青山フラワーマーケットや日比谷花壇が店舗をもっている。競争が厳しそうだ。アパレルが入り込む隙間はなさそうだった。
ところが、昨日訪問したような郊外型のショッピングモール(アリオ川口)には、観葉植物の店がほとんど入っていない。というわけで、観葉植物の専門店ブランドの「シェルターGreen and Deli」を業態開発することになった。
昨日、インタビューさせていただいたのは、店舗開発部のディレクター、大芦信彦部長(Green and Deli)。大芦さんによると、「いまはアリオ川口1店舗だけだが、将来的には複数店を展開したい」とのことだった。アリオ川口のショップは、デリカ部門と合わせて、売り場面積が約50坪。女性社員やパート従業員さんなど9人で運営されていた。
特筆すべきは、衣料品のリサイクル素材で観葉植物用の土を作って販売していることだろう。衣料品を再生加工して土を作るのは、SDGsの流れである。植物の仕入れと女性社員の教育は、花業界から採用した高島敦さん(Greenグループ長)が担当している。
埼玉県川口市は人口が57万人、隣りの東京都足立区が60万人。アリオ川口は120万人商圏のど真ん中に立地している。自宅で植物に接触するようになった若い消費者(20代~40代)だけでなく、シニアのご夫婦も買い物をしていた。ジャングルのように植物に囲まれた売り場には、休憩用のソファーが置いてある。いい値段の家具らしい。たしかに座りここ地がよかった。
大芦さんと高島さんが来るのを待っている間に、デリ部門のカウンターでサラダと唐揚げを注文した。820円也。観葉の売り場では、カップルがソファーに腰掛けて話し込んでいた。その斜め隣のソファーに座って、わたしは注文したサラダと唐揚げを食べた。
緑に囲まれてリラックスして食事ができる空間はなかなかのものだ。それでも、SHEL’TTER DELIの方は商売が難しそうだった。対照的に、GREEN部門のほうは、そこそこの実績を残せていそうだった。
例によって、勝手に商売を推測してみた。アリオ川口の売上は、年商200億程度(標準的な500坪タイプの食品スーパーの10倍)。客単価を2000円とすると、年間の来館者は約1000万人。一日当たりで3万人(平日の来店数は2~3万人、土日・休日は5~6万人程度だろう)。グリーン部門(SHEL’TTER GREEN)のレジ客数は、来館者の0.1%として平日で30人程度。
モールの玄関入口左に、「メルシーフラワー」がショップを構えている。切り花主体だから、来館者の0.3%が来店するとしてレジ通過客数は90人。観葉植物のショップは、入口右側の開放的な通路沿いに売り場が並んでいる。現状では、0.1%程度の来店率だろう。平日のレジ客数は20~30人、土日は50~60人程度(個人的な推測)。
ただし、店内の様子や植物の品ぞろえを見ると、潜在的な需要はこの2~3倍はありそうだ。1年後には、ビジネスとして成り立つように思う。帰り際に、わたしからの提案してみた。観葉植物の引き取りと再生をするビジネスを考えてみては?である。なぜなら、高島さんのが話されていた中に、「観葉植物は一度買ってしまうと、再購入するにも置き場所がなくなる」。
リピートがむずかしいなら、古い衣料品を引き取るように、新しい植物と交換したり、弱ってしまった観葉を引き取ってあげたらどうだろうか?せっかく、売り場で古い衣料品を再生土壌にして再利用しているわけだから。これこそSDGsそのものだろう。引き取り再生は面倒臭いが、固定客を逃がさない上手な引き留め策にもなるように思う。
女性たちの意見(アンケート調査)が、バロックがグリーン事業を手掛けるきっかけを与えた。そして、アパレル企業が接客サービスに向いているのはまちがいない。高島さんが興味深い指摘をしていた。高島さんがバロックに転職してくる前は、都内(南青山)に本社がある観葉植物の専門店(IN NATURAL)で働いていた。9店舗を展開する観葉植物の唯一の大手チェーン店である。
採用面接で、アパレル企業から転職してくる若い女性がいたらしい。「植物に関する知識なくても、例外なく、彼女たちは商売が上手だった。接客ができたから、客がたくさんついて売り上げもあげられていた」(高島さん)。だから、今度のバロックでも、高島さんが教育をきちんとできれば、接客サービスではプロの彼女たちは植物をよく売りこむことができるだろう。
アパレル企業のもうひとつの強みは、デザインと店舗の雰囲気づくりのようだ。売り場のデザイン力は半端ではない。もともとデザインのセンスがよいのだから、緑が持つ力を存分なく利用することができる。観葉植物を扱ってきた店舗のように、「モノ置き場」にはしないだろう。
顧客にとってリラックスができる、雰囲気の良い空間を作ることができるのは、アパレル企業ならではの強みである。青山フラワーマーケットの店舗が気持ちが良いのは、そのデザイン性から来ている。それ以上に、アパレル企業は店舗デザインのプロフェッショナルの人材を抱えている。いままでにない業態開発が出来そうである。したがって、この業態は、将来的には大いに伸びそうな気配がある。
<参考>アリオ川口店、1Fの店舗様子