その道のプロはちがうものだ。「富山わさびプロジェクト」の仕事で、生命科学部の津田新哉教授と一緒に、糸魚川のわさび栽培施設を視察してきた。渋谷社長(SKフロンティア)が病害虫対策で困っていると聞いていたので、法政大学の応用植物科学科主任教授の津田先生にアドバイスをお願いすることにした。
津田先生は、生命科学部植物病理教室の西尾健先生の後任である。病虫害が専門の津田先生を、元同僚で友人の西尾先生から紹介していただいた。驚いたことに、津田先生が農水省に在籍していたころ、富山県の農業試験場で「チューリップの土壌障害の研究」をされていた。
わたしも、短い期間ではあったが、「日本チューリップ協会」(富山県)の会長を務めていることがある。北陸新幹線の中の会話で、偶然の「富山つながり」を知った。早速、意気投合してしまった。そういえば、トルコ政府にチューリップの講演で招待されて、アンカラ特急に乗ったことがあった。
あのときは、ボスポラス海峡でフェリーに乗って、「焼きサバサンド」なるものを食した。調子に乗って、地元のタクシー運転手に「ぼられた」ことがあった。懐かしいトルコツアー、、、そんなことを思い出していた。
ところで、津田先生には、澁谷社長に温室を案内していただいたあと、病害虫対策について相談をしていただいた。津田先生は、法政大学に移籍する前は、農水省で病虫害対策の専門部隊を統括する立場にあった。チューリップの他に、トマトやパプリカの病害虫防除を専門としている。
「わさびは専門外なののですが、、」と謙遜されていたが、わさびの栽培に関する文献などを事前に読まれていた。きちんと準備をされていることなど、津田先生のお人柄がよくわかる。わさびの温室(12棟)を一渡り見てから、澁谷社長の病害虫対策の現状をヒアリングされた。そのあとで、害虫や病気の防除についてアドバイスをされていた。
わたしは、ふたりの会話を横で聞いていたが、プロフェッショナルはやはり違うものだ。津田先生が指摘していたのは、使用している薬剤についてではなかった。たとえば、うどん粉病にはハーモメイト、アブラムシには気孔閉塞材のフーモンなど使用している。しかし、大切なのは薬剤の選択だけではなく、防除のための温室環境の整備や作業手順の仕方が重要だということだった。
例えば、アブラムシの防除について、こんなアドバイスをされていた。津田先生は温室の中を見て、枯れた下草がそのままに残っていることを指摘していた。アブラムシは、元気なわさびの葉の裏で繁殖する。薬剤は葉っぱの裏に直接あたるように噴霧しなくてはならない。
ところが、枯れた葉が残っていると噴霧の邪魔になる。結果的に、噴霧作業の効率を上げるには、その前に枯葉を除去する作業が必要になる。それを怠ると、防除ための薬剤散布作業が無駄になってしまう。
澁谷社長が驚いていたことが一つあった。いつも澁谷さんは、「うちのわさびは元気なんで、葉っぱも茎も根っこも元気なもんで」と、葉っぱに手を入れていなかった。ところが、わさびの葉は上部が茂りすぎていると、下の方の葉っぱに光が当たらなくなる。光合成が阻害される。
津田先生の見立ては、つぎのようなものだった。「(葉っぱの枚数は多いが、その分)普通の状態よりも葉の形が小さく見えますね」だった。つまり、もっと葉っぱをトリミングすれば、大きな葉に育って光合成が促進される。それなれば、地下茎がもっと大きく育つかもしれない。そして、アブラムシの防除には、葉っぱの枚数が減少する分、薬剤噴霧の効果が上がるだろう。
薬剤の効果以上に、防除の環境を整えることが必要だという指摘だった。同様に、津田先生は、温室の開口部をふさぐカーテンの設置を提案されていた。アブラムシの侵入を防ぐためである。また、防除ネットの穴のサイズを、現状の3ミリから1ミリに細かくするように指導されていた。
健全な防除体制を構築するためには、パートさんの作業の手順を変える必要がある。
①薬剤の散布前に枯葉を除去しておくこと、
②光合成を促進するために繁茂した余分な葉を刈り込むこと、そのために、
③どのくらい葉を落とすのがよいのか実験をしてみることなど。
④なぜそうするのかを含めて、全体の作業手順をマニュアル化すること。
作業手順の標準化と実験結果の積み上げは、この先に、富山で大規模な温室群を建設して行くときに、指導普及の肝になるだろう。津田先生は、富山の農業普及所の方をご存じのようだった。わさびの事業が始まる前から、富山県と連携を図ることを提案されてくださった。
富山さわびprojectに、大切な顧問役を見つけることができた。わたしたちはラッキーである。