【特別記事】「横浜花博2027有識者ヒアリングから(上):花博のコンセプトと人材育成」『JFMAニュース』2022年5月号

 横浜花博が2027年に開催されることになった。場所は、横浜市郊外の瀬谷区。広大な敷地が米軍から返還された。その跡地で、1990年の大阪花博から37年ぶりに、花と植物をテーマにした花の博覧会が開催されることになった。A1と言われる、国際的にも最高位の博覧会である。

 

 花博のコンセプト作りに関して、推進委員会から意見徴収を受けた。その時の記録を残しておくことにする。インタビュー記事が掲載されているのは、『JFMAニュース』(2022年5月号と6月号)。今回は、5月号の記事(上)を紹介する。

 

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「横浜花博2027有識者ヒアリングから(上):花博のコンセプトと人材育成」『JFMAニュース』2022年5月号

 

 いまから5年後の2027年に、横浜市郊外(瀬谷区)で、国際花博(A1クラス)が開催することが決まった。横浜市は、地元企業の「サカタのタネ」や「横浜植木」から出向者を受け入れ、「横浜花博推進委員会」を設置した。

 1990年に開催された大阪花博から30年が経過している。今回は、それに続く大きな花の博覧会になる。基本コンセプトを作成するために、電通が中心になって、有識者にヒアリングを始めている。JFMA会長として、花博事務局から連絡があり、インタビューを受けることになった。3月14日のことである。

 仲介者は、JFMAの金岡顧問(薔薇園植物園社長)である。当日の議事録(横浜花博推進委員会作成)にしたがって、インタビュー内容を編集した上で、わたし自身が思い描いている花博の基本コンセプトを花業界と一般公衆に公開してみたい。インタビューの前半部分は、JFMAの歩みの回顧になっていたが、長くなるのでこの部分の記録は省略することにした。

 なお、三好副会長(ミヨシグループ社長)と道田理事(スミザーズオアシス社長)からは、3月の理事会の直後に、後半部分(後述)の質問に対して貴重なコメントいただいていた。インタビュー中では、わたしから2人の意見を委員会のメンバーに伝えてあった。議事録中には、三好副会長・道田理事の名入りでコメントが登場してくる。

 

 以下では、オリジナルの議事録を再編集して、2回に渡ってインタビューで答えた内容を掲載する。事前の説明では、11項目について質問を受けていたが、後半部分の質問(①~⑥)とわたしの回答を記録に残しておく。なお、( )内の「電通」「横浜」などは質問者(委員)の所属である。

 

<インタビュー(質問項目)>

① 2027年の国際園芸博覧会で、花き園芸業界にとって国内需要の拡大、輸出の促進などビジネスチャンスに繋げていくには、どのような仕掛けが必要でしょうか?

② 国際園芸博覧会は、花き園芸業界の構造改革、業界人の意識の変容、花き園芸業界の地位の向上、次世代の担い手育成など大きなチャンスと捉えますが、そのために行うべき取り組みについてお聞かせください。

③ 2030年~2050年にむけての、花き園芸産業はどのようになっているでしょうか?市場、仲卸、花き園芸店、スーパーやホームセンター・量販店などの役割と新たにリードするプレイヤーはどういうところでしょうか?

④ 生産者は年々高齢化し、国内自給率が低下している状況を、どう食い止められるのか?それとも、もっと輸入に頼るべきか?国内生産の行く末についてお聞かせください。

⑤ 横浜に広大な土地があり官民連携の事業も検討中ですが、もしこの地に花き園芸の将来の発展のために施設(生産、研究、教育、流通拠点など)などを作るとしたらどのようなものが考えられるでしょうか?

⑥ その他にも、国際園芸博覧会を活用して、花き園芸業界だけではなく、その他の領域の発展に寄与できることについて、お聞かせください。

 

■日本原産、日本での育種などが日本の強みであり国際的には刺さる

(電通)2027年を想定して国内需要拡大や輸出促進のきっかけに博覧会がなればいいという議論があるが、どういう仕掛けが必要だと思いますか。

・発想として「花き園芸業界」というくくりを取っ払って『仕掛け』を考えていかないと従来型の取り組みの枠に終始してしまうリスクが高い。企画段階から「業界外」のメンバーを巻き込んで進めていくべき。(道田理事のコメント)

・ユニクロ(2020年から切り花を3店舗で販売、アジア地区で現在18店舗)に出店してもらうとか、バロック(衣料品チェーンで植物販売を開始)には観葉植物の深化系を出してもらうなどが考えられる。わたしの予想では、5年後(横浜花博開催年)には、ユニクロの花の売上が100億円を超える可能性がある。

・仕掛けというよりも、花そのものをきちんと見せることが大事である。過去の経験では、直前に「〇〇ないですか?」という問合せが多く、展示物も中途半端でコンセプトが無いことがあった。栄養繁殖性のものは、実際は準備に数年を要する。展示で見せるものも、日本原産とか、日本での育種などとして一貫性が国際的には刺さるのではないだろか。SDGsの視点でも、気候変動対応には国内での育種は強みである(三好理事からの回答)

・原種の話をしているのは、その根底にあるのは元サントリーのチーフブリーダーの坂嵜潮氏が20年前から言っていることだ。花だけでなく、彼はリンゴやキイチゴ、アジサイなどの育種も手掛けている。アジサイは日本の山野に原種がある。そういうものを育種素材にしている。今までは海外にプラントハンティングに行って、コロンビアの山の中やブラジルの原野から育種素材を持ってきていた。今はそんなことは許されない。本来的には、日本にある素材を育種素材として使えばいい。

・日本の園芸文化を支えてきたのは、そういう山採りのものだった。それ、横浜花博を良い機会にして、世界に向けて発信するべきだろう。コンセプトは日本の原種にフォーカスして、グローバリゼーションの裏側を逆手に取った方がよい。その時は、花だけでな

 

くワサビなど、日本には野菜や山のものでも固有種がたくさんある。花や根付きの植物、山野草もあるが、われわれがあれと思う原種が日本にはたくさん存在している。それが将来日本の強みになる可能性はある。

・10年くらい経つと、育種の流れは1ラウンドで回る。そのタイミングで、新しいカテゴリが生まれるかもしれない。今まであまり評価されてこなかった草花系のものが、日本の山の中にたくさんある。大きくて色がはっきりしたものが流行だったから、今まではそうしたものが見向きもされなかった。大量生産に向かないかもしれないが、ローカルで価値があるものが次に出てきて、市場が再評価するだろう。

 

■「ジャパンローカル」に注目。これからのインバウンド観光のど真ん中に花や植物がある

・今までグローバリゼーション一辺倒で話を進めてきた。しかし、「ジャパンローカル」なもの(育種素材)だけでなく、日本人の育種家(生産者)は、優れたブリーディングと生産の技術を持っている。こういうものは今まで表に出てこなかった。また、植物の売り方や楽しみ方にも、多様でローカルなものがたくさん存在しているある。ローカルの素材からネタを発掘してきた方がいい。世界中の人たちは、大量に作るものは今やよく知っている。彼らが知らないのは、ジャパンローカルの植物(まだ市場に出ていない日本固有種)である。

・この観点は、観光と同じである。日本に来て一番喜ぶのはローカルのネタである。たとえば、地方(ローカル)でお祭りに参加したり、そこで食事を楽しんだり。そこを植物でも花でも、今まではあまり外に出ていかなかったというものを作っていくとよいだろう。それが自然と将来の輸出につながっていく。コンセプトとして輸出があるのではない。それは、ジャパンローカルに眠っているものを発掘することである。いずれ国際的な地位を確立するネタ(品種)に育っていく可能性がある。2027年の横浜花博は、その出発点を与える。

 

■ジャパンローカルの花を観光や食に絡めて提案する。その最初の見本市が2027年 ~21世紀は植物の時代、と呼んでいる

・わたしは、マラソンを趣味にしている。「(株)アールビーズ」というマラソンの運営会社の取締役をしている。この会社では、花をテーマにした大会を創ろうと提案しているが、既存の大会でも花をテーマにした大会が現している(例えば、「一宮桃の里マラソン」)。日本の観光も、そういうふうにテーマをもったものに変えていったらよろしい。ジャパンローカルの花を、観光や食に絡めて提案する。その最初の見本市が2027年と位置付けられる。

・今までは有名な造園家が作っていた庭園を、地方の風景を取り込むというようなアイデアをとり入れたミニ庭園など、もう少しナチュラルに近いものにしていくのもよいだろう。キーコンセプトは、やはりローカルな日本の文化が下敷きになる。植物の展示の仕方も、単体で植物や切り花を表現するのではない方がよいだろう。自然な環境の中で、花や植物を採り入れた展示に変える。土地も風土も含めて、日本の自然環境の中で花や植物を位置づける。

・いずれは商品の輸出ではなく、第2次インバウンドブームが再来することは間違いない。欧米人が世界中でやってきたことを、アジア人(日本人を含む)もやるようになるだろう。そのど真ん中に、植物や花、森がある。それは、食べ物なども一緒にある。植物を中心に考えると、衣料品は自然由来の繊維から来ている。

・アパレルの元は植物だから、花博にはそういうものが入ってきても違和感はないだろう。広い意味で、花き園芸の仲間である。木材(樹木)も植物の仲間である。植物という括りでいいのではないか。装飾用の花きではなく、植物全般が対象になる。21世紀を「植物の時代」とわたしは呼んでいる。

 

■横浜花博を機会に、花き園芸業界のスターを育てる。格好いい職業になることも大切、SNSなどで知ってもらいうようプロモートしてはどうか

・広く一般の方々の興味関心を喚起するには、これまで以上にいわゆる「スター」「タレント」などを博覧会中のイベントに起用することにしてはどうだろうか。それに加えて、早い段階から、幅広い年齢層のユーチューバーを組織的に「育成」して「関心の『拡散』」をはかることも大切だ(道田理事)。

・また、業界で成功している若手にメディアに積極的に出てもらう。そのことで「憧れの職業」として、花き園芸ビジネスのイメージアップをはかることもできるだろう。ドラマや映画などで、花き園芸ビジネスを取り上げてもらうよう働きかけるのも、いわゆる「いい人材」に入ってきてもらうきっかけとして有効と考える(道田理事)。

・花の業界に入れば、社会的に注目を浴びる機会が開けている。自分がスターになれる可能性がある。若者から見て格好いい仕事だと思われることが大事ではないだろうか?私は大学の先生をしているが、教壇に立って教えるということは、ある意味では「格好いい仕事」を選んだと思っている。花の業界にも、そういうスターが生まれてもいいはずである。

・「造園家ってこんなに素敵な庭を作れるんだ。なんて格好いいだろう!」など。フラワーアレンジメントの人には、スターが生まれている(例、亡くなったジェーンパッカー女史や日本人のアレンジャーの東信氏)。しかし、一般的に花の仕事をする人でも、あるいは、売り出すことができそうな「格好いい生産者」もいる、青木園芸さんなどは、花業界内では脚光を浴びているが、あまり外の世界には出て行っていない。

・前述の坂嵜潮氏は、世界的な花のブリーダーだが、彼は一般には知られていない。金岡又右衛門氏もそうだ。単にテレビと言ったオールドメディアに出るのではなくて、YouTubeやSNSの中で推してあげる。準備期間があと4年ある。そういうことを仕掛けた方がいいという意見だと思う。

 

■博覧会の準備段階から海外研修生を受け入れて、日本のファンになって頂く

・オランダのフロリア―ド(10年に一度開催)で、多くの日本の若者がオランダの現地で研修に参加した。同じように、博覧会の準備段階から海外研修生を受け入れて、日本で学び、花き産業人との交流を図ったらどうだろうか(三好理事)。

・これはすごくいいアイデアだと思う。今のJFMAを支えている若手は、ほぼ40代前後だが、10年おきにやってくるフロリア―ドの研修生として、現地で半年から1年くらい滞在していた。その逆もあるはずである。中国やタイ、インドネシア、コロンビア、エチオピアから研修生を受け入れ、日本の花のファンになってもらうのはどうだろうか?

・オランダのFSI(フローラル・サスティナビリティ・イニシアティブ)のディレクター、ユルン氏は、20年くらい前に、日本のオークション(大田花き)やオークネットに研修生として来ていた。わたしの法政大学(小川研究室)にも、ごく短期間だが研修でいたことがある。長い目で見ると、彼らは日本のファンになってくれる。たとえば、輸出を考えると、岩手からリンドウを輸出する時に、彼がオランダのオークションとつないでくれた。それは若い時に日本に来てくれたからだった。

・横浜花博でも、同じことをやってみたらどうだろう。それが10年経って、日本に戻ってくる。2027年にやると2035年くらいに人材が日本を助けてくれる。お金を出さないとできないが、このプロジェクトの中で募集したり推薦してもらったりして、100人くらいを海外から研修生として受け入れる。建物にお金をかけるよりも、人にお金を掛けた方がよいのではないか。