林麻矢さんと本日、再校ゲラの修正の打ち合わせを行った。京都と東京在住なので、当然のことながら、zoomでのミーティングになる。ほとんどは、「てにをは」を統一するルールの確認だった。3年間の執筆準備。これにて、わたしから原稿が手離れする。2月末の刊行が待たれるところではある。
伝記本の作家として、デビューの準備が完了した。総ページ数は350頁弱、薄くもなく分厚くもない。ほどほどのボリュームの本が出来上がった。定価1950円(税込み2090円)。装丁の青りんごは、かなり素敵なデザインに仕上がった。お楽しみに、、、
デビュー作の『青いりんごの物語』は、これまでの伝記本や社史本とはスタイルが異なっている。この形式がイノベーティブかどうかはわからないが、従来のビジネス本にはない特異な執筆スタイルになっていると思う。大きな特徴が2つある。
一つ目は、文章をノンフィクションの小説風に仕立てたことである。
これまでのわたしは、物書きとしては、典型的なビジネス書のお作法を踏襲してきた。つまり、経営学者として、「マネジメントの巧拙を説明する」という記述スタイルである。
企業の経営がどのように運営されているのか?環境の変化や競合に対して、企業がどのように対応しているのか?そのようにする理由はどこにあるのか?などなど。経営の基本戦略を練ったり、従業員や顧客と良い関係性を構築するための方法を解説するという表現の仕方であった。
今回は、全体の作りを物語仕立てにした。筆者(わたし)が説明役になる場面を限定している。経営者や従業員に、自身の判断を直に語らせることにした。つまり舞台に出演して演技をしてもらうのである。筆者が顔を出すのは、例えば、店舗や工場を見学したり、社員に実務的な判断をインタビュアーする場面に限るようにした。
解説者の立場ではなく、ひとりの観察者として、インタビュアーの立場から話し手の言葉を拾っていくという執筆法を試みた。学者の立場で説明をすることは極力控えるようにしている。経営トップやマネージャーたちに、クリティカルな意思決定の場面での心の在り方(感情)や、彼らが見ていた経営現場の事実を自由に語ってもらうことにした。
二つ目は、物語の劇中に、インタビュー記録を挿入したことである。従来の書き方では、登場人物の発言に焦点をあてるスタイルは採用してこなかった(例外は、『しまむらとヤオコー』小学館、2011年)。
経営者たちのエモーショナルな直接的な反応は、なるべく表現しないように努めた。たとえば、2015年に刊行した『マクロナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社)では、日本マクドナルドの原田泳幸社長(当時)や経営陣に対して、インタビューを行わなかった。
マネジメントが何をどのようにを考えているのかは、入手可能な経営データや雑誌記事、店頭の観察記録から推論することにした。企業のストーリーを、客観的な事実を積み上げることで構成しようと試みたのである。ところが、今回は、まったく逆の方法論を採用した。
『青いりんごの物語』の中では、経営データは、むしろ補足的な位置づけにしてある。企業の成長や事業の転換を導いた要因は、経営者やマネージャーたちの心の在り方(感情)に依拠して説明を試みた。筆者が客観的に分析するのではなく、経営者の行動や言説を頼りに(セリフで語ってもらい)、マネジメントの現実を彼らの言葉で表現してもらうようにした。
初校が上がってきた段階で、ローソンのT部長さんに校正ゲラを読んでいただいた。ローソンの幹部の方に原稿を渡したのは、次回作が「ローソンの3人の歴代社長列伝」を想定しているからである。読後にTさんからは、つぎのような感想をいただいている。
「小川先生 明けましておめでとうございます。青いりんごの物語、拝読致しました。企業史、岩田会長の伝記でありながらも、小説のように心を揺さぶられました。何より、RF1のサラダが食べたくなりました。ローソンの3代社長物語、緊張しつつも、更に楽しみになりました」(T)。
伝記本でありながら、主人公たちの感情表現を通して、企業が変わっていく様子が伝わっているようだ。約50日後に、美しいりんごの装丁本が、書店の棚に陳列される。皆さんの心を揺さぶる物語に、本作品が仕上がっていることを祈るばかりである。