完結した伝記本、全体構想のビフォー/アフター

 拙著『ロックフィールドのDNA(仮)』は、70歳の誕生日の前日に完成した。2018年11月15日に、書籍の構想を岩田さんと古塚さんに提案。その後に3年をかけて執筆が進行してきた。伝記本が構想通りに実現したのか、それとも変更があったのかを検証してみたい。

 

 企画書のV1(初版)は、2018年11月15日に作成されている。つぎのブログで紹介するが、古塚社長と岩田会長に出版の構想を認めてもらうため、本社でプレゼンテーションを行った。以下は、そのときのプレゼン用のメモである。

 メモをもとに作成した出版企画書を、PHP出版に提出した。企画書の日付は、2020年10月になっている。神戸本社での幹部役員のプレゼンから、1年半後に企画書が準備されていた。

 この構想をもって、執筆は本格的にスタートした。その後、社内外の関係者約20人にインタビューを敢行。岩田会長には全4回(12時間)、古塚社長には2回(4時間)、ロングインタビューに協力していただいた。

 

 

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『ロック・フィールドのDNA:食のSPAモデルの構築とRF1ブランドの誕生史』

 出版企画書(V2:2020年10月) 作成者:小川孔輔(法政大学経営大学院教授)

 

1 本書の狙い(基本コンセプト)

 戦後日本の食文化史の中で、世界に通用する大きなイノベーションは、ほとんどが「製品イノベーション」であった。代表的な製品カテゴリーとそれを生み出した企業としては、たとえば、キッコーマンのお醤油や日清のカップヌードル、乳酸飲料のヤクルトなどを挙げることができる。これらは、独自の発想から革新的な日本人起業家が創案したもので、何らかの形で、製造方法や素材の加工技術におけるイノベーションと関連づけることができる。

 それとは対照的に、飲食サービスの分野では、マクドナルドやデニーズなど、海外で生まれたチェーンストア業態を日本風にアレンジして移植したものがほぼすべてである。現在、アジア諸国を中心に事業展開している吉野家(牛丼)や丸亀製麺(うどん)、COCO一番屋(カレー)などは、既存の商品カテゴリーを効率よくチェーン化した業態である。「プロセスイノベーション」の観点からいえば、戦前から存在していた日本食のカテゴリーに、米国由来のチェーンストアの枠組みを忠実に応用した飲食のビジネスフォーマットである。

 1972年に神戸で創業したロック・フィールドのユニークな点は、わずか48年という事業発展プロセスの中で、独自性のある製品群とブランド構築(製品・サービスのイノベーション)、そして製造から流通までの垂直的な事業プロセスにおける革新(プロセスイノベーション:農産物の貯蔵・収穫方法への関与、トヨタ生産方式の食品加工プロセスへの応用)を同時に達成したことである。しかも、そのビジネスシステムは、サラダという単独の製品カテゴリーで、素材調達から販売までの一貫システム(食のSPAモデル)を完成させたことに特徴がある。

 ロック・フィールドが生み出したSOZAIのビジネスモデルは、マクドナルド創始者のレイ・クロックが生み出したハンバーガー・ビジネスの発明に比肩しうるものである。稀代の起業家である岩田弘三の功績は、それまで副菜のひとつだった「サラダ」を主菜の位置に押し上げ、日本古来の惣菜(物に心を込めて作る料理)のコンセプトをヒントに、サラダという商品をまったく新しくカテゴリーに塗り変えたことである。岩田が作り上げたブランドと革新的な事業モデルは、フードビジネス史に長く記憶を留められることになるだろう。

 本書は、「サラダ=SOZAI」が誕生するまでのロック・フィールドの企業史と、いまも進化を続ける惣菜ビジネスの本質(DNA)を記録として残すために企画された書籍である。

 

2 本書の概要

 港町神戸で人気レストラン「フック」を経営していた岩田弘三が、欧州視察旅行でヨーロッパの食文化に触発され、総菜企業「ロック・フィールド」を創業するところから物語は始まる。帰国した岩田は、神戸大丸内にデリカテッセンのコーナーを設けて、百貨店のインショップ形式で高級総菜の販売を始める。デパ地下で大ヒットした総菜コーナーは、全国の百貨店に広がって大ヒットとなる(Ⅰ 創業期)。

 

「Are you fine?」

 バブルが弾けた直後の1992年に、ロック・フィールドのビジネスに大きな転機がおとずれる。それまで、ハレの日の高級デリカを扱っていたビジネスを、日常使いの惣菜をメインにしたビジネスに転換することを岩田は宣言する。売り上げのほとんどを占めていた高級デリカ(ギフト需要が主体)をやめ、周囲の反対を押し切って「RF1ブランド」を核に据えた事業に切り替えていく。路線変更の伏線は、1989年に神戸元町に出店した「神戸コロッケ」(当初は路面店展開)の成功があったが、この時期に、静岡県磐田市にサラダの一貫処理工場を建設する(Ⅱ 成長期)。

 

「Think Food!」

 2001年9月10日(9.11NYテロの前日)、英国でBSE問題が深刻化する。同年7月ごろには、千葉県白井町でBSEに罹患した牛が日本でも発見される(*筆者は、1999年に岩田社長にはじめて会ったが、一連の「食のスキャンダル」を2000年に予言していた@赤坂の全日空ホテル)。それ以前から、岩田は牛肉を中心にした食ビジネスの在り方に疑問を持つようになっていた。具体的には、北海道端野のジャガイモ農家に、収穫時に枯葉剤をまかないよう説得していた。雪印乳業の異物混入問題など、一連のスキャンダルが発覚したことで岩田の説得が北海道の産地で実ることになる(Ⅲ 動乱期)。

 

「Vegetable First」

 2012年、創業40周年を機に、企業理念として「The Mirai Salad Company」を宣言する。明確に野菜を中心に据えた健康な食生活を提唱する。2014年、古塚社長にトップの椅子を譲り、自らは会長に退くも、2016年に社長に復帰。英国のEUからの離脱と米国でトランプ政権が発足したことを受け、不透明な時代の到来を乗り切るためであった。再登板の翌年(2017年)、同社は売上高で500億円を突破。上場以来の最高益を達成したあと、古塚社長にトップの座を譲って再び会長職に退く(事業再構築期)。

 

3 出版までのスケジュール

(1)刊行予定日:2021年6月

 ・ロック・フィールド創業50周年を記念しての発刊

 ・著者:小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)

(2)同時に、出版企画委員会を組織

(3)出版社:「PHP出版」(予定)

(4)「RFサラダミュージアム構想」の企画と連動して取材を進める

・当時の写真・背景資料、関係者のインタビューに相当の時間がかかる?

 

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 この企画書の実現の程度を、事後的に評価してみる。

 

1 内容的な評価

 内容や歴史的な記述は、ほぼ構想通りに実現している。

 ライティングスタイルも想定通り、社史的な伝記本スタイルで書けたと思う。

 

2 出版までのスケジュール

 刊行予定日が21年6月だった。コロナの二年目で(2021年2月11日に)、わたしの足腰が立たなくなった。

 6か月のブランクができてしまったが、その後の夏休みにキャッチアップ。10月22日に脱稿。

 実際の刊行は、いまのところは22年2月の予定になっている。  

 

3 出版社は予定通りに、松下幸之助のPHP出版から。

 実はわたしが企業家シリーズ(中内功や小林一三)に惚れて、PHPにオファーを出したものである。中野参与もPHPからの出版に賛成してくれた。「日本みらいキャピタル」の安嶋社長に頼んで、知り合いの編集者を紹介してもらったという経緯がある。

 

4 総ページ数は、当初は250頁を想定していた。

 完成原稿では、「ビジネスモデルの解説」「年表」「はしがき」「写真集」を除いて、320頁にボリュームが増えている。

 価格は1650円に設定したいた(税込み1800円を想定)。しかし、売価1800円はきびしいのではなかろうか。

 

5 タイトルは未定。スタート時の仮タイトルは、『ロック・フィールドのDNA』。

 PHPがアマゾンに提出している仮書名は、『中食革命』。これは、たぶん採用にならないだろう。