2週間前の6月17日、カインズの池照直樹氏(デジタル戦略本部長)にインタビューさせていただいた。本題は、ホームセンターのDX戦略で、カインズの取り組みを取材することだった。当日のメモを見ている。ここでは、本題から少し逸れるテーマだが、インタビューで感激した部分があったので、それを記録に残しておきたいと思う。日本のIT人材の育成についてである。
以下は、インタビュー後に、わたしが原稿を書くため(DIY協会の会報誌)に残したメモの「目次」部分である。インタビューでは、小さな手帳に短いモンブランの万年筆で、インタビューをしながら手書きでメモを残しておく。
帰宅してから、必要があれば電子ファイル(ワード)に整理しておく。今回は、一週間後にメモを電子ファイル化している。約4ページの長さのメモなのだが、読者の参考のために、どのようなメモを残しているのかを、最初の部分だけ公開する。
ちなみに、<1 来歴>は、インタビュー時のウォーミングアップである。
「インタビュー記録:カインズの池照直樹氏(デジタル戦略本部長)」
日時:2021年6月17日(午後14時~15時)
場所:CAINZ INNOVATION HUB@港区北青山にて
<質問項目>
(もくじ)
*当日のインタビューを始める前に、全体の流れを説明してから、個別のインタビューに入っていく。
1 来歴(スカウト話)
2 なぜカインズだったのか?
3 社内での池照氏(デジタル戦略本部長)の役割
4 現状と未来(展望)
5 デジタル人材の獲得と採用後の配置
6 将来取り組みたいこと(次の一手)
<本編>(インタビューメモ)
1 来歴(スカウト話)
・群馬県前橋市生まれ(53歳)
土屋裕雅会長の2級下@前橋高校(当時から名前は知っていた)
・2015年(エノテカの執行役員時代)、DXの講演を聴きに来ていたカインズの社員と名刺交換
そのあと、すぐに土屋社長(当時)から電話がくる
カインズEC(カード会員)のアドバイザーに就任
・アドバイザー時代(ゆこゆこHDGSの社長)
AWS(アマゾン・ウエブ・サービス)のカンファレンス(2019年11月開催)に、
解説者として土屋社長に同行、
「米国企業から、周回遅れどころか2周も3周も遅れている。
日本の小売業はこのままではだめだ」(2018年1月の「IT企業宣言」BY土屋会長)
その後に米国AWSセミナーへ(「「世界を、日常から変える。」ためにどう戦うか」
『DIAMOND Quarterly』2021年特別編集号、PP.16-27)
・AWS参加時の土屋さんへの感想
「そういう立場にいる人と仕事をすることに」(池照さん)
・経営者としての経験(戦略)
経営トップの仕事は、自らも起業している。
また、エノテカ(執行役員)、ゆこゆこHDGS(VC:ユニゾンキャピタル)で経験。
戦略論は、ミスミとオラクルで学ぶ。
(後略) ~ 4ページ分
ここから本題に入る。
対応するメモで、<5 デジタル人材の獲得と採用後の配置>を文章化してもの。
<5 デジタル人材の獲得と採用後の配置>
<質問の意図>
①土屋会長・高家社長と相談して、社内のITシステムを内製化することを決めた。「人材採用のために、埼玉県本庄の本社ではなく、都心の表参道に拠点(イノベーション・ハブ)置くことにした。
②デジタル化を推進を推進するため、1年間で100人近いIT人材を採用することになった。しかし、どのようにして短期間にどのような人材を集められたのかに、個人的に興味が沸いた。
③採用の方法と最終的なゴールを語っていただいた。やはり明確な理念があった。未来志向の結論に感動した。
この質問に対して、池照さんは開口一番、「計画通りにはいかないです」と述べた。
しかし、まずは<人材獲得のコツ>ついて、明確に次のような原則を教えてくださった。
IT系の人材紹介会社(担当者)に対して、「カインズの戦略を述べる/正しく正確に伝えること」。つまり、スカウトに自信を持って採用をすすめてもらう会社として、カインズの戦略と理念を説明した。
<仕事の特徴>
池照さんが求める人材は、デジタル・マーケティングできる人材とエンジニアの採用。ただし、採用の条件は、プログラムのコーディングができること。
なぜならば、エンジニアのキャリア形成では、日米で大きな差があることを認識しており、日本での典型的なキャリアパスを変えていきたいと考えてきた。例えば、日本では、SE(プログラマー)から、IT企業に勤めるとすると、社内で昇進するためにマネージャーに転身しないと給料が上がらない。つまり、ITベンダーで働く限り、プログラマーでは給料が頭打ちになる。
ところが、米国では、プログラマー(エンジニア)が、例えば、USのマイクロソフトでは、高給取りになれる。なぜなら、テクノロジーが好きでユーザとの直接の交流で、おもしろく仕事が楽しめる環境ができているからである。将来的にも、エンジニアとしての仕事について安心感があるので、スキルも向上する。
<コスト面から見た内製化のメリット>
①エンジニアを 直接採用することで、開発費用が大幅に削減可能がある。
一般的には、開発の仕事を外部(ITベンダー)に外だしすると、150~180万円/人・月。ところが、これを内部化すると、80万円/人・月になる(70万円~100万円のコスト削減効果)。つまりは、システム開発を内部化したほうが、コスト・メリットあるということである。ただし、それだけではない。
② 内部人材のモチベーションアップ(+キャリア研修)
開発がアジャイル(スピードアップ)して、結果は「吉野家方式」(はやい、うまい、安い)になる。
開発を外部委託すると、要件定義(コミュニケーション)に時間がかかる。内製化すると、「Super Engineer」が育つ風土が作れる。池照さんの究極の目標は、ITエンジニアの未来の職場(仕事)を米国流に担保すること。マイクロソフトやオラクルの経験から確信したこと。
③ 開発主体の変化
内部のIT人材が、ユーザ(クライアント)との接点で仕事ができるようになれば、エンジニアは常に新しいテクノロジーを追いかけることができる。IT人材が育つようになり、「永遠に改革を進める」サイクルが回り始める。
④ その結果(吉野家)
(やすい)生産性が向上して、開発費用が安くなる。
(はやい)開発の時間が短くなる
(うまい)開発仕事の品質が高まる
社内にいながら、エンジニアとしてキャリアを全うできる開発組織に変わることができる。
<結論>
池照さんは、カインズのデジタル戦略の要所にいるだけではない。社内でDXを推進する役割を超えて、日本のIT人材の未来の働き方とキャリアパスを変えようとしている。おもしろいインタビューだった。