経営大学院「マーケティング論(前期)」の授業では、4回の「テーマ討議」(グループワークと発表)を行っている。IM研究科の開校以来(2004年~2021年)、今回のグループワークの発表(5月27日:「なぜ人は水族館に行くのか?」)は、過去最高の出来だった。
2021年度の「テーマ討議#1」は、”水族館博士”の原澤恵太講師(元大学院生)の講義を受けて、「日本の水族館ビジネスはどこに向かうのか?」だった。わたしと原澤さんが学生に求めた質問は、以下の3つだった。
①人はなぜ水族館へ行くのか?
(*アンケートやインタビューを得たインサイトを軸に、)
②日本の水族館を取り巻く経営環境をどう理解するか?
(*経営環境をデータ分析することで、)
③水族館にとってのビジネスチャンスはどこにあるか?
(*この先、水族館は何をすべきか?)
を考えることだった。
二日前のリモート授業では、5つのチーム(A~E )が発表を行った。すべてのグループが想定以上の出来栄えだった。果物の収穫のアナロジーに喩えると、これほどまで均質で豊潤な果物が収穫できた年はなかった。17年間で最高の品質のプレゼンだった。その中でもとくに光っていたのが、BチームとEチームのふたつのグループ発表だった。
院生は、当日の小川のコメントを覚えていると思う。Bチームの分析は、「コンセプト」(切り口)が素晴らしかった。水族館がわたしたちに提供してくれているサービスを、動的と静的に分類していたことだ。そこから導きだされる顧客経験として、VRやARの手段を媒介して、アドベンチャー(動的)とリラクゼーション(静的)という対概念の対比を提案していた点が優れていた。
Eチームのプレゼンテーションでは、わたしの来館動機(小川は暗黙で気が付かなかった)が明らかにされて驚いた。確かに納得したのは、すみだ水族館@東京スカイツリーでは、ある時から大水槽の前に、観賞用の椅子が置かれるようになったことだった。わたしは、大きなアクリル製の水槽の前に座って、優雅に泳いでいるジンベイザメを長々と見ていることが多い。それができるのも、水槽の前に座り心地の良い、小さな椅子が置かれているからだった。
小売経営の基本に、「買上点数(売上)を増やしたいなら、店舗の滞在時間を長くする仕組みを導入しなさい」という動線法則がある。水族館についていえば、「ロイヤリティ(来館頻度)を高めたいならば、滞在時間を延ばす仕掛けを考えなさい」とうことになる。Eチームの発見が、すみだ水族館の大水槽の前に置かれた「椅子」だった。
それに加えて、概念として提示されていたのが「(水族館の)空間的な価値」である。この発表を聴いて、わたしは水族館は従来のものから、基本的にレイアウト変更をすべきだろうというインスピレーショを得た。デジタルで水族館の風景を情報配信するアイデアも説得力があった。水族館と動物園、レストランなどの間の提携ビジネスなども視野に入れてのことだった。
その他の3つのチームも、発表内容&プレゼンテーションともに、従来の入学年度と比べて圧倒的に出来が良かった。次回のテーマ討議2(コラボカフェ)や次々回のテーマ討議(アジアNO.1のサラダカンパニー)も楽しみにしている。教師冥利に尽きる発表の日だった。ご苦労様でした。